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ジョージア映画祭後半 「あぶない母さん」「告白」「ブラインド・デート」など

 岩波ホールで開かれているジョージア映画祭に通い、少し前にみた「放浪の画家 ピロスマニ」をのぞいて、短編を含む17本をみた。前半にみた映画の感想は数日前にこのブログに書いたので、今回は後半にみた映画の感想を記す。

 

「あぶない母さん」 アニ・ウルシャゼ監督 2017

 私はとてつもない傑作だと思った。アニ・ウルシャゼ監督は、「みかんの丘」のザザ・ウルシャゼ監督の娘でまだ27歳だという。驚異というしかない。世界全体で注目されるべき作品だと思う。

 三人の子どもを持つ主婦マナナ(ナト・ムルヴァニゼ)が憑かれたように小説を書く。ところが、そこに書かれていたのは、夫や子どもを憎んで性的で病的な欲望にまみれる血に飢えた妖女の心の奥だった。知人の文房具店主はその作品を高く評価し、出版の手助けをしようとするが、家族はそれに反対。マナナは小説の結末を書くため、家を出て文房具店に寝泊まりするようになる。そして、そうするうち、マナナの精神はだんだんと常軌を逸してくる。そして、マナナの心の奥にある父との葛藤、過去における母の自殺、絶望的な私生活を送っている文房具店主の状況などが明らかになっていく。

 実はよくわからないところがある。もう一度みてみたい気がする。が、カフカ的な雰囲気に圧倒された。この映画では、トビリシの都市がまるでカフカの小説のように不思議な相貌を帯びて迫ってくる。いや、トビリシとは限らない。現実の世界がふだん私たちが考えているのとは異なる真実の姿を現す。マナナの小説の不気味な文体のような雰囲気が映像の中ににじんでいる。そこが凄い。

新作の映画でこの種の衝撃を受けたのは、一昨年の「サウルの息子」以来だと思った。「あぶない母さん」という軽そうなタイトルだが、実はとてつもなく深刻で深いテーマの映画だと思う。

 

「陽の当たる町」 ラティ・オネリ監督  2017

 ソ連時代に鉱山で栄えた町が、今では廃墟のようになっている。そこに残って暮らす人々の様子を描いたドキュメンタリー映画。

私は実はとても退屈だった。最も苦手なタイプの映画だ。苦手な最大の原因は、長回しのカメラだ。始まってすぐ炭坑内のトロッコの動く場面が何も変化がないのに、23分ずっと映し出される。何の変化もなく歩いていく人物をずっとカメラが追いかける場面もある。走っている女の子二人の姿もずっと追いかける。新たな情報があればいい。思想や心情が長回しによって鮮明になるのならいい。だが、何もなく長々と撮影される。せっかちな私はそのような場面ごとにイライラしてきた。ほかの監督がこの映画を撮ったら三分の一の時間で終わるのではないか!と思ったのだった。

要するに、巨大な廃墟があり、そこで暮らす人がいて、それなりに楽しく、町の滅亡とともに生活しているということなのだろう。ただ、繰り返すが、私は大いに退屈に思ったのだった。

 

「ヒブラ村」 ゲオルギ・オヴァシュヴィリ監督 2017

「とうもろこしの島」のオヴァシュヴィリ監督の映画。1991年にジョージアはソ連から独立。圧倒的支持を受けて、ガムサフルディア大統領が誕生する。だが、圧政を行ったためにクーデターが起こり、大統領はいったんチェチェンに亡命し、ジョージアに戻って蜂起するが失敗して、少数の側近とコーカサス山中を逃亡して、ヒブラ村で死亡する。その前大統領の最後の数日間を描く映画だ。きっとジョージアの人にとっては忘れられない過去の歴史なのだろう。そして、「ヒブラ村」という言葉は特定の響きを持つのだろう。

 ジョージア史を知らない私には、どこまでが史実に基づくのかよくわからない。前大統領(フセイン・マシューブ)は山中を逃亡し、広めの家を見つけて無理やり泊まったり、支持者の家、側近の知り合いの家に泊まったりする。家の主は前大統領がやって来たというのでそれなりの歓待はする。そうするうちに、前大統領は徐々に追い詰められ、側近も脱落し、自分の過去に自信をなくしていく。そうした様子が克明に描かれる。なかなかリアリティがあるが、克明に状況を描くだけで内面的、思想的な深まりがあるわけではない。少し克明すぎて、退屈な部分もある。どうもジョージア映画は現実を克明に描こうとする傾向が強いようだ。リアリティが生まれ、存在感が強まるが、しつこさを感じないでもない。

 

