« ラ・フォル・ジュルネ東京2018について考えたこと、そして私のベスト5 | トップページ | ヤルヴィ+N響のシベリウス「四つの伝説」に感動 »

映画「50年後のボクたちは」「父、帰る」「裁かれるは善人のみ」「エレナ」「華麗なるギャツビー」

 数本の映画をDVDなどで見たので簡単な感想を記す。

 

5081redmmccl_sy445_50年後のボクたちは」 ファティ・アキン監督 2017年 ドイツ映画

 先日見た「女は二度決断する」のアキン監督の前作。原題は「チック」。ドイツのベストセラー小説の映画化とのこと。クラスのはみ出し者のマイクは14歳。父は若い女性と浮気、母はアル中。クラスではほかのほとんどの生徒が憧れの女の子の誕生パーティに呼ばれているのに、一人だけ呼ばれていない。そんな時、東方ロシア(つまり東洋系の容姿)出身のチックが転校してくる。マイクの両親が家を離れた夏の日、意気投合して、チックが無免許運転する車で南に向かって無鉄砲な旅に出かける。そのロードムービー。二人は途中で少し年上の女の子イザと出会う。しばらく行動をともにする。山に登り、三人で50年後にも会おうと約束する。

チックの過去もイザがなぜそのようなところにいるのかもまったく説明がない。二人の食事を振る舞ってくれる子どもたちと女性がどのような人なのかもわからない。その夏だけの不思議な体験。そこが面白い。ブルジョワ階級の愛に恵まれない少年が得体のしれない人間たちに出会って、自分の世界の外に出ていく。

子どもの無軌道な行動に対して、大人としてはあれこれ心配になるが、ともあれすがすがしい。なぜすがすがしいかというと、自分にも覚えがあるからだろう。私も中学生のころ、家出したことがある。すべての社会的束縛をすてて無軌道なエネルギーを発散したかった。チックのような、悪いことを教えてくれる同級生もいたし、仲良くしていたこともある。それを思い出す。3人の主人公はとても魅力的に描けている。

 

「父、帰る」 2004年 ロシア アンドレイ・ズビャギンツェフ監督

 確かに歴史に残る素晴らしい映画だと思った!  ただ何を言いたいのかとなると、よくわからない。

 母や祖母と暮らす兄弟(中学生くらいのアンドレイと小学生くらいのワーニャ)のもとに、12年間家を出ていた父親が突然帰ってくる。兄弟は父に連れられて、泊りがけで釣りに行くが、父は強圧的で子どもたちに理不尽に命令し、それに従わないと暴力をふるうばかり。しかも、計画を変えて、別のところに行き始める。そして、湖に行き、ボートで無人島に行って、何かを探す。兄のアンドレイは従順で父親に従う様子を見せ、弟ワーニャは反抗を繰り返す。父は無人島で事故で死に、二人は父の遺体をボートに乗せて帰ろうとするが、父の遺体はボートともに湖底に沈んでしまう。

 カフカ的世界だと思った。父親の行動(無人島に何かを隠していたのを掘り出したらしい)も、兄弟の行動もすべて無駄になる。理不尽な命令にしたがって、兄弟は必死に行動するが、その行動にどういう意味かわからずにいる。何の結果ももたらさない。ただただ理不尽。

 ロシア人は、大きな革命に巻き込まれ、強大な権力によって多く犠牲を出したが、結局、理不尽な結果しかもたらされなかった。殺伐とした精神の中にいる。ロシアの人々はそのような精神状況にいるのかもしれない。そのような世界をこの映画は鋭く描いている。しかし、もちろんそれはソ連にかぎったことではない。現代人は西側の人間もこの映画のような荒涼とした精神の中にいる。この映画を見ると、改めてそのことに気付かされる。

 それにしても圧倒的な映像美。一つ一つが絵画のよう。最後まで招待が明かされず、不気味で理不尽で、しかもどこか人間的な父親を演じる役者にも、二人の子どもたちの演技にも感服。

 先日、この監督の「ラブレス」を見て、とてもよい映画だと思ったが、私は「父、帰る」のほうに圧倒的な感銘を受けた。

 

812wjbvp8al_sy445_ 「裁かれるは善人のみ」 2014年 ロシア アンドレイ・ズビャギンツェフ監督

 同じズビャギンツェフ監督の映画。

 ロシアの海辺の町に住む中年男コーリャ。権力によって欲望を満たす横暴な市長に家を取り上げられ、頼っていた旧友の弁護士に妻を寝取られ、しかも、その妻は自殺したため、殺した疑いをかけられ、15年の刑を言い渡される。踏んだり蹴ったりの人生。その苦悩を荒涼とした風景とともに描く。弁護士も妻も自分なりに懸命に生きようとしている。だが、どうにもならない。誰もが生きる意味を見出すことができず、真実はどこにもなく、ただ欺瞞だけが横行する。そのような世界を絶望感をもって描く。

