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昔の日本映画「儀式」「乾いた花」「暗殺」「写楽」「はなれ瞽女おりん」「鑓の権三」「エロス+虐殺」「煉獄エロイカ」

  しばらく前から、仕事の合間に時間を見つけては古い日本映画のDVDをみていた。学生のころに一度見た作品も含まれる。簡単な感想を記す。

 

51fd7x1y5rl_ac_us200_ 「儀式」 大島渚監督  1971

 封切当時にみて、深く感動したのを覚えている。当時から大島は大好きな映画監督だったのでかなりの本数を見ていたが、この作品は「絞死刑」に匹敵する傑作だと思った。今回見直して、同じように思った。ただ、改めてみても、大島のメッセージを完全に理解することはできなかった。

 家父長制の権化のような政界の大物(佐藤慶)の複雑な家族の冠婚葬祭を通して、戦後から戦後にかけての思想史を描く。満州生まれの満州男(河原崎健三)が戦後日本の迷える状況を体現させた存在だろう。大和魂を新しい形で戦後に活かそうとする輝道(中村敦夫)の自死を通して方向性を失った戦後日本を描いているといえそうだ。新婦のいない結婚式の場面、満州男が結婚初夜のまねごとを権力者である祖父を相手にしようとする場面など衝撃的だ。

 武満徹の音楽、音羽信子、賀来敦子(私はこの女優さんが大好きだった!「青幻記」は素晴らしかった!)、そして小松方正、戸浦六宏、渡辺文雄の「大島組」の3人のインテリ俳優。実に懐かしい!

 

91ba0bbjokl_sy445_ 「乾いた花」 篠田正浩監督  1964

 篠田正浩も大好きな監督だが、この作品は、今回、初めてみた。石原慎太郎原作。刑務所から出たばかりのヤクザ(池辺良)が賭場で謎の女(加賀まりこ)に出会い、惹かれていく。乾いたニヒリズムの世界。今みると、妙にかっこよがっているところが鼻につく。しかし、素晴らしい白黒の映像美。ヌーヴェル・ヴァーグっぽさはあるが、あくまでも娯楽映画として作られている。

 

51zcfgwhdil_ac_us200_ 「暗殺」 篠田正浩 1964年

勤王、佐幕の間を行きかった謎の幕末浪人、清河八郎(丹波哲郎)の死までを描いた作品。司馬遼太郎の「幕末」に基づくという。退屈しないで最後まで見たが、とりわけこの人物に思い入れがあるわけでもなく、幕末ものが好きなわけでもない私としては、結局、この人物の思想も心情も理解することができず、もちろん感情移入することもできなかった。ただ、篠田監督らしい映像の美しさにあふれており、白黒の映像美に浸ることができる。静かな日本の風景の中に登場した情熱あふれる奇怪な人物像を描き出すことには成功していると思う。

 

51nbzvj5cel_ac_us200_ 「はなれ瞽女おりん」 1977年

 封切時に見て、とても感動したのを覚えている。まず映像が美しい(カメラは宮川一夫)。山間や海辺、神社仏閣を背景にした大正時代の人々の暮らしが描かれる。水上勉原作。

 盲目に生まれたおりん(岩下志麻)は幼いうちに瞽女(ごぜ。盲目の女性旅芸人)の集団の親方(奈良岡朋子)に引き取られて育てられる。が、娘になって男性客(西田敏行)に手籠めにされたことで集団から追い出されて、一人で行動するようになる。その旅の途中、下駄を売る男(原田康雄)と出会い、行動をともにするようになる。だが、おりんは男がごたごたのために警察にとらわれている間に薬売り(安部徹)に強引に情を交わされてしまう。男はそれを知って薬売りを殺す。男は警察に追われるが、脱走兵であることが発覚。囚われて刑に処される。おりんはふたたび一人で活動を始める。最後、山中で三味線と女性の白骨死体が見つかる。

 おりんは盲目ゆえに理不尽な目にあわされ続ける。阿弥陀の生き方をしようとするが、それを妨げられる。それでも阿弥陀にすがろうとする。日本社会は軍国主義へと進んでいるが、それに反する形で庶民の生活がある。そうした状況を激しく、美しく描く映画だ。

 後半、行動をともにする瞽女が登場する。樹木希林が演じている。ほんの脇役だが、その存在感たるや凄まじい。ほかの瞽女たちは目をつむっているが、樹木希林はかすかに目が見えるという設定のために目を開けて演じている。その目の表情、そして動き! それだけで感動してしまう。樹木希林が前に立ち、岩下志麻が後ろについて瞽女姿の二人が大自然の前をひたひたと歩いていく場面が何度か映されるが、これは映画史に残る名場面だと思う。武満徹の音楽も素晴らしい。

 

514hnuroyjl_ac_us200_ 「写楽」 篠田正浩監督 1995

 ひとことでいって、おもしろくなかった。洒落本や浮世絵を売り出した実在の版元蔦屋重三郎(フランキー堺)を狂言回しにして、写楽(真田広之)、十返舎一九(片岡鶴太郎)、北川歌麿(佐野史郎)、葛飾北斎(永澤俊矢)、山東京伝(河原崎長一郎)、鶴屋南北(六平直政)などを配し、反権力の江戸の色彩的なエネルギーを描こうとしたのだろう。このようなものを描きたかった篠田監督の気持ちはよくわかる。

だが、あまりに多くの人物を描き、写楽と花魁(葉月里緒奈)の恋を中心に据え、そこに大道芸人集団(岩下志麻など)を加えたために、焦点ぼけしてしまった。二人の恋にもリアリティが感じられず、そもそも真田広之演じる写楽も、あのような浮世絵を描く内的必然性が感じられなかった。ただ、赤を中心にしたけばけばしい江戸の色が印象に残るだけの映画になってしまった。

