新国立劇場「フィレンツェの悲劇」と「ジャンニ・スキッキ」を楽しんだ
2019年4月10日、新国立劇場で、ツェムリンスキー作曲のオペラ「フィレンツェの悲劇」とプッチーニ作曲の「ジャンニ・スキッキ」の2本をみた。とてもおもしろかった。
「フィレンツェの悲劇」は、音楽を聴くのも初めて。そもそもツェムリンスキーの曲自体、これまで実演で聴いたのは2、3曲程度。CDも数枚しか聴いていない。で、初めて聴いてみて、シュトラウスにとても似ているのを感じた。出だしなど、「エレクトラ」を思い出す。
原作はシュトラウスの「サロメ」と同じオスカー・ワイルド。倒錯的な愛の物語という点でも共通する。ただ、やはりツェムリンスキーの音楽はシュトラウスに比べると物足りない。もっともっと強烈にできると思うのだが、あまり起伏なく音楽が進む。が、最後はなかなかの迫力。シュトラウスとだったら、初めからもっと不気味に、もっと蠱惑的に、もっと戦慄的に音楽を作っていくだろうと思った。
歌手陣は充実していた。シモーネのセルゲイ・レイフェルクスがやはり圧倒的。グイードのヴゼヴォロド・グリヴノフもまったく文句なし。二人の掛け合いの迫力は素晴らしかった。ビアンカの齊藤純子も日本人離れした歌唱と容姿。二人にまったく引けを取らなかった。この歌手をまったく知らなかったが、世界に通用する日本人歌手だと思う。
演出は粟國淳。傾きかけ、まるでアンコールワットのように植物に浸食された館のうらぶれた中庭が舞台になっており、世紀末的雰囲気が濃厚に出ていた。指揮は沼尻竜典。これまた世紀末的で雰囲気のある演奏。
「ジャンニ・スキッキ」も楽しめた。このブログにも何度か書いた通り、私はプッチーニ嫌いなのだが、このオペラはまったく不愉快さを感じない。どうやら私がプッチーニを聴いて不愉快に思うのはメロドラマ的な部分らしい。
ジャンニ・スキッキを歌うカルロス・アルバレスがやはり圧倒的な歌唱と芝居。自在に歌いまくる。リヌッチョの村上敏明も素晴らしい。ラウレッタの砂川涼子も可憐でなかなかいい。そのほか、すべての歌手に満足。芝居も実にうまい。日本人歌手たちのオペラの演技も板についてきたのをつくづく感じる。一昔前まで、目をそむけたくなるような下手な演技がなされたものだが、このごろ、まったくそんなことはなくなった。ブオーゾの死体役の俳優さんの見事な演技にも脱帽!
拡大されたブオーゾの書斎が舞台になっており、巨大な万年筆や手紙などが配置されている。そこに卑小な人間たちが遺書を探し手右往左往する。一人一人の動きが滑稽で、しかも不自然でなく気が利いている。粟國淳のこなれた演出に驚嘆。東京フィルハーモニー交響楽団の演奏ものびのびとしていてよかった。
4月だというのに真冬のような冷たい雨。しかも、あれこれとめっぽう忙しい。チケットを購入した時にはぜひみたいと思ったものの、なじみのないオペラと嫌いなプッチーニのオペラ。でかけるのをちょっと億劫に思ったのだったが、実際にみた後はとても幸せな気分で帰途に就いた。
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