映画「とうもろこしの島」「みかんの丘」「あの日の声を探して」「シビラの悪戯」「禁じられた歌声」「きっと、うまくいく」
ジョージアやアフリカやインドの映画を数本みた。簡単な感想を書く。
「とうもろこしの島」 ゲオルギ・オヴァシュヴィリ監督 2014年
とても美しい感動的な映画。昔の新藤兼人監督の「裸の島」を思い出した。新藤の映画は夫婦(殿山泰司と音羽信子)が島で働く様子をほとんど会話のない映像でとらえていたが、「とうもろこしの島」は老人と孫娘の働く様子を、これまたほとんど会話のない映像で綴る。
ジョージアの紛争地帯にあるエングリ川には、雨期の後に肥沃な中州ができる。ある老人が孫娘とともにそこにやってきて小屋を作り、とうもろこし畑を作る。そこに敵に追われたジョージア軍の兵士が重傷を負って逃げてくる。二人はそれを助け、孫娘は兵士に惹かれ始める。だが、敵軍に追われて兵士は去る。何事もなかったようにかつての生活が始まり、収穫が近づく。ところが、急激に大雨になったため、とうもろこしを小舟に載せて去ろうとするとき、老人は足を取られて舟に乗り込めず、川に流されていく。そして、数か月後、今度は別の老人が新たにできた中洲にやってきて、同じようにとうもろこしを作ろうとする。
四季があり、自然の過酷な営みがあり、人間同士の争いがある。だが、そこで農民は土地を耕し生きていく。セリフのほとんどない映画であるだけに、むき出しの「生」を感じる。男と女が惹かれ合い、戦い、懸命に生きる。それだけの映画なのだが、美しい映像とともに心の奥にしみる。
日本では「とうもろこしの島」と同時上映された。2本の予告編を見たのを覚えている。ジョージアのアブハジア自治区で独立戦争が起こっている頃、みかんを栽培するエストニア人の集落に高齢の二人のエストニア人が残っている。そこに戦いが起こり、同じ家にともに重傷を負ったキリスト教徒のジョージア人とイスラム教徒でアブハジア自治共和国を支援するチェチェンの傭兵の二人が介抱されることになる。二人の世話をする老人イヴォ(レムビット・ウルフサク)の仲立ちで敵同士の二人は心を通わせ始めるが、不寛容な兵隊たちが現れて撃ち合いが起こり、ジョージア人は殺される。
悲劇的な結末に終わるが、うまくすればそうならなかったのではないか。ちょっと唐突で安易な気がしないでもない。中立的なエストニア人のところに敵対する二人が運ばれるという設定自体、寓話として描いているにしても、あまりに図式的すぎる。そのような点で私としては素直に感動できない部分があった。とはいえ、映像は美しく、主役の老人も魅力的(ただ、役柄のわりにちょっとカッコよすぎる!)であって、なかなかの佳作ではある。
「あの日の声を探して」 ミシェル・アザナヴィシウス監督 2015
チェチェン紛争を舞台にしている。テロ組織壊滅という名目でロシア兵がチェチェンに進攻するが、実際には略奪、暴行、無差別殺戮が行われる。ロシア兵に両親を殺された9歳の少年ハジは小さな弟を連れて逃げ出し、手に負えなくなって弟を放置、自分も声を失って放浪する。EU職員でチェチェンに派遣されているフランス女性キャロル(ベレニス・ベジョ)に救われ、ともに暮らすようになる。最後にはハジは姉と再会して家族に戻る。そうしたストーリーと、ロシア軍に入り、理不尽が通用する軍の中で生き抜くうちに人間らしい感覚をなくし暴力的になっていく若者が並行して描かれる。
とてもよくできた映画だと思う。一般の国民が犠牲になる戦争の悲惨をわかりやすく描いているし、声を失った少年の気持ちもよくわかる。略奪や殺戮を受け入れる人間になっていく若者のすさんだ気持ちもよく描けている。キャロルを演じるベジョも同僚女性を演じるアネット・ベニングも魅力的。ただ、これと同じような映画はこれまで何度も見てきた気がする。それ以上の映画には思えない。
