クルレンツィス+ムジカエテルナ まさに別格!
2019年2月10日、オーチャードホールでテオドール・クルレンツィス指揮、ムジカエテルナのコンサートを聴いた。宣伝文句は正しかった。まさに別格の演奏。
前半はパトリツィア・コパチンスカヤのヴァイオリンが加わって、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。コパチンスカヤらしいきわめて個性的な演奏。チャイコフスキーがチャイコフスキーに聞えない。抒情性がなく、まるで現代音楽のよう。切り込みが鋭く、鋭角的に演奏。
驚くべきなのは、クルレンツィス指揮のムジカエテルナが、コパチンスカヤの演奏にぴたりと合わせて演奏することだ。冒頭のしなやかで研ぎ澄まされた音に驚いた。コパチンスカヤと顔を見合わせながら、最高のタイミングでヴァイオリンの演奏にふさわしいオーケストラの音が出てくる。まるでヴァイオリンとオーケストラの二匹の豹が絡み合っているかのように、スリリングで生き生きとしている。楽器の一つ一つが豹の一つ一つの筋肉のように精妙に、そしてダイナミックに動く。第3楽章のピチカートにびっくり。これまでこの曲でこんなピチカートを聞いた覚えがなかったが、スコアはどうなっているんだろう!
コパチンスカヤのアンコールは3曲。すべて知らない曲だった。あとで表示を見て知った。1曲目はオーケストラのクラリネット奏者とともにミヨーの「ヴァイオリン、クラリネット、ピアノのための組曲OP.1576の第2曲とのこと、2曲目は、コンサートマスターとともにリゲティの「バラードとダンス」よりアンダンテ、3曲目はコパチンスカヤ自身の叫び声を交えてホルヘ・サンチェス・チョンの「クリン」。最後の曲はコパチンスカヤに捧げられた曲のようだ。どれもとてもおもしろかった。
後半はチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」。オーケストラの団員のほとんどが立ったまま演奏。すべての楽器に強いニュアンスがある。しかも、まったく不自然ではなく、音楽全体が激しく律動する。これまで聴いたことのない音がしばしば聞こえてくる。それが有機的につながっていく。動物がのたうち回るような強烈な演奏だが、無理やりに音楽をゆがめるのではなく、躍動的に音楽が推進されていくので納得できる。しかも、オーケストラ・メンバーの力量が凄まじい。第3楽章はとりわけ圧巻だった。ここまで力感にあふれ、アンサンブルも見事な演奏をこれまで聴いたことがない。息を飲み、音楽に引きこまれ、音楽に振り回されているうちに、曲が終わった。凄い!
クルレンツィスに初めて注目したのは、特に指揮を意識せずにみた「イオランタ」の映像だった。イオランタが自分の盲目に気付く悲嘆の凄まじい表現に圧倒され、この指揮者の名前を頭に刻み付けたのだった。その後、モーツァルトのオペラのCDを何種類か聴いて、その実力のほどを知ったのだった。今日、初来日の演奏を聴いて、まさにその凄みを実感。末恐ろしい指揮者が現れたものだ!
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