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ドバイ、アブダビの旅 まさにワンダーランド!

228日から34日(2019年)まで、短期間だが、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ・アブダビ゙の旅行をした。アブダビにはルーヴル・アブダビ美術館が開設されており、ダ・ヴィンチの真作とみなされた「サルバトール・ムンディ」が公開予定だとしばらく前にテレビ番組で知った。これを機会に話題の中東の国を見るのもよかろうと思い立って、クラブツーリズムに申し込んだ。出発の少し前、「サルバトール・ムンディ」の公開が遅れて、見られなくなったという知らせが届いたが、すでに行く気が高まっているので、今さらそういわれても、やめるわけにはいかない。

 228日夕方に出発して香港経由で31日朝8時ごろドバイに到着する便だった。かなり遠回りのビジネスクラスでのツアー。これなら手の届く料金だ。

 空港に降り立つ前、飛行機から下を見ていたら、一面、砂漠だった。そして、突然視界がぼやけてきた。雲かと思ったら、少し茶色っぽい。どうやら砂ほこりのようだ。そうした中を着陸。砂漠地帯には珍しく、雨が降っていた。暑くはない。20度を少し超えた位。飛行機の中で着ていた服をそのまま着ていられる。

ほかのツアー客とはドバイで初めて顔を合わせた。4人だった。最低催行人数はもっと多かったはずなので、もしかしたら何人かがキャンセルしたのかもしれない。幸か不幸かメンバーは全員が高齢者。この時期のビジネスクラスのツアーはこんなものだろう。

ドバイ国際空港は一日平均20万人以上が利用する世界最大の空港だという。が、私たちが降り立ったのは古い建物で、本当に巨大なのは、隣の建物らしい。近日中にもっと巨大な空港ができるとのこと。

ガイドさんは日本語の達者なお腹の出た40前後の男性。こんな体型の人をたくさん見かける。後で聞いたところ、エジプトから8年前にやってきたとのこと。ドバイには外国人が多い。8割以上が外国人という。もともとのドバイ人のほとんどがかなりの高給をもらっている。日本円で1000万を超す人がほとんどらしい。外国人はそれに比べるとかなり安く働いている。ホテルやレストランで出会う人のほぼ百パーセントが外国人ということだろう。この国には所得税はない。法人税もない。だから、様々な企業が進出し、中継地点を作り、多くの人が仕事を求めてやってくる。ただ、外国人参政権はないようだ。割の住人の意見ではなく、割の人間の意見で社会が動いているのに、特に激しい抗議は出されていないというから不思議だ。ガイドさんは、英語やほかの言葉を使って現地の人と交流していた。

 話には聞いていたが、実に清潔で整った近代都市。道路は真新しくて車の乗り心地はよい。片側5車線程度の道が続き、歩道があり、街路樹が植えられている。ゴミはなく、完璧といってよいくらい整備されている。雨はすぐに止んだ。

 すぐに高層ビル群が見えてきた。奇抜なデザインの様々なビルが立ち並んでいる。ねじれたビル、パイナップルを形パイナップルの形をしたビル、T字型のビル、H型のビル、ピラミッド型のビル、先の尖ったビルなどなど。まるで建築家のデザインを競い合っているかのよう。これは気鋭の建築家たちの発表の場だといえるかもしれない。そのどれもが50階建て以上なのだと思う。未来都市といってもいい。しかも、いたるところで建設途中の高層ビルが見える。1000メートルを超すタワーも建設中だという。

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 花壇もあちこちにある。スプリンクラーで水を撒いているようだ。海水を濾過して真水にする工場があって、豊富に水が使われている。だが、飲み水などはほかの地域に比べて高額だという。

 大勢の外国人が建設関係の仕事についているとのこと。ところが、建設中のマンションの部屋を合計すると、ドバイの人口を起こしてしまう。多くの人が、自分で住むためではなく、人に貸して家賃を取るためにマンションを建てている。投資のためのマンション建設ということだろう。

