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アルモドバル監督「神経衰弱ぎりぎりの女たち」「欲望の法則」「キカ」「抱擁のかけら」「私が、生きる肌」

アルモドバル監督「神経衰弱ぎりぎりの女たち」「欲望の法則」「キカ」「抱擁のかけら」「私が、生きる肌」

 

 これまで何度かスペインの巨匠アルモドバル監督の映画の感想をここに書いてきたが、また5本見たので、簡単な感想を書く。

 

718x0vot6jl_ac_ul320_sr224320_ 「神経衰弱ぎりぎりの女たち」 1989年

 18世紀から20世紀にかけて、フランスにブールヴァール劇と呼ばれる芝居があった。中年夫婦のいざこざ、何人もの人物を巻き込んでの騒動、偶然の様々な出来事、和解といった家庭内的な小さなドラマを描いていた。アルモドバル監督の映画は、ブールヴァール劇の過激版といってよさそう。中年男女の分かれ、テロリストとのかかわり、自殺未遂、殺人未遂。女性たちみんなが常軌を逸している。狂気じみた行動が行動を呼んで混乱していく。ブールヴァール劇をドタバタのブラック劇に仕立てたといえそう。

 独特の美学がとても魅力的。ただ、アルモドバル監督がゲイであるせいか、美男は登場するが、きれいな女性が登場しないで、女性たちはいずれもヒステリックをとる。男性としては感情移入しにくい。そのために、心から楽しむことはできなかった。

 

51yxjd2bccl_ac_us200_ 「欲望の法則」  1990年

 3人のゲイ(エウセビオ・ポンセラ、 アントニオ・バンデラス、ミゲル・モリーナ)と1人の性転換で女性になった元男性(とはいえ、演じているのはカルメン・マウラ)の物語。ゲイの1人(バンデラス)が嫉妬のあまり恋敵の男性を殺し、自殺する。かなりきわどいストーリーだし、間違いなく異性愛者である私には理解できない世界なのだが、なかなかに説得力がある。映像の魔術というべきか、それぞれの人物に感情移入できるし、それぞれの愛のあり方にも納得できるし、愛の過剰も十分に理解できる。好きな映画ではないが、アルモドバルの独特の世界観をとても興味深く思う。

 

91iko0grsll_ac_ul320_sr226320_ 「キカ」 1994年

 メイキャップアーティストの中年女性キカ。ある有名作家のテレビ出演のメイキャップを担当したことから、その作家と関係を持ち、その義理の息子とも愛し合うようになって同棲する。キカは明るくて楽天的で男性に対して軽く、みんなに好かれている。ところが、作家と義理の息子、そして家政婦までが秘密を持っているために、3件の殺人、1件の殺人未遂が起こり、キカもレイプされる。ふつうに描くとヒッチコックのような映画になりそうなところを、アルモドバル監督は軽くて明るいタッチで色遣いも派手なドタバタで描き出す。死者の蘇生の場面などのストーリー上の飛躍もあり、とてもおもしろい世界を創り出す。

 ただ、「欲望の法則」も「神経衰弱ぎりぎりの女たち」も「キカ」も、いわゆる美人女優が出演していないので、男性としては物足りない。ヒロインのキカも魅力的には描けているが、少なくとも私には女性としての魅力が感じられないので、「なかなか面白い独特の映画」以上とは思わなかった。

 

51vpt60aval_ac_us200_ 抱擁のかけら」 2010年

 盲目の脚本家(ルイス・オマール)の前に謎の男が現れることから、徐々に14年前、脚本家が別の名前の映画監督として活躍し、女優志願の女性(ペネロペ・クルス)と恋に落ち、その女性のパトロンである実業家の復習を受け、しかも交通事故に遭って女性を失い、自らも盲目になったことがあらわになっていく。中年男と囲われ女の激しい恋が身につまされるようなリアリティを持っている。脚本家を取り巻く人々も説得力をもって描かれる。そして、ペネロペ・クルスがあまりに魅力的。「トーク・トゥ・ハー」「ライブ・フレッシュ」「帰郷 ボルベール」に匹敵する、あるいはそれ以上のアルモドバルの傑作だと思う。

 

51ttzh5wz9l_ac_us200_ 「私が、生きる肌」 2012年

 徐々に真相がわかる構成になっている。要するに、人体実験もいとわない先端医学研究者(アントニオ・バンデラス)が、娘を死に追いやった若者を誘拐し、性転換手術を施し顔も替えて亡き妻(エレナ・アラヤ)そっくりの女性を作り上げる。そうするうちに、愛し合っているという幻想を抱くが、妻そっくりになった男に殺される。男女の枠が取り外された不思議な官能の世界が展開し、人間の持つ独占的な愛の欲望をえぐりだす。

 不思議な映画だ。従来の愛の概念をはみ出している。この上なく極端な形で狂おしい愛の形を描く。もちろん監督はそれを肯定しているわけではないが、人間の心の奥にある一つの業と捉えているのだろう。大変説得力がある。

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