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「ハムレット」「シブレット」「ファウストの劫罰」「ペレアスとメリザンド」映像

 フランス・オペラの映像を数本みたので、簡単に感想を書く。

 

51fikdwcxll_ac_us160_ アンブロワーズ・トマ 「ハムレット」 2003年 リセオ大劇場 

 トマのオペラ「ハムレット」(近年の傾向から考えて、これはきっと「アムレット」と呼ぶべきだろう)の映像を初めてみた。オフェリー(オフィーリアと呼ぶのはよそう)の有名なアリアしか聴いたことがなかったが、全編通してみて、素晴らしい傑作だと思った。

 アムレットのサイモン・キーンリサイドとオフェリーのナタリー・デセーが圧倒的に素晴らしい。単に歌がうまいというだけでなく、ただ声がいいというだけでなく、ハムレットのドラマの中にぐいぐいと引き込まれる。わきを固める歌手陣も見事。そして、指揮のベルトラン・ド・ビリーがとても美しく、波乱万丈にオーケストラを鳴らす。改めて素晴らしい指揮者だと思った。

 もちろん、演奏や演出が素晴らしいからこそだとは思うが、これほどの傑作がめったに上演されないのは、あまりにもったいない。最後、ハッピーエンドで終わるので、シェークスピアを期待すると裏切られるが、それでも、「ハムレット」のドラマの深みを味わうことができる。幽霊となって現れる父王、それを殺した叔父、母親それぞれが魅力的だ。

 55年以上前、小学生だった私が最初に小遣いで買ったレコードは、もちろんA面の「ウィリアム・テル」序曲が目当てだったが、B面はトマ作曲の「ミニョン」序曲だった。A面に比べてB面はつまらないと思ってあまり聴かなかったが、それでもときどきはかけた。その意味で、トマにはそれなりの思い入れがある。「ミニョン」の映像はクラシカ・ジャパンで見たことがあるが、DVDは販売されていないようだ。もっとトマのオペラを上演してほしいものだ。

 

186 レイナルド・アーン オペレッタ「シブレット」 2013年 オペラ・コミック

 アーンの珍しいオペレッタ。アーンについては、中学生の頃、シュヴァルツコップの歌う「わが歌に翼があれば」をたびたび聞いていたが、それ以外には数曲を何度か聴いたことがあるくらい。

 もちろん、「シブレット」は初めて聴いたし、初めてみた。とてもきれいな曲だと思う。最後の合唱など親しみやすくて実にいい。オペレッタなのでセリフが多くて、しかも早口なのでよくわからず困った(日本語字幕はついていない)が、それなりにはおもしろい。ただ、この映像は音楽的にはかなり問題がある。

 シブレットのジュリ・フュックもデュパルケのジャン・フランソワ・ラポワント(昔、この人のフランス歌曲のCDを何枚か聴いたものだ!)も音程がよくない。合唱もオーケストラ(トゥーロン歌劇場管弦楽団)もかなり頼りない。指揮は日本でもおなじみの女性指揮者ローランス・エキルベイだが、どうもパリッとしない。演出はとてもおもしろく、しゃれた雰囲気がいっぱいなのだが、私は少々がっかりだった。

 

803 ベルリオーズ 「ファウストの劫罰」 1999825日、ザルツブルク音楽祭

 初めてみるつもりだったが、見始めて、かつて見たことがあるのに気付いた。映像を用いて、ファウストの世界を再現している。ベルリオーズのこの曲はオペラとみなすには動きがなさすぎるが、このような映像を用いると、説得力がある。かつてみて圧倒されたのを思い出した。

 ただ、今見ると、歌手たちは必ずしも好調なわけではない。ポール・グローヴズは強いきれいな声でなかなかファウストらしいが、マルガリータのヴェッセリーナ・カサロヴァとウィラード・ホワイトは、ふだんの二人の力量からすると、少し不調な気がする。声が伸びないし、音程が少し不安定だと思う。

シルヴァン・カンブルラン指揮のベルリン国立歌劇場管弦楽団はとてもいい。改めて、この曲が名曲であることを実感。

 

072 ドビュッシー 「ペレアスとメリザンド」2016年 スウェーデン、マルメ歌劇場

 とても良い上演だと思う。

やはり目を引くのは、ベンジャミン・ラザールによる演出だ。マルメ劇場で演出を一時期行っていた映画の巨匠イングマール・ベルイマンへのオマージュがあるとのこと。私はベルイマンの映画はかなり見ているが、どこにどのようなオマージュがあるのかよくわからない。私が好きだったベルイマンの映画は「処女の泉」「第七の封印」「野いちご」「沈黙」などのモノクロ映画なので、色彩的なこの舞台と印象が異なる。むしろ私はジャック・ドゥミー監督の「シェルブールの雨傘」やアニェス・ヴァルダの「幸福」を連想した。とりわけ、メリザンドを歌うジェニー・ダヴィエは「シェルブールの雨傘」のカトリーヌ・ドヌーヴを思わせる。服装、髪形など、1960年代のフランス風。

しかもかなりリアルな舞台装飾だ。まるで映画のよう。そのため、ゴローがイニョルドにペレアスとメリザンドの様子をうかがわせる場面、ゴローがペレアスを刺す場面など、かなりドラマティックになる。

このオペラは学生のころから、クリュイタンス指揮のレコードで聴いて大好きだった。そのイメージが強いせいか、私はこのオペラを静謐で淡々としており、ドラマティックに盛り上がることないが、心の内で静かに燃える、そんな風に考えている。そんな私の好みからすると、これはかなりドラマティックで大袈裟な演出だった。そして、音楽的にもドラマを盛り上げる演奏だった。マキシム・パスカルの指揮は、低弦を強く響かせ、心の奥にある葛藤を強調している。つまりは、私の趣味からすると、もっと繊細で、もっと緻密であってほしい。少々雑な感じがした。

歌手はそろっている。メリザンドのダヴィエはきれいな容姿と美しい声。ゴローのローラン・アルヴァーロもしっかりとした演技と声。アルケルのスティーブン・ブロンクは見事な貫禄。ペレアス役のマルク・モイヨンはフランス語の発音は美しいのだが、ミュージカル風の声と歌い回し。これも「シェルブールの雨傘」の歌を思い出した。オペラ風の歌い回しに慣れてきたので、かなり違和感を覚えた。

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