 ドバイは石油成金国家なのだとばかり思っていたら、今ではほとんど石油は出ないと言う。先代の王様が、石油が出なくなる将来を見据えて、砂漠の中に都市を作り始めたらしい。そして次々と世界一のものを作り始めた。世界一高い建物、世界一大きな建物などなど。そして投機を呼び込み、観光客を呼び、労働者を呼んだ。人工的な未来都市。実にドバイは不思議なところだ。まさしくワンダーランド。

ドバイには産業はほとんどないと言う。野菜も機械も国内では作られない。すべて輸入に頼っている。国内には海外からのたくさんの会社が支店を置き、ここ中継点にして販路を広めている。ドバイには税金がないので、企業はこぞってやってくる。このような政策が成功して、世界の注目の的になり、今や世界を代表する大都市になった。

 ドバイの街を見ていると、昔訪れた北朝鮮の平壌思い出した。マンションが立ち並んでいたが、生活の匂いがしなかった。それと同じように、ここも生活の匂いがしない。うす汚れたレストランや果物屋や野菜屋や肉屋が見当たらない。怪しい店も見かけない。高級住宅や超高層ビルが並ぶばかり。きっとこの高級マンションの中にスーパーやおしゃれな店舗がテナントとして入っているのだろう。

強い風が吹き、雨が止むと砂が舞う。砂嵐というほどではないが、茶色の砂が飛んでいるのがよくわかる。車には砂埃がついている。雨が降ると、車に砂がべったりついて、汚れる。ところが雨が降ってから数時間後、車のほとんどがきれいになっている。もちろん中には砂だらけのものがある。しかしかなりの数の車が汚れていない! 屋内のきちんとした駐車場にあったのか、それともすぐに洗車したかのいずれか。いずれにしても、今まで訪れた国では考えられない!

 

早速市内観光に出発。世界最大の面積の人工島パーム・ジュメイラ(ヤシの形の島が形作られている)、世界一大きな金の指輪数国あるゴールドリング、世界最大のねじれた塔カヤンタワー、世界最大の屋内スキー場スキー・ドバイなどなど。どれも物量で圧倒する。

ショッピングモールにほとんど関心なく、ブランド品もよく知らず、スキーを一度もしたことのない私は、これらのものにはまったく興味を持てなかった。よくぞこんなものを作ったものだと呆れながら歩いていただけ。ともかくあらゆるものが巨大でおしゃれ。そこを様々な人種の人たちが行き交っている。やはりアラブ系の人が多い。白人もかなりいる。東アジア人もたくさんいる。しかし、思ったほどイスラム色は強くない。イスラム教徒と思われるのにヒジャブをしていない女性も多い。キリスト教国とさほど変わりがない。ときどき、目だけを出した黒づくめの女性を見かけるが、それはむしろ例外的。ガイドさんによれば、これらの女性はサウジアラビア人だろうとのこと。

観光客らしい人も多い。中国人団体客も時々いる。日本語も時々聞こえてくるが、それは観光客ではなく、日本に住んでいる人たちのようだ。日本人は企業関係者を中心に3000人程度住んでいると言う。

「人工性」が一つのキーワードだと思った。巨大な屋内スキー場は、まさに人工性を象徴している。リフトがあり、ゲレンデがあり、山小屋のある屋内スキー場。そもそも、この都市そのものが砂漠の中に人工的に作られたものだ。

 その後、人間的な雰囲気のある界隈で昼食。高級なところではなく、外国人労働者たちが暮らす場所に近い繁華街のようだった。六本木のような雰囲気がある。インド、中国などのレストランがあった。なんだかよくわからないものを食べた。料理の味は決して良くはなかった。

 

昼食後、ホテル(JWマリオット・マーキス・ドバイ)に入って一休みしてから、砂漠ツアーに出かけた。

4WDの車に乗って40分ほど高速道路を走った。砂漠の中の一本道。右も左も砂漠が広がる。ドバイが砂漠の中に建てられた人工の大都市だということをまさに実感する。かなり強い風が吹いて砂を運んでいる。車がかすかに揺れる。ほとんど砂嵐と言えるほど。路上に砂が溜まっている。いちどタイヤが砂にとられてスリップしかけた。

