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「ぴあ」水先案内人のこと、そしてオペラ映像「ニュルンベルクのマイスタージンガー」「サンドリヨン」「ベンヴェヌート・チェッリーニ」「ベアトリスとベネディクト」

 11月から、アプリ版「ぴあ」の首都圏のクラシック音楽担当の「水先案内人」として、月に5本くらいの私の視点からのおすすめのコンサート、オペラを紹介している。出かける際のコンサート選択の参考になるように心がけている。私の視点を守りつつ、独りよがりにならないようにしようと思っている。

 このところ、締め切りのある大きな仕事がなかったので、自分のペースで仕事を進めている。何本かのオペラ映像を見たので、簡単な感想を記す。今回見た映像はいずれも高いレベルだった。

 

2017600 ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」2017年 バイロイト祝祭劇場

 何よりバリー・コスキーの演出に驚く。読み替え演出だが、驚くべき説得力を持つ。よくぞここまで!とただただ感嘆する。ものすごい才能!

 確かに、ワーグナーはザックスに自分を重ね合わせていただろう。そしてポーグナーはリスト、エファはコジマの面影がある。ヴァルターもまたワーグナーの分身だろう。そして、ベックメッサーにユダヤ人を重ね合わせていることは、反ユダヤ主義者だったワーグナー自身が語っている。ワーグナーの弟子だったユダヤ人ヘルマン・レヴィと重なる部分がある。そうしたワーグナーにまつわる人々とこのオペラの登場人物を重ね合わせて、演出家のコスキーはドイツ民族の、そしてワーグナーの心の奥にあるユダヤ人迫害、偏ったドイツの歴史への愛を描いていく。その手際があまりに見事。

第三幕はニュルンベルク裁判の場面になる。ザックス(=ワーグナー)は証人席に立たされてドイツ民族の再興を訴える。まさしく、ワーグナーが第二次大戦の精神を代表したことへの批判に対する弁明を語る。ドイツ文明の偉大さを語る。本人は必死だが、背景には嘘くさいオーケストラが偽の音をかき鳴らすばかり。それは真実として国民に伝わることはない。そう語っているようだ。

 ハンス・ザックスのミヒャエル・フォレはまさに名人芸の域に達している。かつてハンス・ホッターが稀代のザックス歌いと言われたが、フォレも引けを取らない。ヴァルターのクラウス・フローリアン・フォークトの声も相変わらず自然な美しい声。エファのアンネ・シュヴァネヴィルムス、ベックメッサーのヨハネス・マルティン・クレンツル、ポーグナーのギュンター・グロイスベックもこれ以上は考えられないほどに役柄を歌っている。

 指揮はフィリップ・ジョルダン。メリハリのある明確な音でドラマを盛り上げる。演出にぴたりと合った明晰な音楽を作っている。近年にバイロイトの大きな成果の一つだと思った。

 

906 マスネ 「サンドリヨン」 2017年 フライブルク歌劇場

 サンドリヨン役のキム=リリアン・ストレーベルと妖精のカタリナ・メルニコヴァがいい。きれいな声で音程もいいし、共感できる。ド・ラ・アルティエール夫人のアニヤ・ユングも個性的に演じて楽しい。王子のアナト・チャルニーはちょっと不安定。父親役のホアン・オロスコは音程が悪く、フランス語の発音もめちゃくちゃ。不調だったのか、それとも突然の代役か何かで準備ができていなかったのか。ファブリス・ボロンの指揮によるフライブルク・フィルハーモニー管弦楽団(指揮者もオーケストラも初めて名前を聞いた!)は、全体のオケの精度はあまり高くないが、特にミスがあって気になるというほどではなかった。

 バルバラ・ムンデルとオルガ・モッタによる演出については、私はとてもおもしろいと思った。サンドリヨンと王子をともに内向的で人見知りで、外面に惑わされずに内面を見ようと二人として相似的に描かれている。周囲がパーティで騒いでいても、サンドリヨンと王子は離れたところで静かに語り合う。二人の歌手も、(ちょっと顔の大きさは異なるが)よく似た顔立ち。

 

988 ベルリオーズ 「ベンヴェヌート・チェッリーニ」2015年 オランダ国立歌劇場

 素晴らしい上演だと思う。まずテリー・ギリアムの演出が面白い。少々下品ではあるが、猥雑なローマの社会、そしてベルリオーズの音楽を見事に舞台に載せている。実におもしろいオペラだということを改めて知った。

 歌手陣も充実している。やはりベンヴェヌートを歌うジョン・オズボーンが圧倒的。女たらしでだらしのない人間を魅力的に演じているし、声はもちろん最高。バルドゥッチのマウリツィオ・ムラーロもフィエラモスカのローラン・ナウリも芸達者で声も見事。テレーザのマリアンジェラ・シチリアは歌も演技も少々硬いが、声はきれいだし、容姿もとてもよいので、見ている分にはまったく不満はない。マーク・エルダーの指揮も実に溌溂としてドラマティック。

