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カンブルラン+読響のブルックナー4番に興奮

 2018921日、サントリーホールで読売日本交響楽団のコンサートを聴いた。曲目は前半にモーツァルトの「後宮からの逃走」序曲とピアノのピョートル・アンデルシェフスキが加わって、ピアノ協奏曲第24番。後半にブルックナーの交響曲第4番(2004年版コーストヴェット校訂版)。素晴らしい演奏。

 まず、「後宮からの逃走」の最初の音にびっくり。なんとしなやかで柔らかくて美しい音! 読響はこれほど素晴らしいオーケストラになっていたのかと改めて驚いたのだった。序曲は本当に見事な演奏。疾走感があり、しなやか。

 ピアノ協奏曲もよかった。アンデルシェフスキの演奏を初めて聴いたと思うが、実に繊細。外面的な効果を狙わずに、内省的に音楽を進めていく。美しい音を連ね、しみじみと演奏。短調のこの曲の悲劇性を誇張するわけでもなく、まさしく音そのものを浮かびあげるような演奏。大変好感を持ったが、ただもう少しドラマがないと、深い感動をしないとも思ったのだった。

 後半のブルックナーは圧倒的だった。まずオーケストラの見事さに感服。とりわけホルンが素晴らしい。日本のオーケストラでホルンに感服することなどないのだが、今回はホルンの音の美しさに何度もほれぼれした。そのほかの管楽器も、そして弦楽器も素晴らしかった。

 カンブルランの指揮については、何と形容してよいのかわからない。これまで私が聴いてきたブルックナーとあまりに違う。これまでの指揮者たちは、ブルックナーの魅力的な様々な面をあえて無視して一つの面だけを強調して演奏してきたのだとつくづく思った。クナッパーツブッシュはもちろん、ヨッフムにしてもヴァントにしても、崇高でスケールの大きなブルックナーを表に出し、それ以外のブルックナーは陰に隠れていた。カラヤンだって、バレンボイムだって、ヤングだって、崇高さは強調しないにしても、何らかの一つのトーンを前面に押し出すことで力任せに統一を取っているきたように思える。ところが、カンブルランはこれまで多くの指揮者が顧みなかった様々な魅力をブルックナーの音楽から引き出してくれる。一つ一つの部分があまりに美しい。万華鏡を見るように、ブルックナーの音楽が持つ様々な表情を聴かせてくれる。だが、カンブルランがすごいと思うのは、様々な表情をブルックナーの音楽の中から引き出しながら、完璧に統一が取れており、最後には納得させてしまうことだ。

 第2楽章はゆっくりと繊細に管楽器の美しさを描き出し、ブルックナーのしなやかな面を聴かせてくれた。第3楽章はもっとダイナミックな世界を展開してくれた。そして、第4楽章で、これまでの楽章を踏まえながら、曲折を経て高みに上っていく。その構築感も見事。

 私はカンブルランの魔法にかけられたように、ブルックナーの世界を生きた。まさに魔法だと思った。何度か感動の涙を流した。カンブルランの演奏を聴くと毎回思うが、本当にすごい指揮者だ!

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音楽」カテゴリの記事

コメント

樋口裕一さん、シルヴァン・カンブルランのブルックナーが良かったようで何よりです。

読売日本交響楽団のパンフレットには、
『カンブルランがモーツァルトのオペラ〈後宮からの誘拐〉を振る。(以下略)』
とあり、何やら楽しそうなコンサートになりそうなことが書かれていますが、ほんとうに面白かったのですね。

それにしても僕は言葉のない音楽から、樋口裕一さんのメッセージを読み取る力にいつも関心させられているのですが、これもひとえに経験の成せる技なのでしょうね。

今、テレビではブルックナー交響曲第9番ニ短調を放送していますが、この曲を理解するのはとても難しいことであると思います。

投稿: KUM | 2018年9月23日 (日) 22時15分

KUM様
コメント、ありがとうございます。
おほめにあずかって恐縮です。
ですが、私は音楽の才能は皆無、ただ小学校5年生のころからずっとレコードを聴いていましたので、頭の中にいろいろの演奏の蓄積があります。それらを基準にして、新たに聴いた演奏について、きわめて主観的に感じたことを書いているだけです。それがたまたまほかの人に納得してもらえることがある(そうでないことも、もちろんたくさんある!)というだけのことだと思います。ただ私はそのような音楽の聴き方を自分でとても楽しんでおります。
それにしても、カンブルランは大指揮者である!という思いを強くしたのでした。

投稿: 樋口裕一 | 2018年9月24日 (月) 08時33分

樋口裕一様

>しばらく心の底から感動するコンサートに出会っていない。

以前こうおっしゃっていましたが、今回は心の底から感動できたのではないでしょうか?

投稿: KUM | 2018年9月24日 (月) 12時19分

KUM 様
コメント、ありがとうございます。
おっしゃる通り、この日のコンサートは心から満足しました。9月に入ってからは、かなり満足できるコンサートが続いています。

投稿: 樋口裕一 | 2018年9月27日 (木) 09時35分

樋口裕一様

僕はようやくシベリウスの交響曲全集を買おうとしているところです。しかしながら、樋口様が満足できるコンサートに行けて何よりです。

ところで僕はドヴォルザークのピアノ協奏曲の存在を知りました。ブラームスピアノ協奏曲第1番は、バーンスタインとグールドのCDを持って行くが、こちらにはクライバーとリヒテルのディスクがあります。古い録音でSACDではなくてはいい音がしないという話もありますが、一度は聴いてみたいかと思います。

投稿: KUM | 2018年9月27日 (木) 21時27分

KUM 様
コメント、ありがとうございます。ドヴォルザークのピアノ協奏曲は、CDは持っていますし、何度か聴いたことはありますが、実演では一度も聞いたことがありません。あまり印象に残る曲ではありませんでした。ブラームスのピアノ協奏曲は、私は第2番のほうがずっと好きです。第1番ももちろん何度か実演を聞いていますし、名曲だと思うのですが、第2番ほどの魅力を感じません。

投稿: 樋口裕一 | 2018年10月16日 (火) 23時06分

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