トイレ休憩でスーパーに停まった。だが、ツアー客4人とも私を含めて車外に出るのを嫌がった。外はまさに砂が流れている。

車のタイヤの空気をかなり抜いてから、舗装された道路を離れて砂漠に進んだ。空気の圧力を減らさなければ砂の上では危険らしい。

舗装された道から外れると、そこはまさに砂漠だった。薄茶色の砂が見渡す限り広がっている。サラサラの細かい粒子の砂だ。砂があちこちで小さな丘陵を作り、谷を作っている。コンクリートの壁が作られて砂のたまっているところもある。砂は風で小さく動いているのがわかる。

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20分ほど進んで、ラクダの飼育場所で一旦休憩。少し外に出てみた。

ここも凄い風。1分ほど車の外にいただけで。口の中に砂が混じった。服全体がざらざらしてきた。すぐに車の中に戻った。砂漠地帯の人が着ている服は、何度かぱたぱたと叩けば砂が落ちるようにできていると初めて気づいた。スーツなどを着ていたら、それこそあちこちに砂がたまって落とすのに一苦労するだろう。ポケットのあるシャツなども苦労しそう。

しばらく砂の中を車で走って待機。8台の車が到着するのを待って、隊列を作って、砂漠を出発した。すべてが日本の4WD車。日本車、とりわけトヨタへの信頼が厚い。このようにして、アクロバット走行を行う。これが観光の一つの呼び物になっているようだ。

私たちのツアー・グループは全員高齢者なので、それを配慮してくれてか、しんがりをゆっくりと走ってくれた。それでも、まるでジェットコースターのように砂の山を転がったり、駆け上ったり。頭を車の天井にぶつけそうになる。車が大きく傾いて今にも横転しそうになる。前を行く車は大きな砂塵を上げて走っている。

ガイドさんによると、若いお客さんたちだったらキャーキャーという叫び声が起こるというが、さすがに高齢者ばかりだから、ちょっとした叫び声しか出さない。20分ぐらいだろうか、そのようにして砂漠の中の丘を登ったり降りたりした。しばらくたつと気分が悪くなってきた。車酔いだ。私だけでなく他の女性客も不調を訴えた。おかげで少し加減して走ってくれた。私もあと5分これがついていたら、きっと嘔吐していただろう。

その後少し離れたキャンプ場に行って、バーベキュー・ディナー。

周囲を小さな木立とテントで囲まれた場所に10メートル四方ほどの小さなステージがあり、その前に絨毯が敷かれテーブルが置かれていた。テーブルには100人以上の観光客が集まった。音楽がかかり、アナウンスがあってから、ステージの上できれいな女性のベリーダンスが始まった。とても魅力的な女性が客をあしらいながら、10分ほど踊った。その後、ディナー開始。バイキング方式で、自分で料理を取りに行く。

おそらく気温は15度くらい。長袖の服の上に薄手のジャンパーを着ていたが、かなり寒い。風も吹いている。強い風ではないが、口に含むと、料理に砂が混じっているのがわかる。口の周りにも砂がつく。味も決しておいしいとは言えない。しかも車酔いの後であるだけに、まったく食欲はなかった。

食事をとりながら、男性の火を使った芸などを見て終了。私は男性なので、きれいな女性のベリーダンスには興味を持ったが、それ以外はまずまず。

車でホテルに戻った。ホテルはJWマリオット・マーキス・ドバイ。72階建ての1600室ある超高層ホテル。42階に宿泊。設備もきわめて現代的。すべてが清潔で機能的。外を見るとまさに未来都市。その先に海が見え、反対側には砂漠が見える。これぞドバイ。

 

