東京二期会「サロメ」 歌手陣は素晴らしいと思ったが、指揮と演出の乖離を感じた
2019年6月9日、東京文化会館で東京二期会公演「サロメ」(ハンブルク州立歌劇場との共同制作)をみた。今回の公演の最終日。
歌手陣については素晴らしいと思った。日本人歌手のレベル向上を改めて感じる。やはりサロメを歌った田崎尚美が圧倒的に素晴らしい。声が伸びているし、音程も安定している。世界のひのき舞台でサロメを歌えるレベルだと思う。ヘロディアスの清水華澄ももちろん素晴らしい。そのほか、ヘロデの片寄純也、ヨカナーンの萩原潤、ナラボートの西岡慎介、小姓の成田伊美も穴がない。
ただ私はウィリアム・デッカーの演出とヴァイグレの指揮にあまり惹かれなかった。そのためだろう、全体的に大きな感銘は受けなかった。
大きな階段があるだけの舞台。登場人物はすべてグレーっぽい服で、女性も含めて禿げ頭。私はなぜこのような衣装にしたのか理解できない。こうすると、全体が抽象的になり、登場人物が匿名になり、一つの記号になってしまう。セリフの中で大きな意味を持つ「月」も現れない。そうなると、事象についての象徴性も薄れる。サロメやヘロディアスやヘロデやナラボートの個々の特殊性も薄れる。
いや、そうであっても音楽がもっと表現主義的であったり、抽象的であったりすれば、それでよいと思うのだが、ヴァイグレの作り出す音楽はむしろ豊穣で甘美。読響もヴァイグレの指揮にこたえて、美しい音を出していた。オーケストラはサロメやヘロディアスの心の襞をロマンティックに歌い上げようとしているように聞こえる。私には目の前に見える光景と、聞こえてくる音楽の乖離が感じられて仕方がなかった。
私の個人的な好みの問題かもしれないが、「サロメ」については、もっと先鋭的、もっとアグレッシブに演奏してくれるほうが嬉しい。官能的に豊かに美しく演奏されると、せっかくの表現主義的な魅力が半減してしまう。読響とのブルックナー演奏など、このところのヴァイグレの充実ぶりには感嘆していたのだったが、今回は少し不満に思ったのだった。
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