キアロスクーロ・カルテット 心の秘めやかな声
2019年4月23日、王子ホールでキアロスクーロ・カルテットのコンサートを聴いた。キアロスクーロ・カルテットはアリーナ・イブラギモヴァを中心としたメンバーで、ヨーロッパで話題になっているという。曲目は前半にハイドンの弦楽四重奏曲第38番「冗談」とベートーヴェンの弦楽四重奏曲第2番、後半にメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第1番。
昔、私はヴァレリー・ラルボーというフランスの作家に関心を持っていた。彼を中心にした修士論文を書いた。ラルボーに「心の秘めやかな声」(Mon plus secret Conseil)という小説がある(直訳すると、「私の最も秘められた心の声」ということになるだろう)。演奏を聴きながら、このタイトルを思い出した。
四人が親密に心の声を通わせあってささやき声で打ち明け話をしているかのような演奏。大きく外に向かって表現するような演奏が流行している現在、それと正反対の方向を行く演奏だ。完璧なアンサンブルと美しい音色によって静かに、小さく音楽を作っていく。そして、抑制しながら心の奥を爆発させる。古楽的な奏法を取り入れているのだと思うが、それがハイドンとベートーヴェンとメンデルスゾーンの肉声を蘇らせる。
心憎いまでに考え抜かれたプログラムだと思う。最初にハイドンの「冗談」。まさしくおしゃべりの様子が描かれるような音楽。次にベートーヴェンの若い時期の弦楽四重奏曲。あえてベートーヴェンの若々しいエネルギーの音楽をこのようなささやきの音楽にして聞かせる。なるほど、ベートーヴェンの心の奥はこのように初々しく、傷つきやすく、感受性豊かなものだったのだと納得させられる。
そして後半にメンデルスゾーン。これも若書きの弦楽四重奏曲だ。しかも、メンデルスゾーンの曲はしばしば明るく抒情的に演奏される。ところが、キアロスクーロ・カルテットの手にかかると、メンデルスゾーンの悲しみに満ちた心の声が聞こえてくる。メンデルスゾーンはお金持ちのボンボンなどではなかった。ユダヤ人だというだけで手ひどい差別を受けた。目に見えない形での嫌がらせもされた。姉のファニーと心を寄せ合ってそれに耐えながら高潔で均整の取れた音楽を作った。そうした音楽の中にキアロスクーロ・カルテットはかすかに聞き取れる悲しみやため息をえぐりだす。しかも、それが極めて知的に行われる。
見事な演奏だった。・・・とはいえ、すべての曲が同じような表現なので、手の内が見えてしまう気がした。もう少し多様な表現をしてくれるほうが、私はもっと感動できると思う。大変面白い演奏だと思ったし、とても刺激を受けたが、感動したかといわれると、それほどでもなかった。
ところで、一昨日からスリランカのテロが報道されている。
昨年、スリランカを訪れた。数日間訪れただけだったが、大好きな国になった。平和が訪れているように見えた。イスラム教徒が仏教社会の中で差別されている状況は見えたが、イスラムとキリスト教の対立などまったく感じられなかった。
スリランカで知り合いになった人も何人かいたので安否が気になった。その方たちは無事だったようだが、日本人を含めて多くの方が亡くなった。痛ましいことだ。これから、スリランカまでがまたも混乱に巻き込まれるのかもしれない。国と国の戦いという戦争の形ではなく、国民の中に紛れ込んだテロリストとの戦いになる。厄介なことになりそうだ。
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