パキスタン旅行中に思ったこと
4日間だけだったが、パキスタンを旅行して気づいたこと、思ったことを箇条書きにする。
・夏にパキスタンを旅行するべきではないというのが、今回の私の第一の教訓だ。夏のパキスタンは日本よりも10度高いと考えてよい。最高気温が45度くらい、ちょっと暑い日で40度前後。湿気については、日本よりもやや低いと思うが、乾燥しているわけではない。十分に蒸し暑い。暑さに慣れた現地の人はともかく、日本人は40度前後の中では観光は難しい。しかも、博物館などの施設に基本的に冷房はない。レストランも高級店以外では冷房はない。こう暑いと一人でぶらぶら歩こうという気にもならず、もっと見たいという思いもなくなってしまう。とはいえ、軽率にも6月にパキスタンに行ったからには、暑い中でのパキスタン旅行というよい経験をしたと考えるべきだろう。
・パキスタンは典型的な途上国だった。一般労働者の年収は5万円ほどだという。資料で見たら、ミャンマーよりは一人当たりGDPは高いが、印象としてはパキスタンのほうが貧しい。ミャンマーよりも格差が大きくて、貧しい人が多いせいだろう。
・パキスタン料理はとてもおいしかった。ただ、どれもスパイスがきいているので、胃の調子が悪い時には困った。現地の人は、そもそもスパイスのきいた料理に、テーブルに出された様々な薬味を混ぜて食べる! しかも大量に食べる! そして、パキスタン人はコーラが大好きだ。あちこちにコーラの看板があり、実際に飲んでいる。そのせいか、貧しい社会であるはずなのに、太めの人が多い。
・穏やかで優しそうな人が多い。もちろん、狂信的な人、険しい目つきの人は見かけない。人懐っこくて気のいい人たち。外国人には特に親切だ。もちろん、ほんの一部の人にしかあっていないし、あったほとんどは観光関係の人なのだが、それでも人柄の良さが伝わる。友人同士、とても和気あいあいと笑い合って話している。兵士があちこちにいてものものしいが、それはテロ対策であって、社会そのものはきわめて穏やかだと思った。
・イスラム教徒は誰もが時間通りにお祈りをしているのかと思ったら、そうでもない。少なくとも、ガイドさんと運転手さんは、行動をともにした10時間くらいのうち一度もお祈りをしていない。時々、コーランの声が拡声器で聞こえるが、こぞってお祈りしているようには見えない。そんな信仰心の強い国ではなさそうだ。
・1947年のパキスタン建国の際の民族移動についてガイドさんが話してくれた時、私はふと思い出して、かつて読んだサルマン・ルシュディの小説「真夜中の子どもたち」について話した。ガイドさんは、私が日本語の発音で「ルシュディ」といってもピンとこないようだったので、例のホメイニ師に死刑宣告された「悪魔の詩」の作者だと説明したら、すぐに理解した。そして、突然声を荒げて、「その人はイスラム教徒の敵です。私たちはその作家が嫌いです」といった。
・車はほぼ100パーセント日本車といえるだろう。ドイツ車をほとんど見かけないので、日本よりもよほど日本車率が高いのではないか。トヨタとホンダが多い。プリウス、アクアくらいの価格の車が多く、いわゆる高級車は少ない。中古車っぽいもの、廃車寸前と思われるものも走っているが、真新しい車も多い。そのほかはスズキ。これらの工場がパキスタン内にあるらしい。スズキは別枠とみなされている。駐車場に「CAR」と「SUZUKI」の料金が違っていた。どうやら「SUZUKI」というのは「軽」のことらしい。
・バイクは8万ルピー(1ルピーはほぼ1円と考えてよさそう)くらいだという。一般労働者の年収が5万円くらいだというから、年収を超す。その割にはたくさんのバイクが走っている。ホンダのものが目立つ。中国製も多いようだ。バイクは大事な財産なのだろう。バイクを買えない家庭が圧倒的に多いということでもある。だから、一台購入すると、二人、三人、四人、五人で乗ろうとするのだろう。
・バイクを運転しているのは男性に限られる。4日間パキスタンで過ごして、女性がバイクを運転しているのをたったの一人もみなかった。男性同士で乗っているのが最も多い。ただ、女性の免許取得が禁止されているわけではないという。男女仲良くバイクに乗っている光景は見かけない。
・そもそもカップルを見かけない。同年輩の男女で歩いている様子を見ることがほとんどない。夫婦でも一緒に歩くことはあまりないのではないか。夫婦がいると子どももいる。男女でも親子らしいことが多い。私が手をつないで歩くカップルを見たのは2度だけだ。ロータス・フォートの人けないところと、ラホール・フォートの階段のところで、手をつなぐ男女に出会った。きっと観光地でのデートだったのだろう。
・どこに行っても、目に入るのは男ばかり。繁華街を歩いても、8割は男性。女性を見かけるとすると、家族連れの場合が多い。女性は家にいるのだろう。そして、女性のほとんどがブルカを着てスカーフをかぶっている。目だけ出して真っ黒のブルカを着ている女性もいるが、それよりは顔はすっぽり出した赤やピンクの柄物の女性が多い。
・娯楽がないようだ。映画館もほとんど見かけない。ゲームセンターもない。公園や小さな遊園地で子供や若者が遊んでいる。ガイドさんに、「遊ぶところはないんですか」と尋ねたら、「たくさんありますよ。公園とか動物園とか」と答えられた。私が子どもだった1950年代、60年代と同じような状況のようだ。このようだから、国境セレモニーに大勢押し掛けて楽しむのだろう。
