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立川市民オペラ「こうもり」 音楽面でも演技面でも素晴らしかった!

 2019年3月17日、立川RISURUホールで立川市民オペラ公演2019 オペレッタ「こうもり」をみた。素晴らしかった。とても楽しんだ。

 市民オペラを見くびってはいけないということはよく知っていたが、ここまで素晴らしいとは予想していなかった。先日、調布市民オペラ公演「アイーダ」を見て、演奏と演出のいずれものあまりの素晴らしさに圧倒されたのだったが、それに匹敵する。調布オペラのほうは、三浦安浩によるあっと驚く演出がなされていたのだったが、立川市民オペラの「こうもり」は、とてもこなれた喜劇として、おもしろく見せてくれた。セリフは日本語、歌はドイツ語。セリフは一般に上演されるものに付け加えたり、カットしたりしている。気の利いたアドリブが入る。これについても見事だと思った。

 音楽面でも極めて充実していた。指揮は古谷誠一、オーケストラはTAMA21交響楽団。アマチュア・オーケストラとのことだが、なかなかどうして! しっかりした音を出している。時々、歌手陣と合わないところがあったり、バランスを崩したりしたが、全体的にはまったく鑑賞の支障はなく、存分に楽しめた。指揮についても見事だと思った。しっかりとまとめているし、躍動感もある。

 歌手陣は全員がとてもよかった。私はとりわけ、ロザリンデの鳥海仁子とアデーレの佐々木麻子の歌唱に惹かれた。まったく異なる声質だが、ともに声に伸びがあり、音程がよく、そもそも声が美しい。オルロフスキー公爵の鳥木弥生ももちろん素晴らしかった。この不思議な役を見事に歌いこなして、観客を引き込んだ。

アイゼンシュタインの青栁素晴もフランクの大川博もしっかりした声で安定している。アルフレードの吉田連もキザな役を見事に歌っている。ファルケ博士の大槻聡之介はほんの少し声がかすれる場面があったような気がしたが、全体的にはとてもよかった。ブリントの持齋寛匡もしっかりした声。

そして、何よりも歌手陣全員の演技に驚嘆した。なぜ、この人たちはこれほど芝居がうまいんだ!?と思ったのだった。セリフ回しも動きも、そして軽妙な歌も本当に見事。全員が実に芸達者。本職の俳優さんたちにまったく劣らないと思う。演出の直井研二のセンスと指導力も素晴らしいのだろうが、それぞれの歌手たちの才能と努力も並外れたものがあると思った。

そして、演技力で言えば、フロッシュの松山いくおの名人芸にただただ驚くばかり。「こうもり」が大好きな私はこれまで坂上二郎や桂ざこばやイッセー尾形がこの役を演じるのをみたことがあるが、それ以上の面白さ、それ以上の演技力だと思う。イーダ役の今野恵理香もイーダはこんな女性なのだろうと思っている通りの見事な演技を披露してくれた。

そして、もう一つ特筆するべきは、立川市民オペラ合唱団。第二幕、パーティの場面で燕尾服にドレス姿の合唱団の人たちが現れる。かなりお年を召した人がおられるのだが、これがサマになっている! いや、それどころか声もしっかり出ているし、合唱団のすべての人がしっかりと演技をしている! 顔の表情だけでなく、手の動きまで、しっかりとオルロフスキー公爵の夜会の客になりきっている! 素晴らしいと思った。大変な努力が必要だったのではないか。

全体的に心の底から満足できる本当に楽しい舞台になっていた。笑える場面もたくさんあり、満員の観客もかなり湧いていた。市民オペラとして大成功だと思う。私がこれまでみた日本の団体による「こうもり」の中ではもっと感銘を受けた(ウィーン国立歌劇場やウィーン・フォルクスオパーの公演もみたが、それらはちょっと別格だった)。関係者の苦労は並大抵ではなかったに違いない。昨日と今日は苦労が報われた思いをしたことだろう。

 40年近く前のこと、私が薦めたため、今は亡き友人が初めて日本の団体による「こうもり」の公演(二期会だったと思う。私はこの時の公演を見ていない)を見に出かけたことがあった。あとで感想を聞いたら、がっかりしたとのことだった。その友人が言うには、「日本人がこんなオペレッタを上演しても、しゃれた感じが出せなくて、まったく面白くなかった。日本人にはこんなオペレッタはムリ」とのことだった。私も同じような感想を抱いたことがあった。

それから40年。市民オペラがこのように楽しくて、おしゃれで気の利いた「こうもり」を上演できるようになった。日本のオペラ界の成熟を感じる。それにしても、若手オペラ歌手たちが力をつけているのは本当に頼もしい。そして、あちこちの市民オペラがレベルの高い上演をしているのは本当にうれしい。

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