 

51lwmcjlkxl_ac_us200_ 「鑓の権三」 篠田正浩監督 1986年

 近松門左衛門の浄瑠璃「鑓の権三重帷子」に基づく。脚色は富岡多恵子。封切されたころ、私は映画を見る精神的、時間的余裕がなかったので、今回、初めてみた。

 夫の留守中、娘の婿にと考えて特別に茶の秘伝を権三(郷ひろみ)に伝えようとしていたおさゐ(岩下志麻)だったが、ほかの娘と関係を持った不実をなじっているところを不義密通とみなされる。言い逃れができなくなった二人はそのまま逃げて夫に討たれることを願う。が、もとより心惹かれていたおさゐは権三と心身ともに結ばれてから討たれることを望む。そして、ついに最期を迎える。

 日本芸能に疎い私は近松の浄瑠璃をまったく知らない。が、琵琶(だと思う)がかき鳴らされ、義理と人情のはざまを人間らしく生きる姿がまさに近松の世界なのだと思う。主要な登場人物だけでなく、背景となる町や人々、祭りの様子など、とても美しく、しかも生々しい。狂おしく愛を求める男女を色彩豊かに描いて、本当にいい映画だと思う。

 

41xuccop9l_ac_us200_ 「エロス+虐殺」 吉田喜重 1969年

 学生の頃に見て、大いに刺激を受けた作品。私は高校生のころからアナキズムの思想に惹かれて、バクーニンやらクロポトキンやらの何冊かを読んでいたのだが、大学生になってからこの映画をみて大杉栄のかっこよさに痺れた。この映画をみたあと、大杉の著作を何冊か読んだのを覚えている。

封切時は2時間45分にまとめたというが、購入したDVDでは、オリジナルの3時間30分を超すヴァージョンが収録されている。

この作品は、大杉(細川俊之)と伊藤野枝(岡田茉莉子)と神近市子(楠侑子。ただし、作中ではプライバシー問題に配慮して「正岡逸子」と呼ばれる)の三角関係のもつれから実際に起こった日蔭茶屋事件を描く。大杉は所有を否定し、それを人間感情にも広げて解釈して自由恋愛を主張し、生の充足を求めるが、野枝は大杉と夫である辻潤(高橋悦史)との間で揺れ動く。大杉の妻・保子(八木昌子)も市子も大杉の自由恋愛を受け入れられない。葛藤しつつ生を燃焼させる大正時代の政治運動家たちの状況と、現代(1969年)の方向性を見失って、「ごっこ」しかできなくなった若者たち(原田大二郎・伊井利子)を対比させて描いているといってよかろう。無機的な建築物の中で人間性を求めてあえぐ現代人の状況が浮き彫りになる。

フランスのヌーヴェル・ヴァーグの影響なのだろう、かなり前衛的な手法がとられている。鼻白むような、そして赤面するような文学青年風のセリフもたくさん出てくる(確かに、私が大学生だったころ、かっこよがってこんなことをしゃべっていた!)が、白黒の映像の美しさ、カメラショットの見事さ、斬新な構図は格別。

信じられないほどカッコイイ細川俊之もさることながら、虚無僧姿で放浪する高橋悦史演じる辻潤の虚無的な姿が印象的だった。今、みなおしてみると「大傑作」とまでは言えないが、それはそれで時代を確かに反映する秀作だと思う。

 

21bx8mmgt2l_ac_us200_ 「煉獄エロイカ」 吉田喜重 1970年

「エロス+虐殺」がとてもおもしろかったので、封切後、大いに期待してみたが、かなり失望したのだった。いや、それ以上にわけがわからなかった。今回みても、まったく同じ印象だった。途中までは何とか整理してみたが、途中からお手上げ。

過去(1950年)と現在(70年)と未来(80年)が錯綜し、様々な登場人物も入り乱れるが、同じ役者がいくつかの年代を同じ扮装で演じ、しかもどうやら別の役も演じているようなので、まったく話がわからない。途中から、理解しようという気もなくした。

どうやら、主人公・庄田(鵜田貝造)は現在では美しい妻(岡田茉莉子)を持つ優秀なレーザー光線の研究者だが、50年代には革命運動に身を投じ、運動の失敗の原因となったスパイの存在について今も疑問を持っている。そうした事柄を基軸に、突然現れた少女や、その父親だと名乗る人物などが現れて3つの時代をまたいで現実と幻影が交叉していく。そうとしかまとめられない。

思い出してみるに、1970年前後、わけのわからない(わざとわからなくした)実験演劇作品がたくさん上演されていた。多くの人がベケットやイヨネスコやアラバールの真似をし、もっとわからなくして悦に入っていた。この種のものを何本か見たし、台本をずいぶん読んだ。この台本もそれに近いと思う。

一体何が起こっているのかさっぱりわからないので、せっかくの美しい映像なのだが途方に暮れてみるしかない。どうやら、「裏切られて誕生した戦後」というテーマのようだが、それも自信を持って語ることはできない。ここまで理解できないと、やはり退屈してしまう。

主人公を演じている鵜田貝造はフランス演劇研究家で、後に立教大学教授になられた塩瀬宏先生の別名だ。吉田喜重の東大時代の友人ということで出演を持ちかけられたそうだ。私は立教の大学院で塩瀬先生には大変お世話になった(考えてみると、お世話になりっぱなしで、お礼も言っていない!)。今、久しぶりに若き日の塩瀬先生の演技を見て、素人っぽい演技だとは思うが、この役には違和感はないし、端正で知的な顔立ちはこの役に申し分ない。

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