・親族で一緒に行動することが多いという。リキシャにたくさんの客が乗っているのは、家族でどこかに行こうとすると、兄弟の家族などを誘って一緒に出かけるかららしい。公園などでも10人前後の集団を何組も見たが、どうやら親族が一緒にやってきて遊んでいるようだ。大家族で行動し、交通費を節約しながら交流を楽しむのだろう。
・やたらじろじろ見られる。「写真を撮らせてくれ」「一緒に写真を撮らせてくれ」といってくる人が何人もいる。どうも東アジアの人間が珍しいらしい。そして、どうも私は中国人と思われているらしい。しばしばにこやかに「ニイハオ」と声を掛けられる。親しみを覚えてもらえているようだ。まるでスターになった気分。東アジア人を見ると中国人と思うらしい。中国との関係がよいせいだろう。それで、珍しくて声をかけてくるのだろう。なお、ガイドさんが横にいて、そのような申し出をすべて断ってくれた。承知するときりがなくなってしまうとことだった。若い女性二人に写真を一緒にとってもいいかときかれたので、そのときだけ鼻の下を伸ばして応じた。
・どこに行ってもあれほどたくさん見かける中国人観光客をパキスタンではまったくといっていいほど見かけない。観光地にもホテルにも中国人の影がない。空港に行って、数人見た程度。日本人観光客もたった一人に会っただけ。同じホテルにいた高齢男性(私よりもほんの少し年上だろう)だった。パキスタンはまだ観光の受け入れが十分に整っていないということだろう。また、さすがに夏に来る客は少ないということだろう。
・バスをほとんど見かけない。長距離バスはあるようだが、市内バスは数台しか見なかった。乗り合いタクシーが済ませているらしい。乗り合いタクシーが安いということもあるのだろう。なお、窓を開けて走る長距離バスを何台か見かけた。39度ある中で窓を開けて走るということは、冷房が効いていないということだろう。この暑さの中を長距離乗るのは過酷だろうと思う。観光バスらしいものもほとんど見なかった。
・観光についての設備が整っていない様子なのに、意外にアルファベットの表示が多い。店にもアルファベットが多く出されている。だから、ハングルのあふれる韓国などよりもよほど日本人にも街並みは動きやすい。
・道端にごみが散らかっている。私はミャンマーに行ったとき、都会から田舎に行っても道の両側に買い物袋、包装紙、ビニールなどなど大量に散乱し、土に半ば埋まっているのを見てあきれたのだが、パキスタンでも同じような傾向がある。ミャンマーほどではないが、かなりごみが続く。ところどころ、ごみ山のようになっているところもある。
・物乞いがかなりいる。有料道路の料金所の前後に障害のある人や女性がいて、手を差し出す。時々、恵んでいる人がいる。確かにこの世界では障害があると生活が大変だろう。女性は五体満足に見えるが、未亡人になって身寄りがないと暮らしていけないのだろう。
・レストランのトイレに行き、個室で用を足そうと思ったら、大量のハエがいた。一つの個室内に少なくとも50匹はいたのではないか! もしかしたら、100匹くらいいたのかもしれない。現実とは思えないハエの数だった。恐れをなして、用を足すのをあきらめた。ガイドさんが案内したレストランというのは、おそらく中級以上の店なのだろうから、そこでもこのような状態では、もっと大衆的な店のトイレがどのような状態が想像がつく。ただ、すべてのトイレがこれほど汚かったわけではない。同じくらいハエの多いところを一箇所見たが、清潔なところもいくつもあった。ホテルなどは清潔だった。
・途上国では、野良犬をたくさん見かけるが、パキスタンでは犬が少ない。野良犬をほとんど見かけない。ペットとしての犬も見かけない。ブータンやスリランカでは一日車で走っていたら、それこそ100匹近い野良犬を見かけるのではないかと思うほどだが、パキスタンでは4日間で10匹も見ていない。
・まとめとして、パキスタンととても貧しくて、立ち遅れた国だった。そして、やはり女性差別が前提となった社会だった。だが、平和で穏やかな、遺跡に恵まれた国だった。そして、とてつもなく暑い国だった!
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コメント
お疲れさまでした。今回もハードな旅だったようで、ご無事で何よりです。パキスタンは、40年位前に、飛行機の乗り継ぎで、カラチに1日滞在したことがあります。そのとき覗いた街の雑踏に圧倒されました。今思えば、カルチャーショックだったと思います。その後訪れたアフリカの自然に癒されました。
投稿: Eno | 2018年6月28日 (木) 18時02分
Eno 様
コメント、ありがとうございます。
そうですか、カラチに行かれたことがあったんですね。もしかしたら、車の多さを除けば、そのころと大差ないかもしれません。ブログには書きませんでしたが、私は、それこそ40年近く前に行ったバンコクに似た雰囲気(それは人口の多いアジアの途上国の雰囲気なのでしょう)を感じたのでした。
ときどき、ブログを拝見しています。大変楽しく読ませていただいています。石川淳(昔、何冊か読んで、とてもおもしろく思ったのでした)を読み返したい気持ちになりました。
投稿: 樋口裕一 | 2018年6月29日 (金) 08時59分