2日目。この日は午前中にアブダビ観光が含まれる。

ドバイとアブダビ。同じような都市かと思っていたらかなり違う。

アブダビがアラブ首長国連邦の首都。この国は7つの首長国の連邦として成り立っている。ドバイとアブダビはそれぞれがこの連邦をなす国家であり、隣り合っているため車で2時間以内で行くことができ、多くの人が日常的に交流しているようだが、半ば独立しているという。首都はアブダビだが、ドバイのほうが経済的に成功して大きな発展を遂げ、アブダビがそれを追いかける形になっている。アブダビはドバイと異なって石油が大量に出る。いわば石油成金国家だ。

アブダビに向かって小型バスで高速道路を走った。ドバイにいる間は高速道路は砂漠を貫いている。都市部には建物があるが、それを過ぎると右も左も広がっているのは砂漠。ところがアブダビに入った途端に左右に木々が広がる。もちろん、アブダビも砂漠の中に建てられた都市だが、アブダビはドバイのように急速に高層化を進めるのではなく、植林をして、緑を増やし、投資よりも宗教や文化施設を重視していると言う。高層ビルは多いが、ドバイほどではない。

初めに4万人が入って礼拝できる巨大モスク、シェイク・ザイード・モスクを訪れた。UAEの建国の父であるザイード・ビン・スルタン・アル・ナヒヤンが建てたモスクだ。私費を投入したため、どのくらいの費用が掛かったのか不明だという。タージマハルによく似ているがもっと巨大で、もっと真新しく、美しい。

パキスタンのイスラマバードでもシャー・ファイサル・モスクという巨大モスクを見たが、こちらは贅のレベルが異なる。イスラマバードのほうはコンクリートを白塗りにしただけの体育館のようなモスクだったが、アブダビはまさしく芸術品。最高に美しい大理石が敷き詰められ、草花のみごとな彫刻がなされ、主要な礼拝室にはシャンデリアがあり、手作りのペルシャじゅうたんが敷き詰められている。贅を凝らし、芸術のエッセンスを集めて作っている。

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これほどのものを見せつけられると単に石油成金だなどと揶揄していられなくなる。タージマハルなどの歴史的な文化施設もおそらく同じように富と権力を持つ人間がその力を見せようとして、そしてまた自分の信仰心や思いを示そうとしてこのようなものを作ったのだろう。現代の美のすべてを結集させたかのような建築物だと思う。ただ、すでにある文化の模倣であって、新しい文化を築いているのではなさそうだ。

 

その後、ルーヴル・アブダビ美術館を訪れた。2017年に開設されたばかりの真新しい美術館だ。海岸に白い建物がある。シドニーのオペラハウスを思い出す。木漏れ日を再現したという屋根が美しい。美しいだけでなく、このような工夫によって自然光が取り入れられているという。フランスのルーヴル美術館が別館として認めているらしい。きっと莫大な金額がルーヴル美術館に支払われたのだろう。オイルマネーの威力と言うべきか。

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建物そのものも魅力的だが、展示されている絵も素晴らしかった。常設館にも古代から20世紀までの実用品、装飾品、絵画、彫刻が展示されている。ダ・ヴィンチの「ミラノの貴婦人の肖像」のほか、ティツィアーノ、マネ、モネ、セザンヌ、ピカソなどの絵、ジャコメッティの彫刻などもあった。

特設会場ではオランダ絵画展が開かれていた。レンブラントやその工房の絵画がメインだったが、フェルメールの「ヴァージナルの前に座る女」と「レースを編む女」も展示されていた。前者ははじめてみた。贋作か真作かで意見が分かれている絵画らしいが、現代では真作という説が有力のようだ。「レースを編む女」はフランスのルーヴルで必死に探してみた記憶がある。

ヤン・リーフェンスという画家を初めて知った。レンブラントのライヴァルだったという。その「ペルシャ衣装の少年」が今回の展示会で大きく取り上げられていたが、これは素晴らしい絵だと思った。男の子の表情、肌や服の感触、光の表現などに惹かれた。

 

