映画DVD「少女ヘジャル」「もうひとりの息子」「オマールの壁」「キャラメル」「過去のない男」「街のあかり」
中東の映画のDVDを何本かみた。感想を書く。
「少女ヘジャル」 2001年 トルコ ハンダン・イペクチ監督
トルコ映画。元判事ルファトは、退職後悠々自適の生活を送っている。ある時、隣の部屋が警官に襲撃され、そこに住む住民(クルド人の過激派らしい)が殺害され、たまたま預けられていた小さな女の子ヘジャルだけが残される。ヘジャルはルファトの部屋に紛れ込む。ルファトはそのままにしておけずに一日だけあずかろうとするが、ヘジャルの行き先がないのでしかたなしにとどめることになる。初めはクルド人への違和感などから冷淡にしていたが、しばらく少女と暮らすうち、身寄りを失ったヘジャルの境遇に深く同情し、養子にすることを決意する。だが、ヘジャルはクルド人の実の祖父と暮らすことを選び、二人は別れることになる。
老人と幼い少女の心の交流の物語という、かなりありきたりの物語だが、知的で誠実なインテリの中にもクルド人に対する差別意識があり、それが少女との交流によって解けていく様子が描かれて、とてもリアルであり、感動的でもある。トルコ国内で差別されるクルド人の状況がよくわかる。
病院で取り違えられた息子。ところが、それが一人はパレスチナ人、もう一人はテルアビブに住むユダヤ人だった。取り違えは、是枝監督の「そして父になる」と同じ設定だが、家族が敵・味方であり、民族、宗教が異なるだけにいっそう複雑だ。しかも、この映画では息子は17歳になっている。
設定を聞いて予想した通りの結果になるし、ある意味で考えられがちなテーマではあるが、演出が繊細で、テルアビブとパレスチナの状況がリアルなので、二人の息子、その両親、きょうだいの気持ちが理解できて、ひきこまれる。テルアビブで育った息子が、パレスチナの両親の家を訪れ、打ち解けない中、歌を歌い始める場面は感動的だった。
ヘブライ語かアラブ語だろうと思って見始めたら、フランス語だったのでびっくり。フランス系ユダヤ人夫婦(パスカル・エルベ、エマニュエル・デュヴォス)が中心になる物語だった。パレスチナの母親を演じたアリーン・オマリという女優さん、間違いなく何かの映画で見た記憶があるのだが、ネットで調べても出てこない。何の映画だったか?
土地に壁を作り、検問所を作って自由に行き来できないようにし、それぞれが対立しあう愚かさを痛切に感じる。
「オマールの壁」 パレスチナ映画 ハニ・アブ=アサド監督 2013年
衝撃的な映画。壁に囲まれたパレスチナ自治区で屈辱的な目にあわされながら生きている若者たちの物語。オマールはテロに加わり、捕らえられ、拷問にかけられ、スパイになるのを条件に釈放される。それでもオマールは何とか誠実を尽くそうとするが、スパイ網はもっと複雑に仕掛けられており、オマールら幼馴染三人は深みにはまっていく。オマールは愛するナディアを救うために真のスパイであったアムジャドも救おうとするが、アムジャドは卑劣な嘘をついていた。最後、オマールは自分たちをそのようなスパイに仕立てて手玉に取ろうとするイスラエルの担当官ラミを殺す。
これがそのままパレスチナの現実だというわけではないだろう。だが、いたるところに壁があり、同じパレスチナ地区に行くのにも壁を超える必要があり、それらを占領者であるイスラエル兵が我が物顔に支配している状況は現実なのだろう。そして、そこに生きるアラブ人がアムジャドのように卑屈になっているのも事実だろう。人間を裏切り者にしてしまう分断の壁に対する抗議をひしひしと感じる。
なお、ラミを殺す前にオマールの言う「サルの捕り方を知っているか」という言葉の意味がわからなかった。ネットで調べてやっと納得できた。
「キャラメル」 レバノン映画 2007年 ナディーン・ラバキー監督
ベイルートにあるエステサロンが舞台。その店の女性店員さんたちと顧客、近所の人々の恋の物語。監督しているのは、主演女優でもあるラバキー。あまりの女性的視点の映画なので、初めは戸惑ったが、いやはや実に素晴らしい。いくつもの恋が同時並行的にさりげなく描かれるが、そのどれもが身につまされる。男である私(しかも、これまで何人もの女性にはもちろん男たちにも、女心を理解しないヤツだと評されてきた!)も、これらの女性たちに感情移入してしまう。とりわけ、認知症を患った姉を放っておけずに恋をあきらめる初老の女性の姿には涙が出そうになった。
これを見ると、これまで私がベイルートという都市を大きく誤解していたような気がしてきた。少々雑然としたところはあるが、フランス語が飛び交う洗練された都市のようだ。しかも、どうやらキリスト教が広く信仰されているらしい。私のこれまでの知識では、イスラム教徒のほうが多いと思っていたのだが。自分の無知を思い知った。
ただ困ったのは、多くの美女たちが登場するが、その何人かがとても良く似ていて、すぐには区別がつかないこと。それにしても、この主演の若い美女が脚本も書いて監督もしているということにびっくり。まさに才色兼備!
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