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戸田弥生の室内楽「浄夜」 心をえぐる音楽

 201942日、東京文化会館小ホールで「戸田弥生の室内楽」を聴いた。曲目は前半にストラヴィンスキーの弦楽四重奏のためのコンチェルティーノとチャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」、後半にシェーンベルクの「浄夜」。演奏は、第一ヴァイオリンが戸田弥生。そのほかは第二ヴァイオリンは伊藤亮太郎、ヴィオラは店村眞積と村松龍、チェロは横坂源と上森祥平。素晴らしい演奏だった。

 ストラヴィンスキーのこの曲は初めて聴いた。鮮烈さに驚いた。次の「フィレンツェの思い出」は、まったく甘ったるさのないチャイコフスキー。確かにチャイコフスキーらしい甘美なメロディが聞こえるが、あくまでも厳しく緊張感にあふれている。すべての楽器が絶妙に絡み合い、強く心の奥深くにしみいる。戸田さんの個性なのか、とりわけ第一ヴァイオリンの音の芯が強く、そして美しい。自己主張の強い音だ。名手ぞろいなだけに、弦の重なりに素晴らしい雰囲気がある。単に美しいだけでなく、深みを感じる。

 後半の「浄夜」はもっと素晴らしかった。この曲はしばしば官能的でエロティックで甘美になるが、戸田さんが第一ヴァイオリンを務めると、そのようには聞こえない。もっと表現主義的になり、厳しくなり、スリリングになり、感動的になる。そして、最後、デーメルの詩によると、男が他人の子供をはらんだ女性を受け入れ、自分の子として育てようと決意する場面。その部分の清澄さは素晴らしい。前半がスリリングで必死感があるだけに、最後にカタルシスが訪れる。まさに目の前に宿命を前にした男女の真剣なやり取り、そして最後のカタルシスが描かれる。

 アンコールはブラームスの弦楽六重奏曲第1番の第2楽章。ロマティックで甘美な音楽としてしばしば演奏される。が、ここでももっと切実な音楽になる。この深くて心をえぐる音を聴くと、私は「宿命」という言葉を思い出さずにはいられない。

 私は戸田さんのヴァイオリンを聴くと、昔の巨匠シゲティを思い出す。シゲティはあまり美しい音ではなかった。だが、聴衆の心をわしづかみにした。戸田さんのヴァイオリンにも同じようなところがある。もちろん、戸田さんのヴァイオリンの音はシゲティよりもずっと美しいしく、しかも素晴らしいテクニックだが、それでも美音やテクニックよりも心をえぐる表現に真骨頂があるのは間違いないだろう。戸田さんのヴァイオリンを聴くごとに心をえぐられ、感動する。華麗なテクニックでさらりと演奏するヴァイオリニストが増えている中、戸田さんのような心の奥をえぐってくれるヴァイオリニストは実に貴重だと思う。大好きなヴァイオリニストだ。心から満足。

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