ウェルザー=メスト+クリーヴランドのベートーヴェン2番・6番 えもいわれぬ音楽の快楽
2018年6月6日。サントリーホールで、ウェルザー=メスト指揮、クリーヴランド管弦楽団のベートーヴェン交響曲全曲演奏の4日目を聴いた。曲目は前半に交響曲第2番、後半に第6番「田園」とレオノーレ序曲第3番。これまでの3日間に劣らない名演。
オーケストラが素晴らしい。木管も金管も、もちろん弦も、えもいわれぬ美しさ。本日演奏されたのはいずれも偶数番号の交響曲であって、爆発的な音楽にはならない。ウェルザー=メストらしい知的で均整がとれている。しかし、音が美しく、緻密に構成されているので、まったくだれることもなく凡庸になることもない。音楽が生きている。自然に音楽にメリハリができ、音楽的ドラマが展開する。
第2番も実に名曲。爆発的ではないが、まったくスキがなく、エネルギーがあり、絶妙の音の重なりがある。それをウェルザー=メストとクリーヴランド管はみごとに演奏。
「田園」はそれ以上に素晴らしかった。私はこれまで「田園」を聴いて感動したことはほとんどない。もっとはっきり言えば、「田園」はベートーヴェンの交響曲の中で最も苦手な曲だ。ずっと前(おそらく1980年代)、大好きだったドホナーニがクリーヴランド管を率いてベートーヴェン・チクルスを行った時、「田園」を聴いて、「ドホナーニが指揮をしても、この曲はつまらん」と思ったのを覚えている。唯一、チェリビダッケ+ミュンヘン・フィルのまるで「創世記」を音楽にしたかのような「田園」(これも多分1980年代)に感動したが、あれは「田園」に感動したというよりは、チェリビダッケの音楽に感動したのだった。
そして、今回。私はおそらく初めて「田園」に感動した。こんないい曲だったのか!と思った。すべての音が美しい。人生の喜び、自然の美しさが音楽の快楽とともに開放されていく。終楽章には、心があけっぴろげになって、自然の美しさを味わう。最高に美しい音が奏でられ、それが美しく重なり連なっていく。特に何かを工夫しているようには思えないのだが、極上の音楽が形作られていく。まさに名人の業だと思う。
「レオノーレ」3番も素晴らしかった。奇数番号的な盛り上がりがあり、最後、勝利のファンファーレがある。内側から盛り上がっていく躍動感がある。
ただ今回も昨日と同じように三分の二くらいしか席が埋まっていない。空席が目立つ。なんともったいないことだ! が、逆に言えば、私はほかの多くの人の持てない、このような最上の時間を運よく持てたのだ。この幸運に感謝しよう。
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