その後、ドバイに戻って、ホテルに入って一休みした後、噴水を使ったプロジェクトショーを見にいった。それなりの人が見物をしている中で、大音響の音楽がかかり、海辺の入江の近くのビル全体にプロジェクターで海賊もののアニメが映し出される。海の入り江に噴水が仕掛けられていて、そこにもアニメのキャラクターや海賊船などが映る。ただ、風が強くて噴水のきれいな映像が投影されなかった。昨年、桂林に行ってビルの屋上から大量の水が滝のように吹き出してきて、そこに大音響の音楽がかかるパフォーマンスを見たが、それを思い出した。

その後、ナイトクルーズ。遊覧船に乗って夕食を取りながら、運河を2時間ほど回るものだが、見えるのは超高層ビルばかり。電飾が施されていたりしているが、さほどおもしろいものではなかった。遊覧船も音楽がかかり、西洋人の団体が陣取っていて、静かに話もできなかった。

この日は22時30分過ぎにホテルに戻った。この日のホテルはシャングリラ・ホテル・ドバイ。心地よいホテルだった。

 

3日目

 早く目が覚めたので、朝の散歩に出かけた。

 高層ホテル街なので、道路はがらんとしている。日曜日だが、この国では金曜日と土曜日が休日で、日曜日からは平日。出勤している車が多い。日本よりももっと整備された道。片側3車線。車はどれもきれいに洗車されている。日本車が多い。4WDの車が目立つ。時々韓国車が通るが、それを除けば日本の道路とほとんど同じではないか。日本車中心で、ドイツ車が時々走る。交通ルールはきちんと守る。歩行者もきちんと赤信号を守っている。

 近くにスーパーがあった。24時間営業の大スーパー。大倉庫のようなところだった。50メートルくらいありそうな陳列台に商品がずらーっと並べられている。すべての製品の寸法が大きい。ポテトチップのなかには日本で売られている製品の5倍くらいの大きさがありそうなものも混じっている。朝の7時過ぎに行ったので、客はほとんどいなかった。

 少し歩くと高級住宅街らしかった。広い敷地。この国の国籍を持つ人はほとんどがこのような邸宅で暮らしているらしい。マンションで暮らす人もいるらしいが、そこは車ごとエレベーターに載せて上の階まで行けるような高級マンションとのこと。外国人労働者はそれほどではない一般のマンションで暮らしている。治安はよく、警察は必要ないほどだという。確かにパトカーも見かけないし、警官の姿も見ない。高級住宅街は静かで落ち着いている。

 10時半から3日目の観光に出発。この日のメインは世界一高い828メートルのビル、バージュ・カリファの展望台でのドバイ展望。

 バージュ・カリファは映画「ミッション・インポシブル」シリーズの一作でトム・クルーズがガラスの側面を走り回るところをスタントなしで撮影したというので有名な場所だ。私のこの映画をテレビで見た記憶がある。大行列を作って1時間ほどかけて展望台に行き、ドバイを一望。

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 砂漠に囲まれた海辺に超高層ビルが建って、現在のドバイが作られていることがよくわかる。全体的にベージュ色なのは、砂埃のせいであり、また砂による汚れが目立たないように建物自体をそのような色にしているせいでもある。それはそれで壮観。

 一体いつまで、この人工の都市は成り立つのだろうか。

 いってみれば、ドバイはバブル国家だ。今は投機が投機を呼んでどんどんと拡大している。世界最先端の先進国と言えるような状況にある。だが、これはねずみ講に近い。次々と仲間を増やし、みんなが投機熱を抱くから、この都市が成り立っている。だが、投資に参加する人がいなくなったとたんに、すべてがストップし、あとはゴーストタウンになってしまう恐れがある。ねずみ講国家、砂上の楼閣国家といいたくなる。

 だが、考えてみると、資本主義社会の都市そのものが、投資によって人を呼び込み、幻想によって成り立っている面がある。ただここは砂漠の中の何も産業のないところに人工的に、ゼロから先端国家を作ったので、それが目立つだけだ。いわばここは資本主義の最先端のいわば実験場のようなところだ。このような手法を続けて、拡大し、成長を続けていくことも考えられなくもない。

