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新国立「タンホイザー」 第三幕に魂が震えた

201922日、新国立劇場で「タンホイザー」をみた。素晴らしい上演だった。

歌手はきわめて高いレベルでそろっている。タンホイザーを歌うトルステン・ケールは前半抑え気味だったが、第三幕の「ローマ語り」の場面ではさすがの力感あふれる声。ただ、バイロイトでこの人の声を聞いた時にはもっと圧倒的だった気がする。ヴォルフォラムを歌ったのはローマン・トレーケル。私はこの歌手のファンの一人なのだが、ちょっと不調だったのかもしれない。これまでバイロイトや日本で聴いた時に比べて、声の輝きや深みがない。しかし、「夕星の歌」はまるでリートのように繊細に歌って素晴らしかった。声が出ない分をテクニックで補って、役柄にぴたりの歌を聴かせてくれた。

女声陣も素晴らしかった。エリーザベト役のリエネ・キンチャはとても澄んだ声で、しかも声に威力がある。「歌の殿堂にて」はちょっと硬い歌い回しだったが、第三幕の祈りの部分は文句なし。声を張り上げないのに、会場全体に透明な声が静かに響き渡る。容姿も美しく、まさにエリーザベトそのもの。ヴェヌスのアレクサンドラ・ペーターザマーもしっかりした声と肉感的な容姿によってこの役にぴったり。

そしてもう一人圧倒的に素晴らしいと思ったのが牧童の吉原圭子。これまでにも何度かこの人の牧童を聴いたが、美しい声としっかりした音程に毎回ほれぼれする。

ヘルマン役の妻屋秀和もさすがの貫禄。ヴァルターの鈴木准、ビーテロフの萩原潤、ハインリヒの与儀巧、ラインマンの大塚博章も見事。ただの一つも穴がなかった。東京交響楽団の演奏もとても美しかった。弦楽器の響きに特に惹かれた。三澤洋史の合唱指揮による新国立劇場合唱団ももちろんいつも通り素晴らしい。

ただ私の期待と少し違っていたのはアッシャー・フィッシュの指揮だった。フィッシュの指揮は「ワルキューレ」のCDを聴いたことがある。鮮烈な指揮ぶりだった記憶があるのだが、今回の「タンホイザー」は何よりも手堅さを感じた。もっとドラマティックに、もっと官能的に盛り上げ、うねりのある音楽を作ってほしいと思うのだが、じっくりとして繊細。それはそれで美しいオーケストラの音を引き出し、最後には納得させるのだが、「タンホイザー」はもっと推進力のあるロマンティック・オペラだと思う。

演出についても、私にはあまり納得できなかった。第一幕でヴェヌスが途中で着替えたり、エリーザベトが聖母マリアのように見えたりといった工夫はあるが、全体的に何を訴えようとしているのかわからなかった。

とはいえ、第三幕には心から感動し、魂が震えた。「いやあ、ワーグナーは最高だなあ!」とワーグナーに触れるたびに思う!

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