オレグ・クリサ 枯れた味わいのヴァイオリン
2018年9月1日。四谷区民ホールでオレグ・クリサ ヴァイオリン・リサイタルを聴いた。
オレグ・クリサの名前は知らなかった。たまたまネットで告知を見つけた。オイストラフの高弟だという。ウクライナ出身だという。現代作曲家の多くが曲を献呈しているという。世界の巨匠として知られているという。かつてオイストラフの録音に熱狂し、このところ旧ソ連に大いに関心を惹かれている私としては聴かないわけにはいかない。
ヴァイオリンが始まる前に、客席にいた人たち4、50人のア・カペラによる合唱でウクライナの古い歌が歌われた。アマチュアの方たちらしいが、素晴らしかった。
ヴァイオリンの曲目は前半にブラームスのF.A.E.ソナタの第3楽章とブラームスおヴァイオリン・ソナタ第3番。後半にシューマンのソナタ第1番と、スタンコーヴィチという現代作曲家がクリサのために書いた「Almost Serenade」の世界初演、そしてヴィエニャフスキの小曲。
オイストラフのようなダイナミックでロマンティックで厚い音のヴァイオリンを期待していたのだが、まったく正反対。悪く言えば、メリハリがなく、一本調子で元気のない音楽。見かけもかなりの高齢者(76歳だとのこと)だが、音楽は見た目以上に若さがない。音も美しくない。しばしば音が濁り、音程もよくない。初めは「なんてひどい演奏だ!」と思った。かつてのテクニックを失ってしまったのだろうと思った。
が、聴き進めるうち、枯淡の境地に心地よさを感じてきた。これはこれで一つの芸だと思った。肩の力を抜いた脱力系の音楽。あまり美しくない音でメリハリなく弾くのだが、ちゃんと音楽になっている。しみじみとブラームスの、そしてシューマンの音楽が形作られていく。もしかしたら、ふだん私たちが聴いている音楽こそが、厚化粧の、大げさに表現した音楽なのではないか。クリサの音楽のほうが、ブラームスやシューマンの作りだそうとした世界に近いのではないかとさえ思った。
ただ、そうは思いながらも、ずっとこれだと少々退屈するとは思ったのだった。
ピアノはバリー・スナイダー。とてもきれいな音でうまくヴァイオリンに合わせている。スタンコーヴィチの曲ではもうひとり、クリサのお弟子さんだという澤田智恵が加わった。とてもきれいな音だった。
リサイタルが終わった後、また最初と同じメンバーによる合唱で、またウクライナの曲。これもしみじみと味わいのある歌。
クリサはほとんど毎年のように来日してヴァイオリンを披露しているという。固定客が多いようで、親密な空間ができている。これはこれでとてもいいコンサートだと思った。
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