 

886 ベルリオーズ「ベンヴェヌート・チェッリーニ」2007年 ザルツブルグ祝祭大劇場

 オランダ国立劇場のものもよかったが、その8年前のザルツブルグのこの上演はもっと素晴らしい。すべての歌手がみごと。何よりビックリなのがテレサを歌うマイヤ・コヴァレヴスカ。恥ずかしながら、私はこの歌手の名前を知らなかったが、まず「美しすぎる」容姿に驚いた。ハリウッド映画の主演女優並みの美しさではないか! 声も透明でとてもいい。この上演から10年がたっている。いろいろな役を歌えるようになっていると、とてもうれしい。

そのほか、チェッリーニ役のブルクハルト・フリッツもふてぶてしいチェッリーニをうまく歌っている。フィエラモスカのローラン・ナウリはまさしく適役。バルドッチのブリンドリー・シャラット、教皇のミハイル・ペトレンコも申し分ない。アスカーニオを歌うのはケイト・オルドリッチ。「スター・ウォーズ」のロボットのような扮装なので誰かわからなかった。これも見事。

指揮のワレリー・ゲルギエフはまさにゲルギエフ。躍動的でドラマティックで情熱にあふれる。いかにもベルリオーズ。素晴らしい。演出はフィリップ・シュテルツル。意味なく「スター・ウォーズ」風で、無理やり現代的にしている趣きがあるが、退屈しないで見られるのは間違いない。ただ、特に新しい解釈があるわけではないような気がする。とはいえ、ともあれ終わった途端に「ブラヴォー」を叫びたくなるのは間違いない。

 

313 ベルリオーズ 「トロイアの人々」2012年 ロンドン ロイヤル・オペラハウス

 あまりなじみのあるオペラではないが、これまた素晴らしい上演。すべてがそろっている。まず歌手陣がいい。ディドンのエファ=マリア・ウェストブローク、カサンドルのアンナ・カテリーナ・アントナッチ、主役格の女性の強くて美しい声がドラマを作る。ともに悲痛な状態を歌い上げるが、その力に圧倒される。二人とも容姿も含めて最高の配役だと思う。コレーブのファビオ・カピタヌッチは初めのうちこそ硬かったが、徐々に力を発揮する。エネのブライアン・イーメルも強靭で美しい声。そのほか、すべての役がオペラの登場人物そのものに見える。

 デイヴィッド・マクヴィカーによる演出は、ギリシャ時代というよりはベルリオーズの時代、すなわちほぼナポレオンの時代。近代的な武器によって世界制覇が可能になりつつあった時代の悲劇としてこのギリシャの物語を描いている。木馬が機械仕掛けの不気味なロボットのように見える。まさにそれこそが近代帝国主義の象徴なのだろう。

 アントニオ・パッパーノの指揮も躍動して激しいドラマを作り出す。しかも、自然に音楽が盛り上がるので、わざとらしさがない。

 オペラ作曲家としてのベルリオーズもなかなかのものだと遅ればせながら再認識した。

 

126 ベルリオーズ 「ベアトリスとベネディクト」2016年 グラインドボーン歌劇場

 このオペラの存在は知らなかった。初めて映像をみたが、とてもおもしろい。シェークスピアの「空騒ぎ」に基づく。ベルリオーズにこんな愛すべき喜劇があったなんて!

 ベアトリスとベネディクトは互いに相手を憎からず思いながら、それを口に出せずに意地を張って喧嘩ばかり。周囲の人間が計略を用いて二人を結びつける。ベルリオーズの音楽がなかなか軽妙。大袈裟に描くだけがベルリオーズではないと知った。ローラン・ペリーの演出がまたおもしろい。ベルリオーズの、ちょっと面白みのない部分も演出によってエスプリに富み、ユーモアにあふれた舞台になる。喜劇をシンプルにわかりやすく、しかも軽妙な動きで見せてくれる。ただ、全員がグレーの服装なのが気になる。二人が結婚を決意した時に全体が色彩的になるのかと期待してみていたが、最後まで変わらなかった。最後まで続く人間の意固地な心をグレーに表したのだろうか。

 歌手陣も全員が、歌もさることながら演技が見事。ベアトリスのステファニー・ドゥストラック、ベネディクトのポール・アップルビー、クラウディオのフィリップ・スライ、エローのゾフィー・カルトホイザーが本当に素晴らしい。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮するアントネッロ・マナコルダも音が生き生きしていて文句なし。全体的に素晴らしい映像だと思う。

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