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映画DVD「過去のない男」「街のあかり」「パラダイス・ナウ」「歌声にのった少年」「クーリエ」

 カウリスマキ監督とハニ・アブ・アサド監督の映画をDVDでみた。感想を書く。

51infxnwunl_sy445_ 「過去のない男」 フィンランド映画 アキ・カウリスマキ監督 2002

 カウリスマキ監督らしい、ちょっととぼけた、心温まる映画。しかし、そうでありながら、真摯に世界を見つめているので、決しておめでたくはない。静かな映像も魅力的だ。

 男(マルック・ペルトラ)がおやじ狩りにあって、重傷を負い、ショックで記憶をなくしてしまう。途方に暮れているところを貧しい地域の人々に助けられて、浮浪者として生活するようになる。救世軍に援助を受けているうち、そこで働く女性イルマ(カティ・オウティネン)と恋に落ち、様々な能力を発揮して働くようになる。銀行で口座を作ろうとしているときに銀行強盗にまきこまれて警察に知られることになり、身元が発覚するが、元の妻とは離婚が成立していた。イルマの元に戻ることになる。

 それだけの話だが、少ないセリフ、善良な人たち、善良ではない人たちがそれぞれの形でかかわってきて、実に面白い。深刻に悩んでいるところなどほとんど描写せず、すべてをさりげなく描きながら、ちょっとしたしぐさで登場人物の置かれている状況や心情をわからせる手腕におそれいる。

 

510lzhl1hcl_sy445_ 「街のあかり」 フィンランド映画 アキ・カウリスマキ監督 2006

 犯罪組織に目を付けられ、女性を差し向けられ、宝石泥棒に利用されながら、愛した女性のために口をつぐんで罪を引き受けてしまう孤独な警備員(ヤンネ・フーティアイネン)。刑務所に入り、ひどい目に遭い続けるが、最後、手を差し伸べるなじみのソーセージ屋の女性の愛を受け入れる。

 孤独に、そして誠実に生きながら恵まれない人を描いて、心温まる。静かなタッチ。あえて古い映画の手法を用い、時代に取り残された人への共感を描いている。チャップリンやルネ・クレールの時代から繰り返し描かれてきたテーマなのだが、現代社会に忘れられた人情が示されていて、とても感動的。

 

517jttnfasl_sy445_ 「パラダイス ナウ」 2005年 ハニ・アブ・アサド監督

「オマールの壁」の監督作品。これは「オマールの壁」以上に衝撃的。イスラエルに占領されたヨルダン川西岸で暮らす親友の二人の青年サイードとハーレドが自爆して殉教者となる道を選ぶ。ところが、アクシデントがあって、二人は腹に爆弾を巻いたまま離れ離れになる。しかも、密告者の息子であるサイードは裏切りを疑われる状況に追いやられる。サイードは仲間と連絡を取ろうとするうち、英雄の娘に惹かれ、自爆以外の方法があることに考えが及ぶ。しかし、もう取り返しがつかない。イスラエルは占領地に密告者を作るシステムを作り上げており、それに打撃を与えるには自爆も有効だと考える。そして、最後、自爆を実行する。

 自爆の論理がとてもよくわかる。イスラエル占領地の人々の気持ちもとてもよくわかる。密告者になるか自爆するかの道しかなくなったサイードの状況もよくわかる。ただ、あまりの深刻な内容のため、見ているのが辛くなって、DVDを何度も止めた。

 

51npjtj5pl_ac_us160_ 「歌声にのった少年」 2015年 ハニ・アブ・アサド監督

 同じハニ・アブ・アサド監督の映画だが、実話に基づく映画。ガザ地区に住みながら、子どものころから黄金の声で周囲を楽しませていた少年ムハンマド・アッサーフが「アラブ・アイドル」というテレビのオーディション番組に出演して勝ち抜き、大スターになっていく。私はまったく知らなかったが、このムハンマド・アッサーフという歌手は誰もが知る大スターらしい。映画も本当によくできている。少年時代の子どもたちの描き方が素晴らしい。とりわけ若くして病死するムハンマドの姉の溌溂とした描き方が秀逸。ガザ地区の置かれた状況、その不自由な日常も描かれ、その苦しみを人々に伝えようというムハンマドの気持ちもよくわかる。私はこの種の映画を見て涙を流すことはあまりないのだが、最後、涙を流しながらみた。

 

51ln9tcu8l_ac_us160_ 「クーリエ 過去を運ぶ男」2011年 ハニ・アブ・アサド監督

 ハニ・アブ・アサドのアクション娯楽映画。舞台はアメリカ。突然、60時間以内に人を探せと命令される運び屋(ジェフリー・ディーン・モーガン)が、自分の過去の事件と関わっていく話らしい。「らしい」というのは、わけがわからなかったから。初めは、ジェイソン・ステイサム主演の「トランスポーター」シリーズのような映画かと思っていたら、そうでもない。主人公は何をしようとしているのか、次々出てきて殺される人たちは、なぜ殺されるのか。陰の悪漢(ミッキー・ローク)は何が目的だったのか、そもそも様々な謎は何を意味していたのか。HBIがなぜ関わっているのか。私が何か見落としたのかと思って、映画サイトのレビューを見たら、やはり、わけがわからんという感想がほとんど。これがあれほどたくさんの傑作を作ったハニ・アブ・アサド監督の作品とは思えない。私もたくさんの本を書いているからわかる。あれこれの事情があって駄作になってしまうことがあるものだ。

 

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