小泉+神奈川フィルの「田園」「運命」 徹底的に理性的な名演
2019年8月23日、みなとみらい大ホールで神奈川フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会を聴いた。指揮は小泉和裕。曲目は前半にベートーヴェンの交響曲第6番「田園」、後半に交響曲第5番(運命)。とても良い演奏だった。ある方向の演奏としては最高度に完成されているといってよいかもしれない。
「田園」はとてもしなやかな音で始まった。誇張なく、淡々と静かに音楽を奏でる。そして、完璧にコントロールされ、微妙な音の強弱や楽器の重なりで見事な陰影が作られていく。そして、第3楽章から徐々に盛り上がり、スケールが増していく。神奈川フィルの音がとても美しい。大変僭越ながら、とてもいいオーケストラになったことを痛感。それにしても、小泉の指揮の見事さに感服。腕の動きだけで、細かいニュアンスを伝え、それを緻密に構築していく。徹底的に理性的な構築だと思う。すべての音が理にかなっていると思う。ちょっと理にかないすぎているのを感じるが、それがこの指揮者の持ち味だと思う。
そして、後半の「運命」。これまた徹底的に理にかなった構築だった。なるほど、このように構築されていたのか!と納得させるような演奏。まったく破綻がない。まったく誇張がない。だが、音の一つ一つがしっかりとツボを押さえている。心の奥に響く。
第3楽章がとりわけ素晴らしかった。第4楽章を予感させ、緊張感をもって音楽が展開される。そして、第4楽章で大きく盛り上がっていく。だが、激しく盛り上がるが、形はまったく崩れず、徹底的に理性的。ちょっとした指揮の腕の動きにオーケストラは反応し、それが見事に音楽を息づかせる。まさに名人技。
素晴らしいと思いつつ、「狂気」が不足しているのを感じないでもなかった。ベートーヴェンの音楽が間違いなく持っている「狂気」の部分を、小泉は出そうとしない。コンサートマスターの石田泰尚がその部分を出そうと必死になっているように見えた。
フルトヴェングラーのような「狂気」を含むベートーヴェンが私は大好きだ。だが、徹底的に理性的な、言い換えればきわめてアポロ的なベートーヴェンがあってもいい。私はこの日の小泉のベートーヴェンをその典型、そのもっとも完成された姿だと思ったのだった。ちょっと不満に思いながらも、その見事な音楽に感動したのだった。
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