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映画「ここに幸あり」「汽車はふたたび故郷へ」「皆さま、ごきげんよう」「放浪の画家ピロスマニ」

 ジョージア出身の映画監督イオセリアーニの映画をDVDで3本みた。先日このブログに2本取り上げたので、合計5本見たことになる。簡単に感想を記す。また、「放浪の画家ピロスマニ」を久しぶりにみた。感想を記す。

 

51v34jrkdwl_sy90_ 「ここに幸あり」 オタール・イオセリアーニ監督 2007

 ジョージア出身のイオセリアーニ監督のフランス映画。大臣を罷免されたヴァンサンは、初めのうちは途方に暮れるが、やがて自由気ままに生きるようになる。それだけの話なのだが、様々な動物が登場して、何かというと友人たちで集まってタバコを吸い、酒を飲み、歌を歌い、楽器を演奏するというほのぼのした雰囲気がしみじみと素晴らしい。金や権力に執着してあくせくすることの愚かさをさりげなく描く。

 1930年代のフランス映画を思い出す。ルネ・クレールやジャン・ルノワールやジュリアン・デュヴィヴィエの描いた古き良きパリの香りがする。ジョージアで育ったことで、田舎の人間関係を今も心の奥に持っているということだろう。

 なんとヴァンサンの老いた母親を演じているのはミシェル・ピコリ! 日本映画で言えば、仲代達也がおばあさんを演じているようなものだ。そこにまったく違和感がないのも、まさに名優! 

 現代はJardins en Automne「秋の庭」。多くの動物、民族、様々な階層の人が共生すること心のふるさとを描こうとする。現実にはあり得ない社会なのだが、このように描かれると、つかの間の自由な世界が広がる思いがする。

 

51pmsr9omyl_sy90_ 「汽車はふたたび故郷へ」 2010

 これまで見てきたイオセリアーニ監督の映画と少し趣きが異なる。これは自伝的な映画らしい。ジョージアで育った少年が映画監督になるが、ソ連時代の検閲のために自由に作品を発表できない。自由を求めてフランスに亡命するが、そこでもプロデューサーの干渉によってうまくいかない。

苦悩が描かれるが、そこはイオセリアーニ監督。タバコを吸ったり酒を飲んだり楽器を演奏したりしてくつろぐ場面、様々な動物の場面がでてきて、独特の余裕、独特の生命賛歌がある。声高に語るのではなく、しみじみと家族愛、故郷愛、生命への愛が画面から漏れてくる。

 主人公は川の中で人魚の幻影を見る。最後、久しぶりに故郷に帰り、家族と川辺にピクニックに行って、人魚に誘われて川の中に入り込む。そこで映画は終わる。人間社会から一歩離れて、ある種の理想郷を描くことの決意表明だと私は思う。このような苦しい時代の後、イオセリアーニ監督は人間界から少し身を離して、人魚の世界、すなわち独特の理想郷を描くという作風で自分の道を見つけ出したのだから。

 

61pyirjbgl_sy90_ 「皆さま、ごきげんよう」 オタール・イオセリアーニ監督 2015年 

 81歳になったイオセリアーニが監督したフランス映画。これまでのイオセニアーニ監督の映画は同時代の人々の軽いタッチの群衆ドラマだったわけだが、今回はフランス革命期のパリでのギロチンで斬首される貴族の話に始まって、近代的な戦闘(おそらくソ連内、あるいは東欧での衝突)の場面が入り、そのあとで現代のフランスの話になる。つまり、歴史的にも縦断する群集劇と言えそうだ。

大勢の人物が登場し、その人たちがすれ違うだけだったり、かかわりを持ったりしながら、いくつものエピソードが語られるというイオセニアーニ監督特有の作風。そして、イオセリアーニ映画でよく見荒れる通り、タバコを吸い、酒を飲む場面が頻出する。

主役格は二人の老人。衝突したり、仲直りしたり、政府に歯向かったり、酒を飲み交わしたりして過ごす。かつて命を奪い合う出来事が起こり、今は平和になっているが、あれこれの小さな衝突がある。そのような世界を描く。時空間をつなぐ小道具としてギロチンできられた首・頭蓋骨があり、塀の中に突如として現れては消える時間を行き来する扉がある。

原題はCHANT D’HIVER、つまり「冬の歌」。人生の黄昏を迎えた二人の最後の人生の哀歓を描いているといえそうだ。ただ、残念ながら、私には全体を通すテーマがよく理解できなかった。おもしろいとも思わなかった。あれこれ盛り込みすぎて収集できなくなっているのを感じた。

 

51fqwqbcmvl_sy90_ 「放浪の画家ピロスマニ」 ゲオルギ・シェンゲラヤ監督 1969

 ジョージア(もちろん、当時はグルジアと呼ばれていた)映画の古典的傑作。40年以上前、封切時にみた。が、まるで絵画のような美しい映像の連続だったこと以外、内容についてはまったく覚えがない。アブラゼ監督のジョージア映画を3本、岩波ホールで見たのを機会に、久しぶりに見直した。封切時に見た時の感覚を思い出した。

 説明を排した寡黙な映画だ。すべての場面がそのまま絵画になるほどに美しく味わいがある。ピロスマニの絵画を模した構図。ジョージア(の自然や街並みを背景に放浪の画家ピロスマニの生涯が描かれる。まさしくピロスマニ自身の絵画による絵巻物。セリフが少なく、ほとんど説明がないがゆえに、ピロスマニの孤独な人生がそのまま伝わる。初めて見た時には、あまりに不思議な感覚に途方に暮れた記憶があるが、今見ると、その美しさに酔う。

 野原や畑を走る少年とピロスマニが重なる場面がある。ピロスマニが少年の心を大人になっても持ち続けて、ナイーブ(フランス語の本来の意味での)な絵画を描き続けたことを示す。この映画手法もまたとてもナイーブだが、この素朴な映画の中でこのように描かれると、素直に納得する。

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