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見事な若手の弦楽四重奏団、そしてカウフマンの素晴らしい声

 201816日、午前中と夕方、二つのコンサートを聴いた。

 まず午前中に、上野学園石橋メモリアルホールで、「プロジェクトQ・第15章 若いクァルテット、ハイドンに挑戦する トライアル・コンサート1」を聴いた。クラルス弦楽四重奏団(周防亮介・福田ひろみ・島方瞭・森田啓佑)によるハイドン弦楽四重奏曲第67番「ひばり」とヴォーグ・クァルテット(城戸かれん・櫃本樹音・湯浅江美子・櫃本瑠音)による第77番「皇帝」。

 クラルス弦楽四重奏団は、第一ヴァイオリンの周防亮介が美しい音と見事な音楽性で引っ張っていくタイプの演奏を聴かせてくれた。それはそれで一つのあり方だと思う。ただ、ほかのメンバーももう少し個性を主張してもよいのではないかと思った。ヴォーグ・クァルテットのほうは誰かが強いリーダーシップで進めていくというよりは、四人が息の合ったアンサンブルによって一つの音楽を作り上げていくタイプ。それぞれが個性を示し、主張をしながらも明確なグループの音楽性があって、とても良かった。両方とも、若手と言いながらすぐにもプロで活躍できるレベルだが、私は今回の演奏に関しては、ヴォーグ・クァルテットのほうにいっそう共感を覚えた。だが、どちらも長く活動してほしい。頼もしい団体だと思う。

 夕方からは、サントリーホールで、ヨナス・カウフマンのコンサート。伴奏は、ヨッヘン・リーダー指揮による東京ニューシティ管弦楽団。

 曲目は、プッチーニの「トスカ」から「妙なる調和、「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」、ヴェルディ「アイーダ」より「清きアイーダ」、ビゼー「カルメン」より「お前の投げたこの花を」、マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」より「母さん、あの酒は強いね」など。イタリアとフランスのオペラのアリア。アンコールではタウバーとレハールのオペレッタのアリアが歌われたが、一曲もドイツものはなかった。

 プログラムの中に好きな曲がないので、ちょっとケチってB席を購入して、ホールに行ってみたらオーケストラの後ろの方の席だった。歌でこの席はつらい。しかも、私はイタリア・オペラのオーケストレーションの粗さが気になって仕方がないのだが、この席だと歌手の声よりもオーケストラが聞こえるので、いっそう気になる! とはいえ、やはり素晴らしい声だった。後ろの席でもビンビンと響く。カウフマンの何よりもの魅力はピアニシモの美しさだと思う。それを存分に味わうことができた。

 パヴァロッティなどのようなイタリアらしい明るい声ではない。どちらかというとくぐもった独特の声。しかし、知的な歌いまわし。訴える力が見事。素晴らしいと思った。

 とはいえ、私としては、ちょっとこの雰囲気にはついていけなかった。カウフマンは声だけでなく、容姿が抜群なので、女性客が目立つ。チケットが異様に高いためか、後ろの方は空席が目立つが、着飾った女性が前方に大勢押し掛けて、ある種、異様な雰囲気。しかも、イタリア・オペラ的な「ノリ」。オーケストラが鳴っている時の拍手が鳴ったり、歌い終わった直後にブラボーの声がかかったり。

 私はかなり前からのカウフマンのファンだ。が、私が好きなのは、フロレスタンやローエングリンやジークムントやパルジファル、そしてシューベルトなどの歌曲を歌うカウフマンだ。もちろん、イタリア・オペラもいい。それが求められているし、カウフマンのアンドレア・シェニモもドン・カルロもトゥリドゥもカニオもオテロもドン・ジョゼもウェルテルも素晴らしい。しかし、ドイツものを歌うときの知的な歌い回しが最高なのだ。今回のプログラムでは、それを聴くことができなかったのがまことに残念。ドイツ音楽好きからすると、カウフマンというドイツの宝をイタリアに取られた気分! 次の機会にぜひとも、ドイツモノのアリアを歌ってほしい。そして、ドイツ・リートのリサイタルをぜひ開いてほしい。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

ドイツオペラがお好きでプッチーニがお好みではないなど、共感して拝読しています。カウフマンのコンサート、私の感じたことを本当に全て書いてくださったと思わずコメントを送らせて頂きました。オペラを観る層とは違った異様な雰囲気でしたね。前回の冬の旅やシューマン、ワーグナーのリートやリストは素晴らしかったです。ドイツオペラのアリアを聴きたいとアンコールにリクエストしたところ、次回はドイツオペラでと言われたそうです。また来日されるようで楽しみです♪

