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「清教徒」「ノルマ」「ルチア」「ロベルト・デヴリュー」「ルクレツィア・ボルジア」「ラ・ファヴォリータ」「三部作」

 イタリア・オペラの映像をいくつかみた。私はずっとドイツ系のオペラを好んできたので、イタリア・オペラにはあまりなじんでいない。初めてみるオペラもいくつかあった。簡単に感想を書く。

 

896 ベッリーニ 「清教徒」 2016年 マドリード王立歌劇場

 エルヴィーラを歌うディアナ・ダムラウが圧倒的に素晴らしい。信じられないような強靭で美しい声。弾力性のある元気な声なので、かよわいエルヴィーラとは少し雰囲気が異なるが、それはそれで思いつめた雰囲気があってとてもいい。アルトゥーロのハビエル・カマレーナは容姿的にはぱっとしないが、声楽面では素晴らしい。リッカルドのリュドヴィク・テジエ、ジョルジョのニコラス・テステなど、全体的に極めて高レベル。

 マドリード王立歌劇場管弦楽団を指揮するのはエヴェリーノ・ピド。時々、妙に頼りない音に聞こえるが、ベッリーニのオーケストレーションに問題があるためかもしれない。エミリオ・サージの演出もわかりやすい。全体的にとても満足。ただ、台本がいかにもご都合主義的で、文学好きの私としてはしばしば苦々しく思う。しかし、イタリア・オペラに対して、いまさらそんなことを言っても仕方がなかろう。

 

899 ベッリーニ 「ノルマ」 2016年 マチェラータ、アレーナ・スフェリステリオ

 ノルマを歌うのはマリア・ホセ・シーリという若手のソプラノ。ダムラウの後にこの歌手を聴くと、やはりその大きな違いを痛感せざるを得ない。幕が上がって時間がたつごとに良くなっていくが、それでも声のコントロールが完璧ではないし、演技もぎこちない。それに対して、アダルジーザを歌うソニア・ガナッシはさすがに安定していて、素晴らしい。ポリオーネのルーベンス・ペリッツァーリもとてもいい。

 ミケーレ・ガンバ指揮のマルケ地方財団管弦楽団は、序曲の段階ではかなり健闘していると思ったが、しばしば頼りない音になった。演出はルイージ・ディ・ガンジ&ウーゴ・ジャコマッツィ。とてもわかりやすくてきれいな舞台だが、取り立てて新しい解釈はなさそう。

 

479 ドニゼッティ 「ランメルモールのルチア」英国ロイヤル・オペラ・ハウス 2016

 素晴らしい上演だと思う。歌手陣は粒ぞろい。その中でも、声楽面ではやはりルチアを歌うディアナ・ダムラウが圧倒的。信じられないような美しい高音。容姿も魅力的。ただ、健康的な姿かたち、躍動的な動きのために、正気を失った女性には見えないのが難点。エドガルドのチャールズ・カストロノヴォも容姿、声ともに素晴らしい。リュドヴィク・テジエのエンリーコも悪役ぶりが見事。ライモンド役の韓国人バス、クワンチュル・ユンも実にいい。

指揮はダニエル・オーレン。とてもしっかりした指揮だと思う。ぐいぐい通していくタイプではないと思うが、少しもだれない。

問題になるのはケイティー・ミッチェルによる演出だと思う。ダムラウが子どもを孕み、どうやら流産したようで、そのショックで正気を失うことにされている。しかも、黙劇でルチアとエガルドがセックスをし、ルチアはライモンドに対してはSM的なセックスを仕掛けるとベッドで殺し、最後、手首を切って自殺する。その様子が映画のように克明に描かれる。それはそれでリアルであり、上質の映画を見ているようだが、そこまでする必要が果たしてあるのか。私にはむしろ邪魔だった。

 

933 ドニゼッティ 「ロベルト・デヴリュー」 2016年 カルロ・フェリーチェ劇場

 とても良い上演だと思う。エリザベッタのマリエッラ・デヴィーアとロベルト・デヴリューを歌うシュテファン・ポップの主役二人が素晴らしい。デヴィーアの高音はとてもきれいで強靭。生で聴くとどんなにすごいことか。ポップもごく若いテノールだが、声に輝きがあり、しかも声量もあるようだ。サラ役のソニア・ガナッシももちろん素晴らしい。

