ネマニャのヴァイオリンに酔った!
2018年10月4日、浜離宮朝日ホールでネマニャ・ラドゥロヴィチのヴァイオリン、ロール・ファヴル=カーンのピアノによるリサイタルを聴いた。素晴らしかった。
曲目はフランス系のヴァイオリン曲。前半にサン=サーンスの「死の舞踏」とフランクのソナタ、後半にドビュッシーのソナタとショーソンの詩曲、そしてラヴェルの「ツィガーヌ」。
「死の舞踏」ですでに多くの観客がネマニャの音の虜になったのではないか。聴いている人の心を鷲掴みにするような躍動する音楽。しかもこの上なく繊細で美しく透明な音。まさしく不気味で妖しく、しかも華麗な死の舞踏が繰り広げられる。この曲の冒頭、私の知らないメロディが出てきたのだが、ふだん演奏されるのとは別のヴァージョンなのだろうか。
フランクのソナタはまさしく正攻法。
私は10年ほど前ナントのラ・フォル・ジュルネでこの若いヴァイオリニストの驚異の音楽を知ってからネマニャを追いかけている。ファンクラブ結成を呼び掛け、ファンクラブ・プレピスカの初代会長を務めたのも私だ。
以前は20歳そこそこの男の子の演奏する怖いもの知らずの躍動する音楽だった。鬼気迫るものがあったが、音楽そのものの楽しさが心の底から爆発するような音楽でもあった。ところが、今ではネマニャも成熟し、外面的な効果を追いかけるのでなく、もっと真摯に深い音楽を創り出そうとしている。以前のネマニャだったらもっと派手に情熱を表に出すところをあえて抑え気味にしている。とりわけ第一楽章は抑え気味にして、徐々に盛り上げていく。
ただ、この曲に関しては私はファヴル=カーンのピアノがヴァイオリンとかみ合っていないように思えた。バランスよくぴしりと決まらず、バタバタする感じがした。フランクのソナタはピアノの役割が大きい。ちょっと力不足を感じた。
後半のドビュッシーはピアノも含めて素晴らしいと思った。これも、いじろうと思えばいくらでもいじれる曲だと思うが、ネマニャは正攻法で演奏する。透明な音でドビュッシーの音符の奥にある内向的で静かな心をえぐりだすかのよう。フランクよりも拍手が少なかったが、私はこの曲の演奏のほうが素晴らしいと思った。このように内部まで突き刺さるような初々しいドビュッシーのソナタを初めて聴いた。まさしく生きた音楽だと思った。
その後の「詩曲」と「ツィガーヌ」についてはまさにネマニャの独壇場。詩曲はロマンティックの極致を描く。透明で美しい音。だが、けっして感情過多にはならない。形が崩れない。私は何度も感動に身を震わせた。
「詩曲」があまりに素晴らしく、ネマニャが動きを止めたままだったこともあって拍手は起こらず、そのままネマニャは「ツィガーヌ」を弾き始めた。ファヴル=カーンはそれを予期していなかったようで、あわてて譜めくりの男性に指示、男性は一度舞台から離れて楽譜を持って戻ってきた。
最高の「ツィガーヌ」だった。華麗で透明で音程がびしりと決まり、まさに躍動する。ダイナミックで情熱的。だが、構成感が抜群なので、まったくゆるぎない。本当に素晴らしい演奏。この曲でも私は何度も感動に震えた。アンコールはモンティのチャルダッシュとドヴォルザークの「母が教えてくれた歌」。何という美しい音。
久しぶりにネマニャの音楽を聴くことができた。満足だった。
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