森麻季 リリックな歌声を堪能した
2019年6月30日、調布国際音楽祭として、調布市市立文化会館たづくり くすのきホールで、森麻季ソプラノリサイタルを聴いた。ピアノ伴奏は山岸茂人。素晴らしかった。まだ興奮している。
2007年のドレスデン歌劇場来日公演「ばらの騎士」で、素晴らしいゾフィーを聴いて、森さんの実力を知ったのだったが、今回改めて聴いて、ますます凄みを増していると思った。本当に素晴らしい。世界のトップレベルを行く数少ない日本人歌手の一人だと思う。
音程のしっかりした澄んだ輝かしい声。声そのものがまず素晴らしい。だが、それだけでなく、声の響かせ方など、テクニックも本当に見事。会場内全体に美しく響き渡る。ピアノ伴奏も澄んだ美音が声にふさわしい。
最初の、メンデルスゾーンの「歌の翼に」やシューマンの「献呈」もよかったが、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」のなかの 「アヴェ・マリア」が絶品。本当に清澄で美しい声! 祈りの心が伝わる。
「コシ・ファン・トゥッテ」の「恋人よ、許してください」も「ドン・ジョヴァンニ」の「むごい女ですって!」も、細やかに女の心を歌って素晴らしい。フィオルディリージやドンナ・アンナの心が細かいところまで伝わるような歌だ。
後半はフランスの歌曲やオペラ・アリア。アーンの「至福の時」の、まさに幸せを歌う清澄な声に痺れた。フォーレの「月の光」も「夢のあとに」も、フランス語の発音が実に美しい。言葉の響きの一つ一つをとても大事にしているのがよくわかる。
が、やはりオペラのアリアで、森さんの輝かしい声はいっそう魅力的になる。「カルメン」のミカエラのアリア「何を恐れることがありましょう」も清純な心が込められていて美しかったし、シャルパンティエの「ルイーズ」の「その日から」も、まさに幸せの絶頂を可憐に歌い上げていた。カタラーニの「ワリー」のなかの「さようなら、ふるさとの家よ」もしっとりとして味わい深い。
アンコールに日本歌曲「はつこい」と「からたちの花」。ともに、日本語の言葉も聞き取りやすく、しかもその響きが美しい。最後に、「ラ・ボエーム」のムゼッタのアリア。この躍動も見事。
今回選ばれていたのは、いずれもリリックな歌だった。これこそ、森さんの声の美しさを存分に味わうことのできる歌だっただろう。声の美しさ、言葉の美しさを堪能できた。
ただ、私としては、もっとダイナミックな歌やコケティッシュな歌、ユーモラスな歌も聴いてみたかったが、それはないものねだりでしかないだろう。次の機会には今回と違ったタイプの歌も是非聴きたい。
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