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映画「ラブレス」「15時17分パリ行き」

 映画館で2本、最近封切られた映画を見たので、簡単な感想を書く。

 

「ラブレス」 アンドレイ・ズビャギンツェフ監督 ロシア映画

 歴史に残るような名画であるという評を読んだので、映画館に足を運んだ。とても良い映画だった。ただ、歴史に残る名画かというと、それほどとは思わなかった。

 愛情の冷めてしまった夫婦。ともに別の愛人をもって、そこで愛の枯渇を癒そうとしている。夫婦とも愛のない家庭で育ったことがほのめかされる。そのため夫は子どもにどう接してよいかわからず、妻は子どもを産んだことを後悔し、自分がされたと同じように子どもに冷酷な言葉を投げつけ、ほとんど「ネグレクト」の状態。夫婦は子どもの親権を相手に押し付けようとするが、その話を聞いてしまった12歳の少年が失踪する。夫婦は愛人との時間ばかりに気を取られて子どもの失踪に気付かない。2日後に気付いて捜索を開始するが、夫婦の溝は深まるばかり。捜索もボランティア(それにしても、ボランティア団体が真剣に捜索しているのに驚いた)が中心で、その間も夫婦はそれぞれの愛人との性愛の時間をなくそうとはしない。結局子どもは見つからずに、夫婦はそれぞれ別の家庭を持つようになる。子どもは何らかの事情で池に入ったらしいことが仄めかされるが、子どもの状況はわからない。

「ラブレス」という言葉を聞いただけで、私は「愛の不毛」を描いたアントニオーニ監督(パゾリーニ、ワイダとともに私の大好きなヨーロッパの映画監督だ!)を連想する。映画をみながら、とりわけアントニオーニの名作「情事」を思い出した。ある無人島で女性が行方不明になる。女性を探す男と女が探索を進めるうちに心を通い合わせるようになるが、行方不明の女性の「不在」が空虚な重しとなって心から愛し合うことができない。「情事」はそんな映画だった。

「ラブレス」でも、息子の失踪の後、夫婦の間に息子の不在がのしかかって、別の家庭を持ちながらも愛ある家庭を作ることができない。妻はとりわけ、以前と同じようにずっとスマホをいじり、横にいる夫と心を交わそうとしない。そして、アントニオーニが空疎で不毛な現代社会を映像にして見せたように、ズビャギンツェフも荒廃した無機質なロシアの社会を映像化する。

 映画の中でしばしばテレビやラジオのニュースが流れる。社会の荒廃ともいえる様々な出来事が報道され、ある宗教団体の語る世界の終わりが話題になっている。映画全体から、人々が愛を失い、他人に対する関心を失い、世界は無機質になってついに終末に向かっている、というメッセージが読み取れた。

 ピアノの連打の悲痛な音楽(アルヴォ・ペルト作曲らしい)が印象的だった。現代人の心の叫びに思える。

 

「15時17分 パリ行き」 クリント・イーストウッド監督

 アムステルダムを15時17分の出発したTGVにテロリストが乗り込み、大量虐殺を企てるが、アメリカ出身の三人の若者がそれを食い止め、銃で撃たれた人も助ける。世界で大きく報道された大事件を87歳のイーストウッドが映画化した。しかも、三人の青年を実際の人物が演じている。本人が演じるだけに、まさしく等身大の英雄たちが映画に現れる。

 問題児だった三人が自分の生き方を探りながら成長していく。しかも、それまたきわめて等身大。ごく普通の青年たち。ナンパっぽいことをし、飲んだくれ、当たり前の日常を過ごす。ただ、運命に操られるように、アムステルダム発の列車へと導かれる。人を助けたいと思って軍隊に入り、それまで経験していたことが、まるでそれを実現するために準備されており、あらかじめ定められていたかのように。三人に演技力があるわけでもないので、いっそう日常のことであるかのように感じられる。三人以外にも、何人か実際にテロにあった人たちが本人として登場しているという。

 考えようによっては、たまたま血気盛んな休暇中の兵士が友だちとともに乗った列車でテロリストに遭遇して退治したというだけのことなのだが、それをイーストウッドは若者たちの自己実現として描く。その手際がいい。そもそも、本人に出演させて、これだけの映画に仕上げる手腕にも驚嘆する。

 英雄を描くとどうしても超人になってしまう。イーストウッドが演じたダーティ・ハリーもそうだった。が、今回の映画は、本人が演じ、しかも、それが普通の若者だったこともあって、まさしく等身大で真実の英雄物語ができ上がった。その意味ではまさしく画期的な映画だと思った。

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コメント

アンドレイ・ズビャギンツェフって「父、帰る」の監督ですね。
「父、帰る」は昔夜中に地上波TVで放送してましたが、ほんと素晴らしい映画でした。
「歴史に残るような名画」だと思います。
深読みすると、見知らぬ父親とそれに戸惑ったり反発する息子達の関係に現代ロシアの混迷を象徴させた映画ともとれますが、それ以前に切り詰めた人間関係でドラマを表現する演出力と画面作りの見事さに圧倒されました。
日本人からすると興味深いのは小津安二郎や北野武の影響も感じて(僕だけかもしれないけど)そこも面白かったですね。
もしご覧になってなければ是非観る事をお勧めしたい傑作です。

投稿: | 2018年4月16日 (月) 20時06分

コメント、ありがとうございます。
「父、帰る」の監督であること、承知しています。が、実はまだ見ていません。テレビ放送を録画したのですが、何しろ我が家のCDやDVDは市販のもの、自分で録音、録画したもので大混乱しており、見ようと思って探しているのですが、まだ見つからずにいます。そのうち、時間があったら本格的に探してみます。ありがとうございました。

投稿: 樋口裕一 | 2018年4月17日 (火) 00時34分

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