藤原歌劇団公演「ラ・チェネレントラ」を楽しんだ
2018年4月28日、テアトロ・ジーリオ・ショウワで藤原歌劇団公演「ラ・チェネレントラ」を見た。とても楽しめたが、同時に日本におけるロッシーニ上演の難しさも改めて感じざるを得なかった。
指揮は園田隆一郎。きびきびした指揮ぶりだが、以前にこの指揮者のロッシーニの演奏を聴いた時の印象とはかなり異なる。かなり遅めのテンポをとっている。おそらく、歌手たちの力量に合わせて、テンポを遅めに設定しているのだろう。そのせいで、ロッシーニ特有の高揚がもたらされないし、いきいきとした音の爆発もない。
歌手陣は出だしはかなり硬かったが、だんだんと調子が上がってきた。だが、歌手全員が観客を魅了するアジリータを駆使できるわけではない。多くの歌手が大いに健闘しているし、しばしばあっというほど素晴らしいのだが、やはり世界のロッシーニ演奏からは少し距離があるように思う。
そんななか、ドン・ラミーロの小堀勇介の素晴らしい美声に私は圧倒的な感銘を受けた。声が澄んでいるし、音程もいい。もう少し早口で歌ってくれると完璧だったと思う。しかし、素晴らしい歌手であることは間違いない。これまで何度かこの歌手の歌を聴いたが、毎回感銘を受けている。
ドン・マニーフィコの谷友博も見事な声と見事な演技。アジリータもよかった。クロリンダの光岡暁恵は第一幕は声が出ていないと思っていたが、第二幕のアリア(これはロッシーニ作曲ではなく、アゴリーニの作曲だという。このアリアは今回初めて聴いた)は素晴らしかった。アリドーロの伊藤貴之もなかなかよかった。ダンディーニの押川浩士も健闘しているが、歌い回しに硬さを感じた。肝心のアンジェリーナの向野由美子は少し音程が不安定だった。不調だったのだろうか。
ただ一人一人は健闘していたといえるが、やはり重唱になると、完璧なハーモニーにならない。管弦楽はテアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラだが、ところどころ音程が甘いところがあったし、歌とぴしりと合わないところもあった。そのあたりがもう少し合わないと、ロッシーニに興奮するには至らない。
演出はフランチェスコ・ベッロット。舞台背景に子どもの映像が写され、舞台中央に巨大な本が半ば開かれている。登場人物がその本の中から登場してくるという仕掛けだった。子どもがおとぎ話を読んでいるという設定。ネズミが大事な役割を演じて、いかにも子供の世界。
少し気になったのは、最後、ほかの登場人物が本の世界に戻るのに、ドン・マニーフィコと二人の娘はネズミたちに阻まれて戻れなくなってしまうこと。確かに、アンジェリーナは底意地が悪い三人に対してあまりに寛大で、見ているものはその寛大さに納得がいかないのだが、だからといって、三人を締め出しては、このオペラのテーマを否定することになりはしないか。このオペラは、あきれるほどの寛大さ、あきれるほどの人類愛を訴えている。それなのに、そのような演出にするということは、やはり「もっと厳しくあるべきだ、この三人を許すべきではない」という主張なのだろう。日本は最近、厳罰化に傾向が強まっているが、それは世界的傾向なのだろうか。
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