 それに比べると、ノッティンガム公爵を歌うキム・マンスー(韓国人バリトンらしい)はかなり劣る。声が不安定で、演技もぎこちない。まだかなり若いようなので、これからの人なのだろう。この役がもっと充実していたら、最高の上演になっただろう。

 演出はアルフォンソ・アントニオッツィ。エリザベッタは白塗りで現れる。上手い処理の仕方だろう。舞台はとても魅力的。指揮はフランチェスコ・ランツィロッタ。勢いがあって、とてもいい指揮者だと思った。

 

102 ドニゼッティ 「ルクレツィア・ボルジア」 2012年 サンフランシスコ歌劇場

 私は、近年になってやっとイタリア・オペラに親しみ始めたので、知らないオペラがたくさんある。このオペラもその一つだ。初めて映像を見て、とてもおもしろいと思った。きれいなアリアがたくさんあるし、ストーリーもわかりやすく、しかもなかなかドラマティック。ただ、私の知るルクレツィア・ボルジアの史実とは違うような気がするが、まあそこはイタリア・オペラなので、史実と比較すること自体に意味がないだろう。

 さすがアメリカの歌劇場だけあって、レベルが高い。ルクレツィアのルネ・フレミングはもちろん素晴らしい。そして、ジェンナーロを歌う若いマイケル・ファビアーノも実に魅力的。しかも、容姿もいい。誇り高く、無謀で、しかも甘えん坊の男性を見事に歌っている。悪役アルフォンソを歌うヴィタリー・コヴァリョーフも迫力があって見事。オルジーニを歌うズボン役のエリザベス・デションもとても美しい声。

 リッカルド・フリッツァの指揮もきびきびしていてとてもいいし、ジョン・パスコーの演出も時代の重みを描き出して、雰囲気がある。傷が見当たらない。全体的に大満足。

 

 

109 ドニゼッティ 「ラ・ファヴォリータ」(フランス語版)2016年 バイエルン国立歌劇場

 このオペラを映像付きで見るのは初めてだと思う。とてもおもしろかった。

 レオノーラのエリーナ・ガランチャとフェルナンドのマシュー・ポレンザーニがやはり圧倒的。声が伸びているし、声の表現力にも驚く。ガランチャはあまりに美しい。アルフォンソ11世を歌うマリューシュ・クヴィエチェンはいい歌手だと思うが、なぜか声が伸びないし、訛りがひどくてフランス語に聞こえない。バルダッサーレを歌うミカ・カレスはかなり若い歌手だと思うが、声が不安定で聴くのがつらくなる。

 カレル・マーク・チチョンの指揮はとてもドラマティック。アメリ・ニーアマイアの演出もわかりやすくて美しい。全体的にはとてもよい映像だった。

 

729 プッチーニ 三部作 2007年 モデナ、テアトロ・コムナーレ

 アマリッリ・ニッツァが3作すべてのヒロインを演じ、ジュリアン・レイノルズの指揮するトスカニーニ財団管弦楽団の演奏、演出はクリスティナ・ペッツォーリ。

 ニッツァは本当に素晴らしい。芯が強くて音程のよい美声。演技も見事。容姿もいい。すべてにそろった歌手だ。「外套」のジョルジョッタなど、まさに鬼気迫る。アンジェリーナも健気。ラウレッタの「私のお父さん」もとても美しく、しかもユーモアにあふれている。

ミケーレやジャンニ・スキッキを歌うアルベルト・マストロマリーノも豊かな声でとてもいい。

 これまで何度も書いてきたが、私はプッチーニが苦手だ。オーケストラが歌詞と同じメロディを奏で、情緒に訴えかけるような音になると、私の心は拒絶反応を示してしまう。私はテレビドラマを見ている時、登場人物が自分の悲しい生い立ちを語るようなときに、切々とした音楽がかかるとそれだけでウンザリしてしまうのだが、プッチーニのオペラにそれと同じようなウンザリを感じる。ただ、この三部作はそれほどプッチーニいやなところが少ないので、比較的楽しく聴ける。とりわけ、「ジャンニ・スキッキ」は喜劇なので、私には受け入れやすい。ただ、そうはいっても甘ったるいメロディが聞こえてきて、つい我に返る瞬間は何度かあった。

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