「告白」 ザザ・ウルシャゼ監督 2017

「みかんの丘」のウルシャゼ監督の映画。とてもおもしろい。かつて映画監督を目指していたゲオルギ(ディミトリ・タティシュヴィリ)が神父になり、助手ヴァリコとともにある村に赴任する。ところが、そこにマリリン・モンローによく似た未亡人リリ(ソフィア・ムビスクヴェラゼ)がいる。ゲオルギはリリに惹かれつつ理性を守って、リリに絡む村のトラブルを解決しようとするが、リリは実はかなりの悪女であって、神父を陥れる。神父は村を後にする。

 ジョージアの田舎町の閉塞的な状況がよくわかる。教会の手伝いをする女性(「あぶない母さん」の主役ムルヴァニゼが演じている)に典型的に表されるように、みんなそれなりに善良な心を持ってはいるが、狭量で排他的で細かいところで小競り合いをしている。神父はそこで進歩的で開放的な信仰をもたらそうとするが、しっぺ返しにあってしまう。そんな物語といってよいだろう。

 ジョージアの村の自然の美しさ、信仰の状況、人々の生活がわかってとてもおもしろい。リリや軽くて善良な助手ヴァリコなどの人物の描き方もとてもリアル。

 

「映像」 ゲオルギ・ムレヴリシュヴィリ監督 2010

 10分ほどの短編ドキュメンタリー映画。ジョージアの寒村を訪れる映画撮影キャラバン。車で機材が運ばれ、美しい山を背景とする野外で特に子供を対象にした映画会が開かれる。子どもたちは夢中で映画を見る。そして、映画隊が去る。子どものうちの1人は家にあった映写機を持ち出して撮影を始める。映画隊は確かにこの村に映画文化の痕を残したわけだ。

 それだけの映画だが、自然があまりに美しく、子どもたちの姿も生き生きとして、しっかりとしたリアリティと存在感を感じさせる。とてもいい短編だと思った。

 

「ブラインド・デート」 レヴァン・コグアシュヴィリ監督 2013

 40歳になるのに独身で、女性とも付き合いのない学校教師のサンドロ。両親から常に結婚をせっつかれ、ふがいなさに嫌味を言われ続けている。サンドロは友人のイヴァに誘われて出会い系サイト(のようなもの?)を使って女性と会ってみたりもするが、女性に同情するばかりで男女関係に進まない。そんなとき、教え子の母親マナナと恋に落ちるが、その夫は暴力沙汰で刑務所に入っている。夫が刑務所から出る日にマナナを車で送ったために、夫からタクシー運転手と間違われ、手先となって手伝わされ、犯罪者っぽい人たちとも難民一家とも出会う。結局、夫は刑務所に戻るが、マナナとは結婚できそうもなく、夫の愛人だった難民女性の面倒を見ることになる。

 知的で善良でありながら、他人のことを考えてしまい、自己主張できないために損な役回りを演じるしかない男性を狂言回しとしてジョージア社会の模様を描く。ジョージアにもサンドロのような人間が多いのだろう。そして、日本にも多い。もちろん、私も少しそんな傾向を持っている(もちろん、反対の面も持っている)。そうしたジョージア人の暮らす中で犯罪や難民や内戦が起こっているのだろう。

 ブラインド・デートというのは、友だちなどに誘われて、相手がどんな人か知らないままデートすることを言うらしい。出会い系サイトを利用したデートをさしているのだろう。が、この映画では、サンドロのすべての出会いが、まさにブラインド・デート。偶然、今までかかわりのなかった境遇の人と出会って戸惑う物語。イヴァが本当に目の不自由な(ブラインド)女性とブラインド・デートして下心を持ちながらも、目の不自由な女性のしっかりした態度に圧倒されて何もできないというエピソードがある。ブラインド・デートという言葉に対する皮肉だろう。

 

今回の映画祭で13本の長編映画をみた(少し前にみた「放浪の画家 ピロスマニ」はのぞく)。全体として、おもしろい映画が多かった。ジョージア映画のレベルの高さを改めて知った。気づいたのは、特に大きなことが起こるわけではなく、主人公の日常を丁寧に描くタイプの映画が多いことだ。ジョージア映画の傾向なのか、今回映画祭を企画した人々の好みなのかはわからない。その種の映画も、私は嫌いではないが、もう少し事件がほしかったとは個人的には思う。

まとめとして、私の好みによってあえて順位をつけてみる。

 

① 「あぶない母さん」

➁ 「告白」

③ 「デデの愛」

④ 「大いなる緑の谷」

➄ 「微笑んで」

⑥ 「ブラインド・ノート」

⑦ 「少女デドゥナ」

⑧ 「少年スサ」

⑨ 「ヒブラ村」

⑩ 「他人の家」

⑪ 「私のお祖母さん」

⑫ 「ケトとコテ」

⑬ 「陽の当たる町」

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