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テンギス・アブラゼ監督「祈り」「希望の樹」「懺悔」

 岩波ホールでジョージアの巨匠テンギス・アブラゼ監督の三部作「祈り」「希望の樹」「懺悔」の連続上映を見た。アブラゼ監督の名前も初めて知った。三つの作品はいずれも絶品だった。ただ、重いテーマなだけに三本続けてみたあと、かなり疲れた。

「祈り」 1967

 モノクロの映像詩のような映画。いつの時代のことなのかよくわからなかった。中世なのだろうか。コーカサス地方で暮らすキリスト教徒とイスラム教徒にかかわる二つの話が中心になっている。一つはイスラム教徒に寛大に接したために仲間に責められて村を追われるキリスト教徒の話、もう一つはキリスト教徒を客人に招いたために村人に責められて殺されるイスラム教徒の話。いずれも異教徒に対して寛大に振る舞った二人が不寛容な人々に責め立てられる物語だ。

そこに清楚で美しい女性が悪魔のような男と婚礼をあげ、ついには死に追いやられ、葬儀が行われる場面が超歴史的に(つまり、古代や現代を舞台にそのような場面が展開する)挿入される。高潔で寛大な天使のような精神が不寛容で欲深い悪魔のような精神に蹂躙されるという普遍的な真実を示しているのだろう。

とても厳粛で宗教的で美しい。ただ、映画全体としては、いかにも「芸術」という感じがして、鬱陶しい気がしないでもない。

 

「希望の樹」 1976

 ロシア革命前のジョージアの村の物語。村人たちの様々なエピソードが語られるが、中心になっているのは貧しい青年ゲディアと清純な少女マリタの恋だ。二人は牧歌的な社会で清純に愛し合うが、マリタは権力者シェテに見染められ、親に結婚を決められてしまう。結婚後もゲディアと室内で会っているところを目撃されて、不義を働いたとみなされ、さらし者にされ、村人たちによって死に追いやられる。

そうした物語の中に、村人から信頼されているが、封建的な因習を押し付ける長老、多くの男を色香で惑わす美女、因習をすべて破壊する革命を熱狂的に求める男、優雅な装いのぼろ服を着て過去の恋愛について触れ歩く厚化粧の中年女性、金の魚や希望の樹など奇跡の生物を発見することに命を懸け、ついには凍死してしまう男性などがからむ。

 重層的に革命前夜の村の状況を描く。ソ連時代の映画なので革命前の牧歌的でありながらも旧弊で閉塞的なジョージアの社会が否定的に描かれる。が、その人間模様はとても魅力的だ。単なる革命礼賛ではなく、人間の奥深くを見つめている。革命前の前近代的な自然崇拝のような不思議な宗教的雰囲気にも心ひかれる。

それにしても映像が美しい。冒頭のひなげしの野原で白馬が死んでいく場面は衝撃的。牧歌的に見える世界で起こる悲劇をこの場面が象徴している。ぼろ服の厚化粧女性の身のこなしもマネの「日傘をさす女性」のような趣があって、とても魅力的だと思った。

 

「懺悔」 1984

 ジョージア内の架空のある市の物語。独裁的な市長だったヴォルラムが病死する。その後、その市長の独裁的な行動の被害に遭った女性が裁判の場で市長の強圧的な行動を語る。市長は黒シャツを着てヒトラー風のちょび髭をつけた、まさしくファシスト風。気に入らない市民に因縁をつけて粛清していく。だが、なかなか愛嬌のある市長で芝居っけたっぷり。「イル・トロヴァトーレ」のアリアを見事なテノールで歌って聞かせたりする。それだけに空恐ろしい。

ここに語られるのは、宗教という精神の指針を失ってしまった人々の動揺だ。市長は現代的な社会の建設のために聖堂を破壊する。すると社会は指針を失ってしまう。市長の息子も孫も、それを失って生きる意味を見つけられずにいる。懺悔したいが、聖堂を壊してしまっているので、それすらできない。

これはまさしくソ連の時代のスターリンによる粛清とその後の状況を描いているだろう。検閲を逃れるためもあってか、すべてが被害女性の「夢オチ」の形をとっており、過去の出来事も虚構が入り混じって幻想的になっている。だが、それが深刻な社会問題を描きながらも、非現実的な場面(甲冑を着た部下たち、女神テミスなど)が加わって、遊び心が発揮される結果になっている。フェリーニ的な映像も時々見られる。

 映像の美しさ、そして市長とその息子の二役を演じる役者さん(アフタンディル・マハラゼ)の演技力に圧倒された。全体的に大変おもしろい映画だった。

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