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東京二期会オペラ劇場「後宮からの逃走」 オペラの魅力を殺す演出だった!

 20181122日、日生劇場で東京二期会オペラ劇場「後宮からの逃走」をみた。大いに期待して出かけた。11月から私はアプリ版ぴあの「水先案内人」としてコンサートやオペラのおすすめの演目を紹介しており、もちろんこのオペラを推薦していた。が、残念ながら期待外れだった。

 つまらなかった最大の原因はギー・ヨーステンの演出だと思う。もちろんこのオペラはトルコにとらわれになったヨーロッパ人が主人公なのだが、この演出では、トルコ、そしてイスラム教という点は強調されない。ベルモンテらは抑圧的な警察国家にとらわれになったという設定になっている。オスミンは抑圧的な警察隊のとりわけ横暴な隊長、太守はそのような世界の権力者ということになっている。イスラム教世界に気をつかってこうしたのか、それとも、イスラム国家のいくつかが警察国家だと暗に告発しているのか。

だが、そうなると、若きモーツァルトの若々しい躍動に満ちた音楽がまったく聴かれなくなってしまう。舞台上に展開されるのは委縮した世界。序曲でも印象的な、そしてモーツァルトが得意にするあのトルコ風のリズムを歌うのが抑圧的な警察国家の、しかも警官の制服を着た人々なので、まったく躍動の音楽にならず、萎縮の音楽になってしまう。このオペラが本来持つ最大の魅力をこの演出は殺してしまっている!

オスミンは愛嬌ある敵役でなく単なる抑圧者になり、その魅力も半減する。しかも、ペドリッロにホモっけがあったり、ブロンデが蓮っ葉だったりするが、そのような要素を加えたためにますますオペラが複雑になり、重くなって、若い生命力がなくなる。

 これではどんなに名演奏でも観客は白けてしまう。ところが、残念ながら、名演奏というわけでもなかった。

 下野竜也の指揮はいつも通り素晴らしいと思った。躍動感があるし、まとまりも感じる。が、東京交響楽団の音が時々貧弱に響く(全体的にはよいところもたくさんあったが)。歌手に関しては、オスミンの加藤宏隆がとてもよかった。ベルモンテの金山京介もきれいな声で見事だったが、ときどきオーケストラと合わないのを私は感じた。ペドリッロの升島唯博は美しい声だが、ちょっと音程が不安定な部分があった。コンスタンツェの松永知史とブロンデの冨平安希子については声そのものがかなり弱いと思った。二重唱、四重唱などもきれいなアンサンブルにならなかった。

 太守セリムを演じるのは大和田伸也。歌わない役なので適役だと思うが、日本語とドイツ語が入り混じったセリフになっていた。しかも、ドイツ語がまったくドイツ語に聞こえなかった。歌の部分やほかの歌手との兼ね合いでドイツ語を残したのだろうが、いっそのこと大和田のセリフはすべて日本語にしてもよかったのではないか。それにしても、大和田があの調子でセリムを演じると、最後の崇高な決定にも裏がありそうに響く。もう少し違う演技のほうがよかったのではないか。

 東京二期会の実力を私はよく知っている。素晴らしい舞台を何度もみてきた。が、今回の上演はいただけない。元のオペラの魅力を殺してしまうような演出ではなく、もっと刺激的でもっとモーツァルトの魅力を味わわせてくれるような演出を見たかった。

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