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ロイヤルオペラ「ファウスト」 グリゴーロ、ダルカンジェロ、デグーが素晴らしかった

 2019912日、東京文化会館で英国ロイヤルオペラ公演「ファウスト」をみた。

 ロイヤルオペラの日本公演は何度かみている。毎回、大きな感動をもたらしてくれた。近年では、ネトレプコのあまりに素晴らしいヴィオレッタをきいたのもロイヤルオペラ公演だった。ただ、「ファウスト」に関しては、私は日本人による小さな公演を昔みた記憶がある程度で、映像を数本みた程度。めったにみられない「ファウスト」を最高の舞台でみたいと思って出かけた。

 指揮はアントニオ・パッパーノ。メリハリがあり、うねりがあり、ドラマがあってとてもいい。ただちょっとグノーがヴェルティ的だったり、ワーグナー的であったりするが、それはそれで魅力的だ。演出はデイヴィッド・マクヴィカー。英国舞台の厚みのある演出で、マルグリートがキャバレ・ランフェール(地獄キャバレ―!)のホステスという設定になっている以外は、さほど目を引く修正はないような気がする。

 ファウストを歌うヴィットリオ・グリゴーロがやはりすごい。若返ってからの歌は、それ以前の年寄として現れた時の歌と打って変わって輝かしい強い声。後半、どんどんと歌が自在になって素晴らしい。ただちょっとフランス語らしくないのが少々不満だった。メフィストフェレスはイルデブランド・ダルカンジェロ。相変わらずの迫力。この役にふさわしい存在感。太い声も素晴らしいし、一つ一つのしぐさが決まっている。

 マルグリートのレイチェル・ウィリス=ソレンセンはヴィブラートが強くて私には言葉がほとんど聴き取れず、音程も不安定に感じた。ヴァランタンのステファン・デグーは素晴らしいと思った。律儀な兄を見事に演じ、発音の良い美しい歌を聴かせてくれた。ジーベルのジュリー・ボーリアンもしっかりした演技と歌。意図的にそうしているのかもしれないが、ちょっと地味な歌いまわしだった。「花の歌」など、もう少し華やかに歌ってもよいのではないかと思った。

 全体的に素晴らしい演奏と演出だったと思う。ただ、心の底から深く感動したかというと、それほどでもなかった。やはりグノーの「ファウスト」というオペラの限界を感じてしまう。聴かせどころの歌はたくさんある。美しい旋律もたくさん出てくる。第四幕バレエの曲もとてもおもしろい。ただ、モーツァルトやワーグナーやシュトラウスでオペラを知った人間からすると、最後まで音楽が爆発しないように思える。マルグリートの狂気に至るほどの愛の葛藤や罪の意識も悪魔との葛藤も十分に伝わらない。身を引き裂かれるような感情に聴くものを巻き込まない。この素晴らしい演奏と演出をもってしても、そうならない。

 時間的な面からも経済的な面からも、今回のロイヤルオペラ公演は1演目だけにしようと考えて、「オテロ」よりも「ファウスト」を選んだのだった(実は、私はオテロの直情径行にイライラするので、このオペラがあまり好きではない)が、やはり「オテロ」にしておけばよかったと思ったのだった。

 とはいえ、さすがの英国ロイヤルオペラ。素晴らしい上演だったことは間違いない。

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コメント

フィデリオのコメントで名前を書き忘れたル・コンシェです。またここに現れました。
私は昨日(東京最終日)に行きました。行く前に先生の感想を読み、まずはその後段に同感!と思いました。時間はともあれ経済的に1演目にしたこと(改めてオネダンを見てたまげました)、オテロの直情径行にイライラすること、さらにはグノーの音楽に限界を感じるところ、あまりに考えが似通っていて、行く前にもう見てしまったように思ったものです。
公演をみて思ったのは、これはやはり来てよかったです。グリゴーロ、ダンカンジェロはやはりすばらしい。それにパッパーノにも感心しました。ヴァランタン役のバリトンも役柄にふさわしかったです。
でもきれいな旋律は続きますが、オペラとしての盛り上がりは稀薄に感じます。最後の3重唱も旋律はいいですが、何か盛り上がりきらないもどかしさがありますね。これはグノーの音楽の限界と思いました。
なおバレエは、これまでは当時の習慣として付け足しみたいなものばかり見せられた気がしましたが、昨日はストーリーの中に納まっていたのは発見でした。ただあんなキャーキャーワーワー騒がしいのは、好みではありませんでしたが、、、、
ではオテロにすべきだったか? いえいえ、キース・ウオーナーのあのポップな雰囲気が好きではないので。それになかなか舞台に乗らないファウストをあれだけのキャストで見られたのは、やはりよかったですよね。

投稿: ル・コンシェ | 2019年9月19日 (木) 15時46分

ル・コンシェ 様
コメント、ありがとうございます。そして、「フィデリオ」のコメントにつきましても、改めてお礼申し上げます。
もしかすると、ル・コンシェさんと私は同じような音楽を聴いて育ってきたのかもしれませんね。そのため、「ファウスト」を見ても、同じように感じるのでしょう。そのような方がいてくださるのはとてもうれしいことです。おっしゃるとおり、パッパーノ、グリゴーロ、ダルカンジェロに触れられただけでも幸せだと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2019年9月20日 (金) 22時41分

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