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映画「アフガン」「スターリングラード」「素敵な歌と舟はゆく」「月曜日に乾杯!」

 このところ、マイペースで仕事をしている。ロシア旅行をしたせいもあって、ロシア映画、ジョージア映画を何本か見た。簡単に感想を書く。

 

51pbh9cco2l_sy90_ 「アフガン」 フョードル・ボンダルチュク監督 2005年 

 1960年代、高校生だった私はセルゲイ・ボンダルチュク監督の「戦争と平和」を見て圧倒された記憶がある。フョードル・ボンダルチュクはそのセルゲイの息子さんとのこと。8月の戦争の季節なので、戦争映画をいくつか見てみた。

 ソ連によるアルガン侵攻はアメリカによるベトナム侵攻とそっくり同じ構図だ。軽い気持ちで軍隊に入り、アフガンに送られた若者たちは、壮絶で凄惨な戦場を目の当たりにし、現地の人々に支持されていない戦いを経験する。そして、第9中隊の配属された人々は、祖国のため、自分たちの誇りのために戦い抜こうとするが、イスラム兵の総攻撃を受け、一人を残して全滅する。

 戦争の場面があまりにリアル。凄絶な戦争の中に投げ込まれた感じがする。アメリカ映画のように登場人物の個性をうまく描き分け、芸術家の卵、うぶな青年、与太者の生きざま、死にざまを追っていく。

 ソ連のアフガニスタンに対する暴虐、アフガニスタン国民に対するソ連兵たちの人権蹂躙などは描かれない。私たち西側の人間からすると、かなりソ連寄りのこの映画の視点に疑問を持たざるを得ない。だが、ロシア映画としてはやむを得ないだろう。そもそもこれがロシア人の視点なのだろう。

 

51novyuazql_sy90_ 「スターリングラード」 フョードル・ボンダルチュク監督 2013

 映画の冒頭、2011年の東日本大震災のがれき(ただ、看板などの様子からして、ニューヨークあたりのチャイナタウンっぽい)が映し出される。救援に来たロシアのグループの1人が生き埋めになったドイツ人を助けようとして、繋がった電話で話しかけて元気づけようとする。そうして、スターリングラードの対ドイツ軍の凄絶な戦いの中でがれきの中で生き抜いた自分の母親とそれを守った男たちの話をする。

 ソ連とドイツの戦争を大局から描くのではなく、アパートの中に孤立しながら、貧弱な武器だけで敵に攻撃を仕掛ける数人に焦点を絞っている。常に煤が降りしきる中、薄汚れた兵士たち、市民たちが必死に戦い、殺し合う。ソ連兵もドイツ軍将校も愛を大事にし、私怨にかられる。アパートに立てこもった5人は一人の女性を守ったまま全員死んでいく。

 スターリングラードの凄絶な戦いの全体像が分からず、アパートに置かれた人々の位置づけなのが曖昧なので、少々退屈したが、映像はきわめて芸術的。かつてのソ連映画のような説教臭さもヒロイズムもなかった。好感の持てる映画作りではあった。

 

51wte3qsxl_sy90_ 「素敵な歌と舟はゆく」 オタール・イオセリアーニ監督 1999

 ジョージア(グルジア)出身の映画監督イオセリアーニの作ったフランス映画。戦争映画を見た後でこれを見ると、心からホッとする。

 不思議な群集劇だ。名前も経歴も明かされないままパリの街のたくさんの人物が登場する。その人々があちこちでかかわりを持ったり、お互い知らないままにすれ違ったり。中心になるのはある大邸宅の裕福な家族。妻が実業家として活発に動き回る。おしゃれに着飾ってパーティを開き、階層を強く気にかけ、上流階級として下層の人たちを叱り飛ばして生きている。老いた夫や子どもたちは、そうした環境から逃げ出したがって、下層の人々と親しくしている。息子は実際に町の下層の人々と親しく交わるうちにチンピラと関わって刑務所に入る。夫は最後、小舟に乗って邸宅を脱出し、歌いながら放浪する。小さな子どもやペットのコウノトリは家に寂しく残される。

 それだけの話なのだが、軽妙でさりげなくて、しかも観察と暖かさにあふれているので、退屈しないでみることができる。シューベルトの「美しき水車小屋の娘」の第1曲「さすらい」がたびたび聞こえてくる。まさしく、これは「さすらい」の映画。がんじがらめになった現代社会から身を離してもっと自由にもっと気楽に、お金や階級やしきたりにこだわらずに生きていくことを、肩ひじを張らずに自然に語りかける。

 原題はAdieu, plancher des vaches。直訳すると、「さらば、牝牛の床よ」ということになると思うが、要するに、「さらば、住み慣れた家よ」というような意味らしい。

 

51bzpnhhmhl_sy90_ 「月曜日に乾杯!」  オタール・イオセリアーニ監督 2002

 これもイオセニアーニ監督らしいとぼけた味わいの映画だ。

中年男ヴァンサン(ジャック・ピドゥ)はフランスの田舎町で家族と暮らし、車と電車で工場に通い、やる気のない労働者たちに交じって、健康の上からも環境のよくない職場で溶接工として単調に働いている。ところが、ある日、拘束されて働くことに嫌気がさして職場放棄し、遠くに住む父親や友人と会い、そのあと、ふらっとヴェネツィアに出かける。そこで会った人と友達になって、ワインを飲み、お金が底を尽きたことにも特に気にせず、気ままに暮らし、しばらくして家に戻る。

それだけのストーリーが、田舎の家族や旅の途中で出会った人々の人間模様とともに描かれる。これを見るほとんどの人が、「ああ、実はオレももともとはこんな風に、お金にも人間関係にもあくせくしないでのん気に生きていくのが好きなタイプの人間なんだ・・・」と思うだろう。世の中の矛盾にうんざりしながらも、肩に力を入れずに町の片隅で人間を信じてのんびり生きていこうとする生き方に共感する。このような能天気な生き方を通すには、それなりの覚悟が必要であり、それを映画として描くには恐るべき人間観察が必要だろう。それを見事にやってのけるイオセリアーニ監督に脱帽。

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