 その後、ショッピングモールの横にあるドバイ・ファウンテンで噴水ショー(音楽とともに噴水がバージュ・カリファをバックにして高く吹き上がる)をみた。それから、しばらく車で移動して、世界最長の無人運転鉄道にのった。ファイナンシャル・センターからワールド・トレード・センターまでの2駅。車両は日本製。とても乗り心地が良かった。乗っているのは、外国人労働者ばかりで、国籍を持った人はいないらしい。電車内には立っている人もいて、それなりに混んでいた。

 電車を降りて、車で空港に向かい、そのまま夕方の出発を待って、香港経由で、3月4日午後に帰国。

 成田空港から空港バスで自宅に向かい、高速道路を通り、マンションやお店を見た。いつもは日本に戻って、「訪れた国と違って、日本はなんて快適できれいな先進国だろう」と思うのだが、今回ばかりは、「ドバイやアブダビと違って、日本はなんて汚いところが多くて整備されていない途上国なんだろう」とひょいと思ったのだった。

 これまで訪れた多くの国とあまりに違っていた。そこに暮らす人々の生のありようを間近に見ることもできず、その土地の芸術や文化を味わうこともできなかった。おいしい料理にもであわなかった。ただただ様々なことに疑問を抱いた。まさにワンダーランド。それだけに、あまりに俗っぽく、あまりに無機質ながら、私は今回の旅行をとても楽しく思った。このような都市が世界に存在することを知ってとても有意義だった。この後、この国がどうなるのかとても気になる。

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コメント

今回も興味深く読ませていただきました。想像を絶する街=国ですね。昨年ドバイを訪れた友人が二人いて、それぞれ話を聞きましたが、よくわからずにいました。今回の旅行記を読んで、よくわかりました。近い将来の石油資源の枯渇を見込んで、打つべき手を打ったのは立派だと思いますが、ドバイの人々が贅沢な生活に馴染んで、働かなくなったようなのは心配でもありますね。

投稿: Eno | 2019年3月 7日 (木) 07時29分

Eno 様
コメント、ありがとうございます。
おっしゃる通り、国籍を持つ人々は特権階級を成しているようです。外国人労働者との格差はそのうち深刻な問題になっていくと思います。今のうちは経済がうまく回っているようですが、それに何らかの停滞が起こった時にどうなるか、大いに危惧するところです。
ブログ、興味深く読ませていただいております。お父様のお話につきましても、わが亡父(同年代だと思います)と重ねあわせて感慨深く読ませていただきました。

投稿: 樋口裕一 | 2019年3月 8日 (金) 22時03分

樋口裕一さん こんばんは。

ドバイへ行かれたのですね。
僕はドバイに限らず、資本主義経済は「ネズミ構的」であると思います。

自分の生産物を高値で買う人が生まれないと破綻するという意味でドバイは特に危ないとは、昔から言われていました。

外国人が働き、自国民は働かないのもまずいですね。

ドバイと言えば、ワールドカップですが、僕は昨年9月からブログを書いています。そこには主に競馬場の話が出てきますけど、ドバイワールドカップの話は出てきません。

ドバイの競馬は馬券の売り上げを主に経費に充てている日本の競馬と違って、馬券の売り上げはありません。観光客の落とす入場料やオイルマネーが賞金となっています。

でも働いてるのが外国人だけになったら、ドバイも終わりかな? 日本人にはワールドカップのお陰で知名度はずいぶん上がったのですがね。

投稿: kum | 2019年3月 9日 (土) 01時12分

kum 様
コメント、ありがとうございます。
ドバイでは競馬が盛んだが、現地の人はお金を賭けないという話はガイドさんに聞きました。この上なく資本主義的な社会において馬が賭けの対象にならないのも実に興味深いことだと思いました。危険をたくさんはらみながらも成り立っているのが実に不思議な社会です。

投稿: 樋口裕一 | 2019年3月11日 (月) 08時21分

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