 日本語タイトルがよくないと思った。これではまるで権力に打ち負かされる善人の悲劇のようではないか。映画の中で「ヨブ記」について語られる。原題は「リヴァイアサン」。ホッブスの著書で有名だが、もとは「ヨブ記」に出てくる海の怪物を意味する。コーリャが、まさしく踏んだり蹴ったりの人生を歩みながらも神を信じるヨブと重ねあわされている。だが、コーリャは飲んだくれで暴力的であって、決して善良な人間ではない。しかも、神を信じていない。もはや神を信じられなくなったヨブが海の怪獣リヴァイアサンに痛めつけられる物語とでもいうか。リヴァイアサンは単に権力を意味しているわけではないだろう。不条理で理不尽な超越的なものだろう。誰もが必死に生きているのだが、わけのわからない力に翻弄されて打ち負かされてしまう。そんな世界を描いている。

 荒涼たる海、廃船、人の通らないさびれた道路、海岸のうらぶれた景色が圧倒的迫力で迫る。だが、作品の出来としては、「父、帰る」には及ばないと思う。

 

71ylkdf6htl_sy445_ 「エレナ」 2011年 ロシア アンドレイ・ズビャギンツェフ監督

 元看護師のエレナは資産家である現在の夫と再婚。平穏に暮らしている。ところが夫が病に倒れ、死を覚悟することになる。夫は遺言書を書くというが、それはエレナにとって好ましいものではない。放置すると、前の夫のとの間にできた子ども一家、とりわけ孫のサーシャの大学進学のための資金がなくなる。エレナは毒薬を夫に与えて遺言書を書きなおす前に殺害する。それだけの話だ。ある意味できわめて単純。最後、夫と暮らしていた豪華な家に子ども一家を呼び寄せる。自堕落で他者に依存しているばかりの家族。とりわけサーシャは勉強もせず、悪い仲間と暴力事件を起こすばかり。映画の冒頭と最後、ほとんど動きなしに家が映し出される。一体エレナの行動にどのような意味があったのか、大罪を犯して手に入れたものはどれほど愚かなものか。それを冒頭と最後の映像が静かに語りかける。とても単純でわかりやすい映画だが、映像の力に唸ってしまう。

 

「華麗なるギャツビー」 1974年 ジャック・クレイト監督

 40年以上前、予告編を見た覚えがある。本編も見たいと思ったが、原作を読む前に映画を見るのに抵抗があった。そして、映画も音楽も文学もヨーロッパびいきで、英米ものに惹かれることの少ない私は、フィッツフェラルドの原作になかなか手が出なかった。最近、やっと野崎孝訳を読んだので、NHKのBS放送を録画していた1974年の映画を見てみた。

 原作を読んだ直後に映画を見ると、あれこれと不満が出てしまう。これでは、語り手のニックがあまりに木偶の坊。トムもあまりに粗暴。デイジー(ミア・ファーロー)、マートル(カレン・ブラック)ら登場人物たちがあまりに大袈裟に演技し、あまりにわかりやすく、原作にある繊細さが感じ取れない。ギャツビー(ロバート・レッドフォード)の純情も魅力も十分に伝わらない。ただ、映画の中の桁外れに裕福で豪華な世界にびっくり。九州出身の田舎者で、しかもそれほどお金に余裕のない階層出身の私は小説を読んでもこれほどの豊かさを想像できなかったが、確かにフィッツジェラルドが描いたのもこのようなスケールの出来事だったのかもしれない。登場人物たちの行動に納得できないところがあったが、なるほどこれほどの金持ちだったら、そういう行動をとるのかもしれないと思えるところはいくつかあった。

 とはいえ、映画を見て、原作での語り手ニックの位置づけなどが見えてくる。収穫はたくさんあった。

 

201391s7xbdz9l_sy445_ 「華麗なるギャツビー」2013年 バズ・ラーマン監督

 1974年の映画を見て、不満を感じたので、2013年に作られた「華麗なるギャツビー」もみてみた。ほとんど漫画的といえるほどに豪華さ、贅沢さを描く。このほうがむしろ不自然さを感じない。語り手ニック(トビー・マグワイア)の役割も納得できる。ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)もいい味を出している。あれこれ付け足して説明過剰ではあるが、原作(村上春樹訳を購入して読んでみた。少なくとも私の世代には野崎訳よりも村上訳のほうがずっと読みやすい。自然にこなれていて、細かいところまで神経が行き届いた訳だと思う)のエッセンスはこちらの映画のほうが伝えているように思った。

 ただ、この映画を見ても、原作の味わいを映像で出すのは難しい・・というこれまで何十回となく感じてきたことを改めて思った。

 

|

« ラ・フォル・ジュルネ東京2018について考えたこと、そして私のベスト5 | トップページ | ヤルヴィ+N響のシベリウス「四つの伝説」に感動 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/66710607

この記事へのトラックバック一覧です: 映画「50年後のボクたちは」「父、帰る」「裁かれるは善人のみ」「エレナ」「華麗なるギャツビー」:

« ラ・フォル・ジュルネ東京2018について考えたこと、そして私のベスト5 | トップページ | ヤルヴィ+N響のシベリウス「四つの伝説」に感動 »