投稿: peony | 2018年1月 7日 (日) 09時13分

樋口先生こんにちは。やはりカウフマンにはいらしていたのですね。P席だったとは意外です。私は2階正面(後ろの方、A席を奮発しました)でしたので、視界には先生が入っていたのだと思います。
大阪での感想がネットにありましたが、大阪同様、サントリーホールも空席が目立って驚きました。今やときめく全盛期のテナーではありませんか。あのドミンゴ、パヴァロッティなどにくらべ、なんだこの空席は?と腑に落ちませんでした。そういえば、冬の旅のときも空席が目立ちましたね。お値段が高すぎた? そうかもしれませんが、同じようなオネダンのネトレプコは満員だったように思います。
前の席の着飾ったおばさんたちは、私の席からはあまり見えませんでした。しかしドミンゴのときなどに比べ、明らかに追っかけおばさんは目立ちませんでした。
さてコンサートそのものです。樋口先生と同じような感想です。何んだドイツ語の歌がないじゃないかと思いました。カタリはやらずもがな。イタリア人のバリトンがアンコールでローレライを歌ってもつまらないでしょう。
凄い声の凄いテナーとは思いましたが、イタリアオペラはビロードのような艶のある美声で歌ってもらいたいものです。あの野太い声で全編イタリアかフランス物は少し違和感がありました。一番よかったのが「微笑みの国」なら、あのお値段はないですよ。
しかしネットで知ったのですが、冬の旅以前にもカウフマンは来日していたのですね。2000年に日生でコジのフェランドを歌っていたようです。あの声で! 信じられません。

投稿: ル・コンシェ | 2018年1月 8日 (月) 12時36分

peony 様
コメント、ありがとうございます。
そうですか! また来日して、今度はドイツものを歌う可能性が高いわけですね。うれしいニュースです。楽しみです。ぜひとも、ワーグナーか、ドイツ・リートを歌ってほしいものです!

投稿: 樋口裕一 | 2018年1月 8日 (月) 18時39分

ル・コンシェ様
コメント、ありがとうございます。
「イタリア人バリトンがローレライ」のたとえ、まったくもっておっしゃる通りだと思います。
ネトレプコの昨年のコンサート、私が行った日は、かなり空席が目立ちました。カウフマンの時と同じくらいだったと思います。値付けが強気すぎですよね。もう少しだけチケットが安くなって満員になるほうが、みんなにとってよいと思うんですが。
日生のフェランドについては、まったく知りませんでした。とても意外ですね。カウフマンの歌唱は、ドイツオペラ、ドイツリートでこそ最大限に魅力を発揮するのだと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2018年1月 8日 (月) 18時49分

樋口先生、皆様
はい大阪、サントリー、オペラシティ(明後日)3公演とも最前列中央で着飾ったオバさん代表の私です。先生がおっしゃる異様な雰囲気とてもよくわかります。私自身、いつものサントリーホールやオペラと違う異様さを感じていました。

このコンサートは、もともと2016年11月のキャンセルが、2017年8月へ変更となり、さらにキャンセルでこの新年の開催となった次第で、私の手元にはそれぞれ3枚のチケットがございます。私は昨年もロンドン3公演をキャンセルされていますし、ここ15年で国内海外合わせてもう20回くらいはキャンセルされていますのでだいぶ慣れっこになっております。いつでも好きな時に歌ってくれればいいとさえ思っています。

それはさておき、カウフマンが今更イタリアオペラのアリアを歌うのには彼なりの「戦略」があるようなのですが、やはりワグナーで聴きたいものですね。2011年バイエルン来日NHKホールの際にはローエングリン役でしたがやはりキャンセルになり、アンダーの王子様は今は亡きヨハンボータでした。ジークムントやフローリアン(fPからFfへのGoot)も良かったですが、個人的にナマで聴いた中ではフランスものですが彼のものすごい演技力がものを言ったMETのファウスト博士が最高でした。

前回来日のマーラー、シューベルト冬の旅もとても良かったです。そう、声質からいってもバリトン曲も楽に歌えるということです。
明後日10日のオペラシティの公演はカメラが入るそうなので放送もとても楽しみです!

投稿: Tamaki | 2018年1月 8日 (月) 19時06分

Tamaki様
コメント、ありがとうございます。最前列中央の着物姿の女性はやはりTamakiさんでしたか。近眼と老眼と乱視と白内障の初期症状が混じっていますので、自信がなかったのですが、そうではないかと思っておりました。もちろん、Tamakiさんは誰よりもカウフマンのキャンセルの被害受けた人ですので、誰よりも前で彼の歌を聴くべき人だと思います。
3公演の期待が重なったものだったんですね。きわめて知的なカウフマンのことですから、イタリアオペラを歌うのも、もちろん意味のあることなのでしょうが、やはりどう考えても、彼の声と歌い回しにもっともあっているのはドイツオペラとドイツリートだと思います。次を期待したいですね。そして、テレビ放送がありそうだとのこと、楽しみです。

投稿: 樋口裕一 | 2018年1月 9日 (火) 23時17分

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