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「ヘンゼルとグレーテル」「王様の子どもたち」「モーゼとアロン」「今日から明日」の映像

 数日前からオペラDVDを数本みた。なじみの薄い演目ばかりだったので、よくわからないままみただけだったが、ともあれ感想を書く。

 

060 フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」2015年 ウィーン国立歌劇場

 指揮はティーレマン。このところの充実ぶりたるやすさまじい。張りのある音で存分に鳴らして、しかも躍動感がありしなやかさがあり繊細さもある。あまり童話っぽくなく、むしろワーグナー的だが、このような演奏もおもしろい。

歌手陣も充実している。ダニエラ・シンドラムのヘンゼルとイレアナ・トンカのグレーテルは、初めのうちこそちょっと年を取ったおばさんと、ちょっと若いおばさんに見えるが、音楽と演技の力で、オペラが進んでいくにつれて十分に幼い兄と妹に見えてくる。

 アドリアン・エレートの人のいい父親、ジャニーナ・ベヒレのちょっと癇癪持ちの母親も実にいい。そして、何よりもミヒャエラ・シュースターの魔女が出色。明るくて愛嬌があって、しかもこの上なく不気味。まさしくサイコパス。このようなリアリティのある魔女はシュースターにしかできないだろう。私がこれまで見た魔女の中では最高だと断言できる。眠りの精と朝露の精の両方を歌うアニカ・ゲルハルツも清澄な声がとても魅力的。

 エイドリアン・ノーブルの演出は、フンパーディンクの時代と思われるブルジョワ家庭の平和な夜で始まる。子どもが魔女の怪しい世界に惹かれてメルヘンの世界に入り込む。メルヘンとかけ離れた現代においてまっとうな童話の世界を舞台にかけるには、このような導入が必要になったということだろうか。あまり意味のある導入には思えなかった。

 

417 フンパーディンク 「王様の子どもたち」2010年 チューリッヒ歌劇場

 

 音楽的にはこれ以上にないほどの充実だと思う。インゴ・メッツマッハーの指揮は、ティーレマンにも劣らぬ縦横無尽の棒さばきとでもいうか。ほれぼれするほど。線の強い音が売り出されていく。歌手陣も歌、容姿ともに申し分のない王様の息子役のヨナス・カウフマンはもちろん、魔女のリリアーナ・ニキテアヌ、ガチョウ番のイサベル・レイ、吟遊詩人のオリヴァー・ヴィドマーもみごと。

 ただ、演出のイエンス=ダニエル・ヘルツォークはこのほとんど上演されることのないオペラまでも「読み替え」ており、深刻な現代劇に仕立ててしまう。元のストーリーさえも十分に理解できていないのに、歌詞とまったく異なる現代の衣装をまとった人間たちが登場するので、私は大いに戸惑った。めったに上演されないオペラの場合は、まずは原作に忠実な演出にしてほしいと、見る側からは願いたくなってしまう。

 

045 シェーンベルク 「モーゼとアロン」 2015年 パリ、バスティーユ歌劇場

 私はシェーンベルクの音楽にあまりなじんでいないので、この演出については何とも言えない。正直言って、ロメオ・カステルッチの演出意図もよくわからない。「形象化」「言葉」というこのオペラのテーマとなる概念をまさしく形象化しているのだろうが、その意味するところがよくわからなかった。が、謎めいた舞台がシェーンベルクの音楽と合致して魅力的な世界を創り出していた。モーゼのトーマス・ヨハネス・マイヤー、アロンのジョン・グラハム=ホールもいいが、やはり、フィリップ・ジョルダンの見事な棒さばきに驚嘆し、パリ管の実力にも驚く。

 

669 シェーンベルク 「今日から明日へ」1996年に製作映画

 モノクロ映像でモノラル録音。ミヒャエル・ギーレン指揮、フランクフルト放送交響楽団の演奏。夫役はリチャード・サルター、妻役はクリスティーン・ウィトルジー。夫婦がそれぞれパーティで別の男に惹かれ、自宅に帰った後に口争いをしながらも和解するという室内劇。このオペラを初めてみたし、初めて聴いたが、シェーンベルク好きというわけではない私としては正直言って「ほう、そんなものか」といったことしか感じることができない。60分程度で終わるので耐えられるが、それ以上だと私は退屈で仕方がなくなっただろう。

 取り立てて何かが起こるわけでもない夫婦のいさかいをオペラにするというのは、シュトラウスの「インテルメッツォ」の延長線上にあるのだろうが、12音階なので、きわめて無機質に聞こえる。それがシェーンベルクの意図なのか、単に私がシェーンベルクを聴きなれないだけなのか、私にはこの音楽は夫婦の心が実はバラバラであることを語っているように思える。

 このDVDには、ほかに『アーノルト・シェーンベルクの「映画の一場面への伴奏音楽」入門』という1972年に西ドイツで製作された短編映画が含まれていた。カンディンスキーの反ユダヤ主義的発言へのシェーンベルクの抗議の文章を男が朗読し、それにシェーンベルクの音楽が重なっている。ユダヤ人迫害の一つの証言だと思うが、私にはこのような映画を今見る必然性は感じられなかった。

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