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中国映画「胡同の理髪師」「胡同愛歌」「初恋のきた道」「活きる」

 中国とのかかわりが増えてきた。来年10月に開校を予定している日本語学院の学院長を務めることになり、これからますます中国と関わることになるだろう。

 ところが、それなのに考えてみると、中国の小説も、この30年くらい読んでいない(大学生のころ、当時岩波文庫に含まれているものをそこそこ読んだきりだ)し、中国映画もほとんどみたことがない。高名なチャン・イーモウ監督の映画さえもみたことがない。社会主義を国民に強く訴えかけている国の映画はつまらないという偏見を抱いていたため、これまで敬遠してきた。

 そんなわけでDVDを購入して、中国映画をいくつかみた。まずは、先日訪れた北京が扱われている映画、そしてチャン・イーモウ監督の映画。どれも素晴らしかった。簡単な感想を書く。

 

「胡同(フートン)の理髪師」 2006年 中国 ハスチョロー監督

 北京の什刹海(シチャーハイ)の胡同に生きる93歳の老人。訪問理髪をして一人で生活している。中国は急激な近代化に進み、昔ながらの胡同の生活が成り立たなくなり、建物の取り壊しが始まっている。仲間の老人たちが次々と世を去っていく中、静かに自分を守りながら生きていく。まるでフェルメールの絵のような生活用品の質感、その中で生きる主人公の東洋の生そのもののような表情。ドラマを盛り上げるでもなく、観客の感情を高ぶらせるわけでもなく淡々と静かに、時にユーモアを交えて老人の生活を描く。生きるというそのこと自体、そしてそれが壊されて商業主義になっていく社会が淡々と描かれる。これは素晴らしい映画。原題は「剃頭匠」。要するに、「理髪の名人」というような意味だろうか。

 

「胡同愛歌」 アン・ザンジュン監督 2003

「胡同の理髪師」をアマゾンで検索しているうちに出てきたので、これも購入してみてみた。なかなか良い映画だと思う。

 妻と離婚して、駐車場の管理人として北京の胡同で息子とつましく暮らす杜(トウ)は、近くに住む女性と恋仲になり、結婚しようとしている。ところが、離婚に合意したはずの女性の夫が刑務所から出てきて、よりを戻そうとし、女性や杜、その息子に乱暴をふるう。耐えかねて杜は男を襲って重傷を負わせ、自首して服役する。そうした話を、父と息子の心の行き違いや思いやりを含めて描く。

 毎日必死に生きているうだつの上がらない庶民の哀歓、心のつながりが見事に描かれている。ただ、情緒的な音楽などの感情移入を促すためのあれこれの手法が気になって、私は心から感動することはできなかった。

 なお、「胡同愛歌」というのは邦題であって、原題は「看車人的七月」。「駐車場管理者の七月」という意味だろうか。

 

「初恋のきた道」 チャン・イーモウ監督 

 寒村で小学校に赴任した男性教師に恋した娘(チャン・ツィー)の恋の物語。教師は文化大革命のあおりを受けて町に呼び戻されるが、娘は思い続け、ついに結ばれる。そのような恋の物語を、教師の死後、葬儀のために村に戻った息子が母とともに追憶する。現在の状況がモノクロで、過去がカラーで描かれる。

 厳しくも美しい中国寒村の四季、そこで学ぼうとする人々、文化大革命のうねり、そしてその中で繰り広げられる初々しい恋。それだけのことなのだが、本当に素晴らしい。映像の美しさもさることながら、チャン・ツィーのあまりの可愛らしさ、あまりの愛くるしさに心を奪われる。そして、もちろんチャン・イーモウ監督の演出力にも驚嘆。大自然の中で素直な心の動きを感じることができる。

 

「活きる」 チャン・イーモウ監督 1994

 1940年代に博打ですべての財産を失い、親も妻も子どもたちも路頭に迷わすことになった福貴の60年代までの半生を語る。心を入れ替えて影絵芝居の弁士として活動するが、中国内戦がおこり、文化大革命が起こる。まさに時代に翻弄されながら、必死に生きるが、息子も娘も失い、最後、妻と孫とともに平穏に暮らすことになる。

 この時代の中国で映画を作るには、このようにする必要があったのだろう。中国共産軍が伝え聞いているよりはずっと紳士的で、共産党も人民にできるだけ尽くす。文革の描き方も中途半端。しかし、全体的には大きな歴史の中で生きる人々の姿を生き生きと描いて、とても説得力がある。

 福貴の弟分でありながら、区長となって赴任する途中、こともあろうに福貴の息子を車で轢いて死なせてしまう春生、文化大革命で走資派と認定され、逃げ出すときに全財産を福貴に渡そうとする。同じく走資派に認定された医師は、福貴の娘の出産に立ち会いながら、囚われていた間に飢えていたために饅頭を7つも食べてしまって、娘の異常時に救うことができない。そのような人間の機微をつく描写にリアリティがある。

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コメント

新たなお仕事ご苦労さまです。お仕事の内容は、詳しくはわかりませんが、今の風潮にあって、良識派の存在を示すものではないかと想像しております。

投稿: Eno | 2019年9月 3日 (火) 20時32分

Eno 様
コメント、ありがとうございます。ブログは時々拝見しております。新しいものへの視線、ぜひ見習いたいと思っております。日本語学校につきましては、現在、開校に向けて準備中です。悪質な日本語学校が問題になったため認可が大変厳しくなっています。その中でも、日本の文化を発信し、世界の若者との国際的な交流のできる良い日本語学校にしたいと考えております。

投稿: 樋口裕一 | 2019年9月 5日 (木) 10時19分

有意義なお仕事ですね。頭が下がります。陰ながら応援しております。

投稿: Eno | 2019年9月 5日 (木) 20時50分

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