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オペラ映像「ノルマ」「アデルソンとサルヴィーニ」「椿姫」「ドン・カルロ」

 少し時間ができたので、DVDやBDのオペラ映像を数本みた。簡単に感想を書く。

 

564 ベッリーニ 「ノルマ」2016年 ロンドン、コヴェント・ガーデン

ノルマのソーニャ・ヨンチェヴァとアダルジーザのソニア・ガナッシはもちろんとても素晴らしい。が、そのほかの歌手たちはまずまず。ポリオーネのジョセフ・カレヤはあまりに不安定。音程がよくない。彼が歌うたびにげんなりして聴いていられなくなった(カーテンコールで大喝采を受けているのが信じられない)。

 指揮はアントニオ・パッパーノ。メリハリがあって生き生きとしていて、とてもいい。アレックス・オレの演出は、20世紀に舞台を移し、ノルマは十字架のペンダントをかけ。十字架の前で祈り、百を超えるような舞台いっぱいのイエス磔刑像を前にして銃殺される。ノルマが殉教者になっている。ノルマは異教の女のはずなのに、なぜキリスト教徒に変えてしまったのか、私には納得できない。

 

094 ベッリーニ 「アデルソンとサルヴィーニ」 2016年 イェージ、ペルゴレージ劇場

 ベッリーニの珍しいオペラなので、一度見たいと思ってDVDを購入したが、正直言って、あまりレベルの高い上演ではない。歌手陣はおそらく全員が若手だと思う。出てくる歌手出てくる歌手、音程が怪しく、歌唱そのものもぎこちない。そのなかでは、アデルソンを歌うロディオン・ポゴソフがしっかりしているといえそう。ホセ・ミゲル・ペレス・シエッラの指揮するオーケストラも情けない音を時々出している。私は途中で聴くのがつらくなってきた。ロベルト・レッキアの演出も背景に写真を写しただけに見える。

 アリアとセリフでつないだオペラ。だが、このような演奏では、良い曲なのかどうか判断できない。

 

884 ヴェルディ 「椿姫」 2011年 エクサンプロヴァンス音楽祭

 全盛期を過ぎているのかもしれないが、ヴィオレッタを歌うナタリー・デセイはやはり素晴らしい。少しだけ声のカスレが気になるものの、高音の美しさに酔いしれる。ジャン=フランソワ・シヴァディエによる演出で舞台を現代に移されているが、デセイはうぶな若者に心を奪われるちょっと年増の娼婦をリアルに演じている。名歌手は役者としても超一流であることを痛感する。アルフレードのチャールズ・カストロノーヴォはなかなかの「イケメン」なのだが、少し癖のある歌い方。デセイと歌うと聴き劣りするのはやむを得ないが、しっかりと歌っている。ジェルモンのルドヴィク・テジエはとても風格がある。アクセントの強いルイ・ラングレの指揮に、このドラマを過去の美しくも悲しい物語としてではなく、現代の女のリアルな悲劇として描く。私としては好きな演奏ではないが、最終幕ではこのような音楽も説得力を持つ。ヴィオレッタに悲惨な最期に暗澹たる気持ちになった。

 

535 ヴェルディ 「ドン・カルロ」(イタリア語5幕版)2013年 ザルツブルク祝祭大劇場

 今回見たほかのDVDとはまったくもってレベルが異なる。大スターたちの競演による最高レベルの「ドン・カルロ」。ウィーンフィルの音の凄さを改めて感じる。厚みがあり、しかも透明で、ダイナミックで繊細。素晴らしい上演だ。

 ドン・カルロのヨナス・カウフマンは張りのある深い声。エリザベッタのアニヤ・ハルテロスは最高の美声。この主役二人だけでも圧倒的なのに、エボリ公女のエカテリーナ・セメンチュクも強い声で見事。ロドリーゴを歌うトーマス・ハンプソンは、音楽的にはむらがあって全盛期を過ぎているのを感じるが、役を歌うと、この人以上のロドリーゴは存在しないのではないかと思えてしまうほどの説得力。同性愛的な要素も見せ、またもっと様々な豊穣も見せて演技に余裕がある。大審問官のエリック・ハルフヴァーソンも、この狂信的で凄みのある役をふてぶてしく演じている。

フィリッポ2世のマッティ・サルミネン、修道僧とカルロス5世を歌うロバート・ロイド。ともにかつての大スターだが、いまだ健在。この時点で二人とも70歳前後のはず。かつての声の輝きはないが、風格と存在感は圧倒的。

 アントニオ・パッパーノの指揮は、ドラマティックで切れがいい。ただ、私の趣味としては、第三幕以降はもっと凄みをきかせて戦慄するような音楽にしてほしいのだが、パッパーノは最後まで重くしないことを選択したようだ。演出はペーター・シュタイン。わかりやすくて美しい。特に個性的な解釈はなされていないようだ。

 いずれにせよ、これほどの大歌手たちがパッパーノ指揮のウィーンフィルで歌えば、そりゃこれほどすごくなるのは当たり前だよな・・・と思った。

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コメント

いつも有難うございます。愛読しております。ドン・カルロDVD、先生のコメント読んで思わず発注してしまいました。ご紹介ありがとうございました。HMVでポチりましたが、当該DVDの他の方のレビュー(=村井翔さん)を読んでたらそちらにも引き込まれダムラウのルチアが「音楽史上に残る名演」というコメントに重ね買い。しばらく積ん読状態ですが(買うだけかって見ないものが結構あります)オペラのDVD買いだけはやめられません。

投稿: BRIO | 2018年6月23日 (土) 20時39分

BRIO 様

コメント、ありがとうございます。
この「ドン・カルロ」は、誰にでも推薦できる名上演だと思います。もし、不満を言うとすれば、あまりにオールスターであることくらいでしょうか。ダムラウのルチアというのは、コヴェントガーデンの映像ですね。音楽的には圧倒的だと思います。ただ、演出については好き嫌いがあるでしょうね。

投稿: 樋口裕一 | 2018年6月26日 (火) 20時17分

>ダムラウのルチアというのは、コヴェントガーデンの映像ですね。音楽的には圧倒的だと思います。ただ、演出については好き嫌いがあるでしょうね。

僕もそのBDを買ったのですが、1幕で密会したルチアとエドガルドがいきなりファックしたのは呆れました。うんざりしてその後は見るの止めてしました。
後半でルチアが妊娠する演出らしいからドラマ的には意味はあるのでしょうが露悪的過ぎますね(ベルクの「ルル」の様な作品ならともかくドニゼッティでは)。
現代演出には全然抵抗はない人間ですが、オペラなのである程度は節度を持った演出であって欲しいです。
最近の「ルチア」だとメトでネトレプコが歌った舞台がとても良かったですね。ネトレプコは美人で芝居も抜群だし歌も(ダムラウ程ではないけど)非常に上手いです。他のキャストも良かった。
演出家はコヴェントガーデン版と同様イギリス女性で、同じく19世紀に設定を置き換えていましたがあちらの方がセンスのいい演出でした。

投稿: | 2018年6月27日 (水) 12時45分

コメント、ありがとうございます。メトの「ルチア」のDVDは見ました。素晴らしいですよね。私は、声の威力という面でもダムラウに劣るものの、ネトレプコの声の演技を含めた歌唱力は圧倒的だと思います。私も、コヴェントガーデンの「ルチア」の演出はさすがに悪趣味だと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2018年6月28日 (木) 09時35分

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