京都と姫路 「美濃吉」、映画「幸せな人生の選択」、智積院、姫路城
京都駅前の新阪急ホテル地下にある京料理の店、美濃吉。ここの料理が私は大好きだ。美濃吉は東京を含め、各地にあるが、私は新阪急ホテルの味がもっとも好きだ。時々感動的なほどおいしいと思う。しばらく行く機会がなかったので、機会を探していた。たまたま姫路に住む友人T君が手術をして自宅療養中だというので、それを口実に(T君、ごめん!)、2018年2月7日、京都を訪れることにした。ついでにちょっと観光もするが、目的は美濃吉での食事。京都に泊まって、姫路まで足を延ばす。
2月7日
京都についてすぐに、新阪急ホテルに直行して、美濃吉で昼食。いつものように手ごろな京懐石「鴨川」を食した。うまい! 白味噌仕立てが相変わらず最高にうまい。鰆のみそ焼きもくみ湯葉あんかけご飯もすばらしい。食べに来た甲斐があったと思った。
私は料理についての語彙を持たないし、料理法もろくに知らず、素材についても無知だ。だから、うまく説明できない。ただ、うまいかどうかしか言えない。ともあれ、ここの料理は、ただ単に「おいしい」の先に絶妙のものがある。毎回、私はそれを感じる。「ああ、本当においしい…」とつくづく思う。ミシュランの星付きのお店にも時々行く機会があるが、私はこの美濃吉の料理のほうをおいしいと思うことが多い。
四条付近のホテルにいったん寄って、荷物を置き、京都シネマで映画を見た。
東京では私好みのミニシアター系の映画館は新宿、渋谷、銀座などあちこちに点在している。が、京都では京都シネマでそのほとんどが見られる。そんなわけで、時間があったら、京都シネマで映画を見るつもりでいた。「幸せな人生の選択」とモーパッサン原作の「女の一生」のどちらにするか悩んだが、今さらモーパッサンでもなかろうと思って、「幸せな人生の選択」にした。
カナダから、中年の男のトマスが故郷であるマドリッドにがんによって死を間近にしたかつての親友フリアンをはるばる訪ねる。最期の時間を共に過ごすためだ。トマスは4日間、フリアンと行動を共にしている。フリアンは延命治療をしないことを選び、安楽死をしたいと考えていることが明かされる。フリアンの心配事の一つは老犬トルーマン(この「トルーマン」が映画の原題)を自分の死後、だれに託すかなので、それにもトマスは付き合う。アムステルダムに留学している息子を突然訪れる。そのような交流を描く。死を前にした人間のあきらめ、悲しみ、親子の情、そうしたものを情に溺れることなく、淡々と、しかししみじみと描いていく。かつての舞台のスターで、今もわがままを通すフリアン、友情をもってそれを支える寛大で常識人のトマスという組み合わせ、そして二人と微妙な関係を持ってきた女性たちの存在によって、そうした状況を描く設定ができ上がっている。
フリアンに無理やりおしつけられて、トマスはトルーマンをカナダに連れ帰ることになる。親友だったフリアンの身代わりとして、トマスはトルーマンを死までかわいがるのだろう。生と死、友情、社会における市の意味。そうしたものがすべて描かれる。
人生の最期を垣間見るためにとても良い映画だと思う。私は今、東京新聞・中日新聞で「65歳になったら〇〇しなくていい宣言」を連載している。高齢者についてあれこれと考える状況にある。そのための参考にもなる映画だった。
ただ実は、私は翌日、がんの手術をした友人を見舞うのだった。そもそも私は東京からはるばるかつての親友を見舞うために姫路に向かう途中なのだった。「しまった。縁起でもないものを見てしまった。明日、これと同じようなことにならなければいいが!」と心から思った。
映画をもう一本みようかと思ったが、映画館内が寒くて気力を失った。京都の夜の街を散歩しようとも思っていたが、寒さのために、これも諦めた。さっさとホテルに戻って風呂に入って温まってすぐに寝た。
2月8日
京都まで来てどこも観光しないのはあまりに残念。かといって、寒いのであちこちウロウロしたくない。そんなわけで、私の大好きな場所、智積院に行くことにした。
私は2006年から数年間、京都産業大宅で客員教授を務めていた。京都市内に寝泊まりする場所も確保し、週に2日間通っていた。その間、京都のあちこちを回った。その中でもっとも好きだったのが、智積院だ。そこでみた長谷川等伯の襖絵に驚嘆した。その後、折に触れて智積院を訪れている。今回もそこにだけは顔を出すことにした。
