アンコーラ公演 SFファンタジーの「ホフマン物語」
2019年2月27日、新宿区角筈区民ホールでANCORA第6回公演「ファンタジック・ホラー ホフマン物語」をみた。
ANCORAというのは演出家の三浦安浩さん(音読みするとアンコウさん)の主催するオペラ団体。実力派の歌手がそろっている。
セリフは日本語、歌は原語。現代に合わせえて原作を多少カットしたり、別のセリフを加えたりして現代にオペラをよみがえらせようという試み。大胆に新しい要素を加えているが、そこには原典を尊ぶ精神が一貫しているので、決してまがい物にはならない。そこが三浦安浩演出の凄みだと思う。
今回は、「ホフマン物語」を2029年を舞台にしたSFファンタジーに仕立てている。考えてみれば、オランピアはまさにロボット。この物語はAI時代にふさわしい。オペラは映画「アイロボット」や「バイオハザード」のように展開する。2029年にはAIが広まり、核戦争が起こり、人間の住めない時代になっている。人間がゾンビではなく、AIにされてしまう(?)時代になっている。ホフマンは3つの愛によって、本当の愛を知り、最後にはミューズと心を交わしあい、そうすることによって暗い未来を吹き飛ばす。きっとそのようなメッセージが込められているのだろう。
三浦演出にはわからないところはたくさんある。三浦さんが遠慮なしに自分の演出を押し通しているアンコーラ公演ではその傾向が強い。好き勝手をやって、猥雑になり、映画のパロディのようなものも出てきて、まさにごった煮。だが、三浦マジックでそこに一本の理念が貫かれている。そのため、なんだかよくわからないし、細かいところでは矛盾するところも多いし、そもそも何をしているのかわからない箇所はたくさんあるが、ともあれ終わってみると素晴らしいと感じる。今回もそう思った。そして、確かにこれこそがE.T.A.ホフマンの魅力であり、そもそもなんだかわけのわからないオッフェンバックの「ホフマン物語」の魅力でもあると思った。
歌手陣のレベルの高さには驚いた。とりわけ私はニクラウス(ミューズ)を歌った鮎澤由香理とオランピアの藤井冴にとりわけ感銘を受けた。二人ともとても美しい声。フランス語の発音も明確で声に伸びがあって素晴らしい。
リンドルフなどを歌った山田大智もしっかりした声で実に見事。ルーテルやクレスペルを歌った香月健もしっかりした声で、とても魅力的だった。
アントニアの神田さやかはとても丁寧な歌だが、ちょっと平板な気がした。そのような役として捉えているのかもしれないが、もっとダイナミックな歌い方のほうが私は好みだ。ジュリエッタの斉藤紀子はとても迫力ある歌が魅力だが、私にはちょっと迫力がありすぎるように思った。もちろん、そのような役として捉えているのだと思うが、私としては、そんなに気合を入れて歌わなくてもよかろうにと思ってしまうのだった。
ホフマンの上本訓久はとても魅力的な声で、声楽的にはとびぬけていると思ったが、私にはまったくフランス語に聞えなかった。30年前には少しフランス語をしゃべっていたので、フランス語は多少は聞き取れるし、単語の断片は理解できるが、上本さんの歌は別の言語としか思えなかった。ほかの何人かにも同じような傾向を感じた。私はフランス語のオペラや歌曲を聴くごとに、日本人にとってのこの言語の発音の難しさを感じざるをえない。声楽の場合、まず発音を大事にしてほしいと切に思う。
フランス語の発音という点では実は不満を抱いたのだったが、全体的に素晴らしい上演だった。このような上演を4つの別のキャストの組み合わせによって4回行われるという。それもまたすごいことだ。ほかのキャストの公演も見たいところだが、残念ながら予定が入っている!
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