ジョージア出身の女性監督ナナ・ジョルジャーゼの映画。14歳の美少女シビラ(ナッサ・クヒアニチェ)が学校の夏休みに親戚のいるジョージアの田舎町にやってくる。少年はすぐにシビラに恋に落ちるが、シビラはその少年の父親に恋し、誘惑しようとする。父親のほうは村のきれいどころ何人かとすでに不倫関係にある。そのような村の人々の様子を描く。
トルナトーレ監督の「マレーナ」によく似た雰囲気。フェリーニの「アマルコルド」も思い出せてくれる。それらの影響を受けているのかもしれない。イタリア的な人間模様があり、ファンタジックな映像(海底に沈んだ船を陸にあげるフランス人の船長のエピソードなど)がある。最後、シビラが父親を誘惑しようとするが、誤解した息子に撃たれる。
村で「エマヌエル夫人」が上映されるというので騒ぎになっていたり、何度もシビラの裸身が映し出さたり、浮気性の人妻のセックス話が出てきたりして異様なまでにエロティック。ただ、女性監督であるだけに、とても美しい。とはいえ、やはりフェリーニやトルナトーレなどの巨匠の映画ほどの躍動感も人生の機微もなく、ただ14歳の少女の魅力を見せつけるだけの映画で終わっている。確かに目を見張るような魅力的な少女ではあるが、特に美少女趣味のあるわけではない私としては、この映画にあまり惹かれなかった。
マリ共和国の都市ティンブウクトゥを舞台に、イスラム過激派が街を支配していく恐怖を描く。原題は「ティンブクトゥ」。この映画の中心は歌を歌うのを好む男とその妻、そしてその娘。男が牛について諍いから猟師を死なしてしまい、死刑になる物語を中心にティンブウクトゥの町の人々を描く。街では歌もサッカーも禁じられ、何もかもが支配者たちの思うようになっていく。なかなかリアル。
ただハリウッド映画ふうに政治的恐怖を強烈に描くのではなく、西アフリカの人々の自然の中で生きる人々の生活を淡々と描く。むしろ、平和で淡々とした日常の中に独善的な人々が現れて静かに支配していく様子を描いるといえるだろう。ただ、焦点がどこにあるのかわからず、多くの登場人物のキャラクターも描かれないので、特に感情移入することもなく、共感するわけでもなく、そもそも監督が何を言いたいのかもよくわからない。散漫な印象を受けた。ティンブクトゥの魅力的な景色に惹かれただけの映画だった。
「きっと、うまくいく」 ラージクマール・ヒラニ監督 2010年
インド映画。面白さという点では最高だと思う。久しぶりにこんな愉快で痛快で笑えて感動できる映画をみた。インド映画はこれまであまり見ていないが、こんなに面白いのだったら、これから病みつきになりそう!
エリート大学が舞台。そこに合格したが、やる気のない二人の劣等生(R.マーダヴァン、シャルマン・ジョーシー)と、ずば抜けた能力を持ちながらも競争重視の学長の方針に歯向かって二人の劣等生と行動をともにするランチョー(アーミル・カーン)。いわばこの三人(この映画の英語タイトルは「3 idiots」要するに「三バカ」)が大学に混乱を巻き起こし痛快に解決して、ともあれ最後には三人とも自分の生き方を見つけ出す物語だ。そこには、「勉強は成功のためにするものではない。学識を積めば成功はおのずとついてくる」「ひとつの方向に向かっての競争はやめて、自分らしい道を探そう」「とりあえずやってみよう。きっとうまくいく」というメッセージがとても説得力を持って語られる。
そして、なによりも映画の作りが実に見事。ミュージカル風になるところも実に自然で、本家のハリウッド製のミュージカルよりもずっと洗練されている。娯楽大傑作だと思う。
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