ちょうど本堂で何事かの儀式が行われていた。念仏が唱えられ、20名ほどのお坊さんが集まっていた。どのような儀式なのかわからなかった。堂内に入ってしばらく見ていたが、携帯に仕事の電話が入ったために堂を出た。その後、等伯とその息子・久蔵の描いた襖絵を見た。見るごとに感動する。生命、ほとばしり、死、美。そうしたものの奥深くにあるものを鮮やかに描き出して見せていると思う。
京都駅まで歩いて、その後、新快速で姫路へ。姫路に到着してからは、まずは姫路城を見物に行った。姫路在住の友人T君に連れられてかつて内部も見たが、大修理が行われてからは、新幹線から眺めるだけで、訪れる機会がなかった。駅から歩いて、周囲を見物。
その後、タクシーでT君宅を訪れ、楽しく歓談。手遅れになるところをいくつかの幸運が重なって早期発見につながったとのことで、もちろん前日見た映画のようなことにはならない(ただ、映画の話はしなかった)。高校時代からの友人だが、彼は理系、私は完璧な文系なので、進む方向は違ったが、50年近くにわたって交流を続けている。孫が何人かいて、家族にも恵まれ、定年退職後も自分なりの研究を続けて静かに生活している。素晴らしい人生だ。あと少し療養が必要だということだが、元気になったら、また昔のように一緒に遊びたいと思った。
その後、新幹線で京都に戻り、ちょっと時間があったので、駅の周辺(東寺付近)を歩き回った。寒くなったので、駅に引き上げ、夕方からまた新阪急ホテル地下の美濃吉で食事。
またも鴨川。白味噌仕立てを再び食べずに東京に戻るわけにはいかない。お店の人が、二日連続の同メニュと知って少しアレンジしてくれたのはうれしい。でも、同じものでも、これほどおいしいと何度も食べたくなる。海老芋も最高においしかった。そして、別に注文した一品料理「鯛の兜煮」も絶品だった。骨にしゃぶりついて食べつくした。
満足して京都を後にして、その日のうちの都内多摩地区の自宅に帰った。
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コメント
以前ハーディングの唸り声のことでコメントさせて頂いた者です。
私としてはコンサートやオペラの話でその後も楽しませて頂いたいたのですが、実は美濃吉新阪急ホテル店を絶賛されているのが引っかかっていました。美濃吉は東京など関東でも展開していますし、京都だと本店みたいなお店もあるようなのに、なぜ新阪急ホテル店なのか、一度コメントで質問しようかなとも思っていたのですが、今回詳しく聞かせて頂いて訳がわかってきました。このお店の料理長の腕が特にいいということになるのでしょうかね。
最近私も京都に頻繁に行くようになり、何回かこの店に訪れて白味噌仕立てを堪能しています。濃厚で複雑な味がして確かに病み付きになります。脂のような旨味があるけど味噌なんですよね。そんな感想を話したら脂は入れていないよと仲居さんに怒られ?ました。そうあのあちこち声かけしている仲居さんに私も覚えられています。
東京の方でデパートで和食のお弁当など買って食べることが時々あるのですが、いろいろ試してみると美濃吉のは美味しいと思います。
あと一度新阪急ホテルに泊まる出張パックで安いのがあって利用しましたが、朝食は当然和食。白味噌仕立てが出てくるわけではありませんが、朝から美味しくいただきました。
ということでこのブログをきっかけに新阪急ホテルに入り浸っている私です。
投稿: YAMAMAN | 2018年2月13日 (火) 18時03分
YAMAMAN 様
コメントありがとうございます。
私のブログで白味噌仕立てのおいしさを発見してくださったのでしたら、こんなうれしいことはありません。もっと多くの人に味わっていただきたいものです。
おっしゃる通り、新阪急ホテルの料理支配人の方が素晴らしいのだと、私は思っています。少なくとも、私の舌に合うと思っています。東京やほかの京都の店でも、もちろんとてもおいしいのですが、新阪急ホテルの店は、そのさらに先のおいしさを感じます。
私も新阪急ホテルに泊まって、美濃吉で朝食を食べたことがあります。それも絶品でした。
たびたび京都に行かれるとのこと、うらやましい限りです。私の方はしばらく予定がないので、少し寂しく思っています。
投稿: 樋口裕一 | 2018年2月15日 (木) 09時46分