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映画「誰も知らない」「歩いても歩いても」「海よりもまだ深く」「午後の曳航」

 少し時間的余裕ができたので、DVDを入手して、「万引き家族」で関心を持った是枝監督の映画を中心に何本か映画を見た。簡単に感想を書く。

 

41dqvi6worl_ac_us200_ 「誰も知らない」 是枝裕和監督 2004

 今回初めて見て、「万引き家族」との類似性を考えた。母親(YOU)に置き去りにされ父親の異なる四人きょうだい。もっとも年上の12歳の明(柳楽優弥)がきょうだいのめんどうをみて生活する。子どもたちは出生届が出されておらず、学校にも通っていない。周囲の大人たちは子どもたちの状況を知らず、深入りしようとしない。社会の片隅で子どもたちは悲惨な生活を続け、ついにもっとも年下の女の子は命を失い、途方に暮れた明は遺体をスーツケースに入れて羽田空港近くの河川敷に埋めに行く。

 この出演で柳楽優弥がカンヌ映画祭の最優秀主演男優賞を受賞したわけだが、確かに圧倒的な存在感。柳楽に限らず、子どもたちの演技について是枝監督の演出力に感服する。淡々と悲惨な生活をリアルに描く手腕も見事。ただ、大人たちに知られずに社会の中で孤立して生きていく子どもたちの姿を描くだけで、それ以上の深みを感じない。その点で「万引き家族」との大きな違いがある。

 

51rbwcauabl_ac_us200_ 「歩いても歩いても」 是枝裕和監督 2008

 その昔、家族に期待されていた男性がよその子どもを助けるために自分の命を差し出してしまった。その男性の法事に集まった家族の物語。

それぞれの登場人物が人間関係の悩みを抱え、他者に対する愛情と憤りを併せ持って生きている。映画の前半でわからなかったことが、後半で徐々にわかってきて、それぞれの抱える悩みの大きさが等身大で伝わってくる。「等身大」とここに書いたのは、大袈裟に誇張された形でなくしっかりと伝わるということだ。樹木希林、原田芳雄、阿部寛、夏川結衣、高橋和也らの演技が見事。そして子役たちも素晴らしい。

かつて亡くなった長男という「不在」を中心に物語が展開し、「不在」がみんなの心の影を落としている。ただ一人、その「不在」と関係のない妻(夏川結衣)の連れ子がもう一つの見えない「不在」を成して、その関係がとても興味深い。とても良い映画だと思った。

 

510xw073pel_ac_us200_ 「海よりもまだ深く」 是枝裕和監督 2016

 かつて文学賞を取りながら、その後、書けなくなって、文学の取材という口実の下にいかがわしい私立探偵の職についている男(阿部寛)が、離婚した元妻(真木よう子)と子とともに母(樹木希林)の暮らすアパートに寄ってそのまま台風に遭遇して帰れなくなる。堕落してしまった自分を反省し、やり直したいと考えるが、どうにもならない。そのような男の思いを描く。

私も30代前半までうだつの上がらない何も持たない人間だったので、この男の気持ちはよくわかる。だが、ただそれだけに思える。それ以上の深い内容をこの映画から見つけ出すことはできなかった。是枝監督の演出力には敬服するが、少し物足りなさを感じた。

 

 

41g6zdoesul_ac_us200_ 「午後の曳航」 ルイス・ジョン・カリーノ監督 1976

 大学院生だった時代に予告編を見たのをよく覚えている。だが、三島由紀夫原作の小説が大好きだった私は、イギリスを舞台に改めたこのイギリス映画を「きわもの」だと感じて見に行かなかった。原題は「The Sailor who fell from grace with the sea

それから40年以上たってみてみると、映画としてもとてもおもしろい。母親(サラ・マイルズ)、水夫(クリス・クリストファーソン)も魅力的であり、説得力のある人物として描かれている。

もちろん、横浜が舞台だったはずなのに、映画の中では小さな港町になっていたり、5人の少年たちのリーダーがあまりに独裁的であったりといった違和感はいくつもあるが、ともあれ、私の考える三島のエッセンスを伝えている。海と立ち向かう純粋なる水夫が恋によって卑俗な人間になり下がり、許せなかった少年がそれを罰するという大まかなストーリーも的確に描かれていると思うし、その背景にあるニーチェ的な思想もほのめかされている。海や船や港町の風景も美しい。1970年代の私の心の狭さを反省した。

 

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