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映画「ビール・ストリートの恋人たち」 地についたリアリティ

 映画「ビール・ストリートの恋人たち」をみた。

ジェイムズ・ボールドウィンの短編小説「ソニーのブルース」を読んだときの感動を鮮明に覚えている。50年近く前、大学受験で東京に来た帰り、渋谷の三省堂(だったと思う)で購入した黒人作家短編集を寝台特急「富士」の中で読んだ。その中の一編がこの作品だった。貧しい黒人少年ソニーがジャズに出会い、音楽に命を懸けようと決意する様子を黒人たちの必死の生活感とともにリアルに描いていた。その後、何冊かのボールドウィンの小説の翻訳を読んだ。いずれもとても感銘を受けた記憶がある。そのボールドウィンの「ビール・ストリートに口あらば」が映画化されたとあってはみないわけにはいかない(ただし、この小説を私は読んでいない)。

1960年代のニューオリンズ。ティッシュ(キキ・レイン)は未婚のまま、恋人ファニー(ステファン・ジェームズ)の子どもを孕む。しかもファニーは警官の機嫌を損ねたために黒人だというだけの理由でレイプ犯として逮捕されてしまう。ティッシュは子どもを産み、冤罪を晴らそうと家族とともに努力する。ティッシュの母親(レジーナ・キング)はレイプ被害者の女性を説得しようとする。だが、かなわない。

そのような状況をバリー・ジェンキンス監督はリアルに克明に描いていく。ボールドウィンの原作がそうであるように、単に黒人差別を告発する作品ではない。理不尽な社会の中で懸命に生き、神に祈ったり、それに疑問を持ったりする被差別者の生き方そのものが示される。

ボールドウィンもそうだった。難しいことは語らない。ただ、神への祈りと愛の大切さ。それを描くだけ。だが、地についたリアリティがあり、生に対する愛があり、人間に対する根本的な信頼があるために、読むものの心を打つ。翻訳を通してさえも、ボールドウィンの小説の文体から世の中に対する怒りや生に対する愛が伝わってきた。この映画に対しても、まったく同じように感じた。美しい映像や役者たちの一つ一つの表情から、生への思いがつたわってくる。差別が当然だった時代の空気も伝わってくる。とてもよい映画だった。

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