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エルトマンの澄みきって知的なメンデルスゾーンとモーツァルトの歌曲

201873日、紀尾井ホールでモイツァ・エルトマンのリサイタルを聴いた。

ザルツブルク音楽祭でみた「ばらの騎士」でゾフィーを歌っていたのがエルトマンだった。歌も容姿も素晴らしかった。それ以来、ずっとリサイタルをききたいと思っていた。それが実現。期待通りに素晴らしい演奏だった。ピアノ伴奏はゲッツ・ペイヤー。ピアノもぴったりと寄り添ってとても良かった。

曲目は前半にメンデルスゾーンの歌曲(「新しい恋」「二人の心が離れてしまえ」「ズライカOp.34-4」「恋する女が書いていること」「葦の歌」「ズライカOp.57-3」「歌の翼に」「初めてのすみれ」「挨拶」「花束」「春の歌」)

澄みきった清らかな声、正確な音程、知的な歌い回し。メンデルスゾーンの古典的な面をしっかりと守って、ロマンティックにしすぎることなく、的確に歌う。「ズライカOp.57-3」などのドラマティックな歌も、激しすぎないが、要所を抑えているので、退屈させることなく聴くことができる。「歌の翼に」も、ロマンティックな気持ちを抑制して、静かに、しかし憧れが徐々に強まるように歌う。本当に素晴らしい。

後半はモーツァルトの歌曲(「満足」「すみれ」「寂しい森の中で」「魔法使い」「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき」「静けさはほほえみつつ」「歓喜に寄す」「春へのあこがれ」「ラウラに寄せる夕べの想い」、最後にコンサート・アリア「さらば我が麗しの恋人~とどまれ、いとしき人よ」)。

メンデルスゾーンと基本的に同じような歌い方だが、曲調が異なるので、おのずとモーツァルトの歌になる。とてもチャーミングでありながらも気高さを感じる。そして、それ以上に私は知性を感じる。細かいところまで神経が行き届いており、時に明るく、そして時に強く歌う。モーツァルトらしい遊び心も歌いきって、見事。

ただ、CDならともかく、リサイタルで、歌曲集として連なりがあるわけではないいくつもの歌曲を次々と10曲程度ずつ歌っていくと、どうしても盛り上がりに欠けてしまう。これまで私の聴いた歌曲のリサイタルのように、一人の作曲家につき5~6曲程度にして、目先を変えるほうが盛り上がったと思う。ところが、エルトマンはあえて、そのようにしないことを選んだ。おそらく、俗受けするのではなく、じっくりと1人の作曲家を味わって歌おうとしたのだろう。気持ちはよくわかるが、私としては、せっかくこれほど素晴らしい演奏なのに、どうしても曲想が一本調子になってしまうのをやはり残念に思った。

とはいえ、本当に素晴らしい演奏。アンコールはメンデルスゾーンの「夜の歌」。最後にもう一曲歌われたが、知らない曲だった。

NHKが収録していたので、そのうち放映されるのだろう。エルトマンは現代のリート界を代表する名歌手だと思う。これからももっと聴きたいものだ。

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コメント

最期の曲は、プログラム中の歓喜に寄す(だだし第1節のみ)です。

投稿: | 2018年7月 4日 (水) 20時20分

コメント、ありがとうございます。
そうでしたか。聴き覚えはあるものの知らない曲だと思ったのですが、聴いたばかりの曲だったんですね。そうなんです、私は聴いたばかりの曲もわからないほど音楽的な才能がないのです。ただ、好きなだけなのです。ともあれ、とても美しい歌いぶりでした!

投稿: 樋口裕一 | 2018年7月 5日 (木) 00時08分

最近すれ違い少しご挨拶させていただけましたが、こちらに書かせていただくのは久しぶりになります。
平日でしたのでこのコンサートには行けませんでしたが、エルトマンは昨年下野竜也指揮N響定期で「ルル組曲」で歌ったのを聴きました。しかし現代音楽でしたし歌ったのはとても短い間でしたのでよくわかりませんでした。
エルトマンはバッハ・コレギウム・ジャパンの常連でもあり、下野さんは鈴木優人さんが中学生時代から音楽的なつながりで知っているという事で、二人ともBCJに縁があるという事になります。
エルトマンがリこのサイタルの後で帰国のための飛行機に乗ると、隣合わせがヨーロッパ演奏旅行に向かうBCJのメンバーたちだったそうです。彼女は9月にはそのBCJのコンサートで、優人さんが指揮するモーツァルトのレクイエムやモテットを歌うそうです。
その様な事もありまして、このブログは鈴木雅明夫人で優人さんの母親、自身もBCJを創立時代から支えたアルトのメンバーでもある環さんのTwitterアカウントに送らせていただきました。現在まだヨーロッパにいらっしゃいますが、喜んでおられた様子です。環さんは世界的バッハ音楽家の奥さんで、すでに有名なマルチ音楽家のお母さんですからなるほど凜とした雰囲気はありますけど、いつもにこやかで気さくな方です。以前うかがったお話では、エルトマンさんはベジタリアンという事で、BCJで歌っている時は毎日枝豆を茹でて差し入れしたそうです。
この団体を聴いたことで、それまで「つまらん」「アカデミックなだけ」という古楽への偏見が消えました(^^)/。よく研究しているのは確かですが、そこから古楽ならではの新しい生命を曲に吹き込んでいます。

投稿: 崎田幸一 | 2018年7月15日 (日) 07時39分

崎田幸一 様
コメント、ありがとうございます。
先ごろは大変失礼いたしました。
BCJはときどき聴かせていただいておりますが、エルトマンが常連だとは知りませんでした。そうでしたか! 「ルル」はきっと彼女にぴったりでしょうね!
ぜひまたエルトマンを、そしてBCJを聴かせていただきたいものです。

投稿: 樋口裕一 | 2018年7月15日 (日) 23時48分

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