インバル+都響の「幻想」 熱くならない盛り上がり
2018年3月26日、サントリーホールで東京都交響楽団定期演奏会を聴いた。指揮はエリアフ・インバル、曲目は前半にアレクサンドル・タローが加わってショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番、後半にベルリオーズの「幻想交響曲」。素晴らしい演奏。
まず、タローの音色にしびれる。タローはCDを何枚か持っている。とてもいいピアニストだと思っていたが、実演は初めて聴いた(何かのフランス映画をみていたら、タローが出てきて驚いたことがあった)。研ぎ澄まされた音。切れがよくクリアでシャープだが、不思議に温かみがある。第三楽章の高揚も見事だったが、第二楽章の静謐で高貴な音の連なりが何ともいえず美しかった。都響もとてもアンサンブルがよく、美しい音を出していた。とりわけ、木管楽器の美しさにうっとりした。
後半の「幻想」はもっと素晴らしかった。もし私の記憶が確かなら、私が初めてインバルの録音を聴いたのは、「幻想」だったと思う。それまでしばしば演奏されていたおどろおどろしくて熱狂的な「幻想」とは異なった、繊細で精密で、しかしそうであるだけにいっそう不気味な「幻想」に驚いた記憶がある。その後、インバル的なアプローチが増えてきたので、今聴くと、それほど特異ではないが、やはりインバルらしい精密さがある。ところどころ拡大鏡で除いたように、いびつな時間が現れる。予定調和的ではなく、まさしくアヘン中毒者の夢想のような、いびつでゆがんだ世界。それがとても魅力的だ。熱く盛り上がったりしない。盛り上がりはするが、けっして熱くならない。そこがおもしろい。
ほかの指揮者ではどうしても退屈になってしまう第三楽章の微妙で繊細な表現にはとりわけ驚嘆した。スリリングで、息をのむような楽章になっていた。ベルリオーズの残した解説では、この楽章で殺人が行われるはずなのだが、まさしくそのような不気味な雰囲気。
都響は素晴らしいのだが、実を言うと、インバルはもっともっと微妙に、繊細に演奏したいのではないかと思わないでもない。そうすれば、もっと怜悧でもっと幻想的なのではないかと思った。とはいえ、私は十分に満足した。
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