« 新国立劇場「こうもり」を楽しんだ | トップページ | 映画DVD「少女ヘジャル」「もうひとりの息子」「オマールの壁」「キャラメル」「過去のない男」「街のあかり」 »

「ワルキューレ」「さまよえるオランダ人」「アラベラ」のオペラ映像

 原稿を書く仕事が一息ついたので、オペラのDVDを何本か見た。簡単な感想を書く。

 

766 ワーグナー 「ワルキューレ」2017年 ザルツブルク祝祭大劇場

 昨年の夏にNHKBSで放送されたものと同じ映像だと思う。

 やはり何よりティーレマンの指揮するシュターツカペレ・ドレスデンに驚嘆する。近年のティーレマンのワーグナーははずれがない。圧倒的な力感とうねり。しばしば陶酔と感動に襲われる。オーケストラの力が尋常ではない。

 歌手ではブリュンヒルデを歌うアニヤ・カンペがとりわけ素晴らしかった。美しくて張りのある声で、容姿も申し分ない。美しくて強いブリュンヒルデにぴったり。フンディングのゲオルク・ツェッペンフェルトも張りのある強い声。かなり痩せ型であることを初めて知った。よくこの体型でこんな声を出せるものだ。ジークリンデのアニヤ・ハルテロスも清楚で強い声。フリッカのクリスタ・マイアもとてもいい。ヴォータンのヴィタリー・コワリョフもいい。ちょっと高貴さに欠ける気がするが、こんなヴォータンがあってもいいだろう。ただ、どういうわけかジークムントを歌うペーター・ザイフェルトが絶不調。風邪でもひいていたのだろうか。声が伸びないし、音程もおかしいし、どうにもならない。

 演出はヴェラ・ネミロヴァ。読み替えなどない、ふつうの演出。ただ、第一幕のトネリコの木に空いた穴はまるで女性器のように見えるのは、必ずしも私がその方面に意識過剰であるというわけではなかろう。そこに名剣ノートゥング刺さっており、それをジークムントが抜き、その後、二人が性的な行為に及ぶのだから、考えてみれば至極当然の解釈だろう。

 全体的には本当に素晴らしい。ザイフェルトさえ本調子だったら、歴代最高レベルの「ワルキューレ」の映像になっていただろう。

 

599 ワーグナー 「さまよえるオランダ人」 2016年 マドリード王立劇場

 パブロ・エラス=カサドの指揮がかなり個性的。アクセントが強く、テンポも速い。木管楽器を強調し、まさしく疾風怒濤。それはそれでものすごい迫力だが、私としては、実はちょっとくたびれた。そんなに攻めまくられると、少々疲れてしまう。録音の仕方にも原因があるのかもしれないが、音が強すぎるのを感じた。

 歌手陣はそろっている。まず私はゼンタを歌うインゲラ・ブリンベルイに驚いた。初めて聞く名前だが、ワーグナー歌手として最高の部類に属すると思う。映像を見たところではあまり若くないように思える(しかし、遠目には、十分に若くて美しいゼンタだ)が、なぜ世界に名前が知られていなかったのか不思議だ。強靭で美しい声。バラードの歌やオランダ人との二重唱は素晴らしい。いっぺんでファンになってしまった。

サミュエル・ユンのオランダ人はちょっと音程が不安定だと思ったが、声の伸びは凄い。クワンチュル・ユンのダーラントも実に安定。この二人の韓国人歌手が世界のワーグナーのバスを引っ張っているのは、日本人としてはとてもうらやましい。もう一人、エリクを歌うニコライ・シュコフも強い声で見事。

アックス・オッレの演出意図はよくわからなかった。ダーラントが暮らすのは、どうやらイスラム教徒たちの村という設定らしい。女性たちはスカーフをかぶり、イスラム教徒らしい格好をしている。エリクはまるでイスラム戦士のような格好で銃を持っている。ただ、第三幕でイスラム教徒に見える人たちがワインを飲んでいるのには違和感がある。

最後に、ゼンタはイスラム戦士であるエリクに心変わりを責められ、オランダ人を救いたいと思いながら板挟みになる。どうやらオランダ人を救われないまま海に飲み込まれ、ゼンタは世界の救済を祈る・・・ということだろうか。

このごろ、イスラム教徒らしい姿がオペラに登場することが多いが、腰が引けていて、メッセージがはっきり伝わらない。曖昧なことをほのめかすだけだったら、初めからイスラム教徒など出さなければいいのに…と思うのだが・・・。

それにしても、このソフト、DVDBDの両方で3000円以下だった! こんなに安くていいのだろうか! と本気で思った。

 

619 リヒャルト・シュトラウス 「アラベラ」2012年 ウィーン国立歌劇場

 演奏、演出ともにとても素晴らしい。アラベラのエミリー・マギーがまさにこの役にぴったり。美しくてかわいらしくて、しかも気高い。トマシュ・コニェチュニのマンドリーカも圧倒的と言えるほど素晴らしい。声の力に驚嘆する。ゲニア・キューマイヤーのズデンカも、歌唱に関しては文句なし。ただ、演出のせいなのだと思うが、あまりに落ち着きのない動きが気になる。マッテオを歌うミヒャエル・シャーデも張りのある声が実にいい。ヴァルトナー伯爵のヴォルフガング・バンクル、伯爵夫人のゾリアナ・クシュプラーもとてもいい。

指揮はフランツ・ヴェルザー=メスト。きびきびしていて知的で、しかも十分に官能的。実にいい指揮者だと思った。演出はスヴェン=エリク・ベヒトルフ。場末のホテルの雰囲気がいい。第三幕では、倒錯的な雰囲気を出している。

このオペラを見るたびに思うのだが、愛するアラベラとベッドをともにしたと信じていたのに、実は相手になってくれたが親友だとばかり思っていたズデンカだったと知ったマッテオの気持ちはいったいどのようなものだろうか。すぐにズデンカと愛し合うようになるとは考えられない。もし私がマッテオだったら、1か月くらい心の整理がつかないと思う。この点について納得できる演出に出会ったことがない。今回の演出では、第三幕に女装の男性が何人か登場するので、ゲイ的な要素を強めた演出にするのかと思ったが、そうでもなかった。

ともあれ、心から満足できる「アラベラ」だ。

|

« 新国立劇場「こうもり」を楽しんだ | トップページ | 映画DVD「少女ヘジャル」「もうひとりの息子」「オマールの壁」「キャラメル」「過去のない男」「街のあかり」 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/66318719

この記事へのトラックバック一覧です: 「ワルキューレ」「さまよえるオランダ人」「アラベラ」のオペラ映像:

« 新国立劇場「こうもり」を楽しんだ | トップページ | 映画DVD「少女ヘジャル」「もうひとりの息子」「オマールの壁」「キャラメル」「過去のない男」「街のあかり」 »