東京オペラプロデュース「ルイーズ」を楽しんだ
2018年9月22日、新国立劇場中劇場で東京オペラプロデュース公演、ギュスターヴ・シャルパンティエ作曲「ルイーズ」をみた。指揮は飯坂純、演出は馬場紀雄。
実演はもちろん映像もこれまで見たことがなかったと思う。有名なアリアだけは何度か聴いたことがあった。初めてみて、とても興味深いオペラだと思ったが、同時に作品としての限界も感じた。
両親にがんじがらめにされて愛する人との交際も禁じられたパリの娘ルイーズが束縛から自ら逃れる物語。それをパリの市井の人々の生活と絡めて描く。作曲者ギュスターヴ・シャルパンティエ(ドビュッシーやシュトラウスと同時代のフランス人)の意図はよくわかる。まさしく自然主義文学のオペラ版だ。だが、この台本だったら、ヤナーチェクのような、もっと鋭利な音楽にすべきではないか。台本のわりには、かなり平凡で、時に甘ったるい音楽が歌われる。市井の人の生活感も音楽によってはさほど伝わらない。もちろん、しばしばきれいな音楽が聞こえてくるが、描かれている世界とそぐわない。
いや、台本自体、市井の人々と主役四人の描き方が中途半端だと思う。さほど刺激的でもなく、かといってさわやかなわけでもなく、現実をえぐりだすわけでもない。また、シュトラウスの「インテルメッツォ」のように徹頭徹尾、下世話な形而下的夫婦話を描こうとするわけでもない。もう少し徹底してくれないと、インパクトを感じない。
歌手陣はとてもよかった。とりわけ、ルイーズの菊地美奈は声も伸び、音程もよく、素晴らしかった。ジュリアンの高田正人、父の米谷毅彦、母の河野めぐみもしっかりした声で見事に歌っていた。そのほかの歌手たちもとてもレベルが高かった。これまでこの団体のフランス・オペラを見ると、どうしてもフランス語の発音の不正確さが気になったが、今回はかなりこの面に気をつかったと見えて、私はまったく気にならなかった。
指揮については知らない曲なので何とも言えない。ただ、オーケストラ(東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団)については、しばしば精妙さを欠いたが、おそらく練習時間をあまりとれなかったのだろう。
演出の馬場はシャルパンティエの時代と現代の日本の状況と重ね合わせたかったのだろう。台本からすると、ルイーズの一家も、そしてお針子たちももっと貧しく描くべきだろうが、そうなると現代の日本とかけ離れてしまう。そのため、少し階層を上げて描いたのだと思う。だが、そのためにルイーズの父の絶望的な気持ちが伝わらないし、閉塞状況とそこからの解放の願望が弱まってしまった。熟慮の結果、このような形を選択したのだと思うが、私としては、もっと貧しく描くべきだったと思う。
とはいいつつ、ともあれ前から一度見たいと思っていた「ルイーズ」を見ることができて、とてもうれしかった。これからもこのような珍しいオペラを上演してくれることを切に願う。
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