映画「ROMA ローマ」 根付いて生きざるを得ない人々
アルフォンソ・キュアロン監督の映画「ROMA ローマ」をみた。モノクロ映画。圧倒的な映像美で深刻な世界を淡々と描く。
舞台は1970年代のメキシコ・シティ(そのローマ地区ということで、このタイトルがついているらしい)の医師の家庭で家政婦として働く原住民出身のクレオは、雇用主の子どもたちに慕われて生活している。同じ出身の男性フェルミンに惹かれて妊娠するが、男はそのまま逃げてしまう。雇用主の理解を得て子供を産もうと決意するが、ちょうどデモが暴発して市街戦が起こった日、フェルミンが市街戦の中で殺人にかかわっていることを目撃して破水、死産してしまう。雇い主の医師一家も主人が愛人を作って家を出たために妻と子供たちが取り残され、途方に暮れる。その一家の中でクレオは懸命に生きようとする。
そのようなクレオと医師一家の日常を淡々と描く。産みたくなかった子どもでありながら、実際に死産になって取り乱す場面、雇用主の子どもたちを溺死から救った後、子どもを産みたくなかったことを告白する場面など、圧倒的な迫力を持つ。
雇用主の中にも差別意識がある。拭い去れないほどに存在する。社会の中に階層がある。政治的事件がある。その中で人々は必死に、しかもしばしばエゴイスティックに生きる。犠牲になる人はやるせなく生きる。その地に根付いて生きる。そうするしかない。それを白黒の映像が静かにえぐり出す。
画面の中にしばしば空を飛ぶ飛行機が映し出される。雇用主の医師は妻子を捨てて逃げた。飛行機はこの矛盾に満ちた現場から逃げ出す手段なのだろう。逃げる人はいる。だが、クレオはその場にい続けるしかない。飛び立つ飛行機の音がする中で、クレオは雇い主の飼い犬が糞をした床を掃除して日常を生きていく。
メキシコ出身のキュアロン監督自身の体験に基づくという。過酷な社会に生きる人間への愛情があふれている。それにしても、俳優たち(子どもたちを含めて)の自然な演技にも驚くし、1970年のメキシコのリアルな再現にも驚く。メキシコの歴史について無知なためにわかりにくいところも多いが、それでも見るものを感動させる力を持っている。素晴らしい映画だと思う。
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