ティツィアーナ・ドゥカーティにまたも魅せられた!
2019年10月13日、紀尾井ホールで、「ティツィアーナ・ドゥカーティ&崔宗宝チャリティーコンサート~子どもたちの未来のために」を聴いた。昨日(10月12日)は関東地方を台風19号が襲い、午後はほとんどの電車がストップしていた。もしかしたら、このコンサートも開かれないのではないかとひやひやしていたが、予定通り開かれた。
ドゥカーティは日本在住のイタリア人ソプラノ歌手だ。数年前に生の声を聴いて驚嘆。いっぺんでファンになった。世界トップレベルの歌手だと思う。そのような人が日本で暮らし、しかもその名前がファンの間に知られていないなんて信じられない!
前半は、崔が「この道」「落葉松」「アメージング・グレース」「赤とんぼ」「万里の長城」を歌い、ドゥカーティが「カーロ・ミオ・ベン」「母もなく」(『修道女アンジェリカ』より)、グノーの「アヴェ・マリア」を歌った。崔はしっかりした張りのあるバリトンの声。ドゥカーティもよく通る声だが、しかも音程がぴたりと合い、表現も豊かでとても繊細。「カーロ・ミオ・ベン」の最初の一声で音楽の世界に引き込む。弱音がとても美しい。もちろん、強い声も最高に美しく、自然にドラマティックに盛り上がっていく。
ピアノ伴奏は山岸茂人。とても雰囲気のある伴奏で、独唱者にぴたりと寄り添って世界を作り出していく。後半、ソロによる「月の光」も色彩的で、しかも静謐さをたたえていて、とてもよかった。
後半は、オペラ・アリア。崔が「オンブラ・マイ・フ」「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」「おお、カルロ、お聞きください」(『ドン・カルロ』)を歌い、ドゥカーティが「憐みの聖母」(『運命の力』)、「ある晴れた日に」、「宵待ち草」「歌に生き、愛に生き」「私は神の卑しいしもべ」(『アドリアーナ・ルクヴルール』)を歌った。崔もいいが、やはり、ドゥカーティが圧倒的に素晴らしい。
プッチーニ嫌いなのに、彼女が歌うと、「ある晴れた日に」も「歌に生き愛に生き」も魂が震える。女の喜び、悲しみ、情熱がじかに伝わる。正確な音程によるまったく無理のない発声の美しい声が魂にぐいぐいと食い込んでくる。
素晴らしいコンサートだった。
ただ、私がドゥカーティの紀尾井ホールでのコンサートを聴くのはこれが3回目だが、毎回、曲目に脈絡がないのが気になる。しかも、今回は、歌手がイタリアと中国の出身なのに、日本歌曲がたくさん選ばれているのも、私としてはあまりうれしくない。日本人が外国人の歌う日本歌曲を聴くと、やはりその発音が気になる。そこはやはり母国の歌を中心に歌ってほしい。
もし私がこの二人の歌手のプログラムを作るのであれば、例えば前半にはイタリアと中国の歌を中心にして、最後に1曲か2曲だけを日本歌曲にする。そして後半はイタリア・オペラのみにする。そして、アンコールを1曲は日本歌曲、もう1曲はイタリア・オペラの二重唱にする。そしてそこに、プログラム全体が「愛」や「祈り」などのテーマで一つのつながりができるようにする。そうすれば、ストーリーができる。私はコンサートの曲目にはストーリーが必要だと思う。そうしたプログラムの工夫があったら、もっともっと盛り上がったと思う。
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コメント
ティツィアーナ・ドゥカーティを聴いた、と言っても、CDでだが。このブログで、たびたび紹介され、絶賛されていたので、ぜひとも、ライブに接したいと願っていたのだが、先日の紀尾井ホールの公演も、台風19号の余波で交通が止まり、聴くことが適わなかった。そこで、彼女の後援会の自主制作によるCDを取り寄せて聴いたのだった。プログラムは、イタリア・オペラのアリアの名曲集で、特に小生の好みではないが、ヴェルディ、プッチーニ、ベッリーニ、カタラーニの代表的なオペラのアリアからで、プッチーニが大半。題して、「メロドラマ」となっている。ピアノ伴奏は、斎藤晴美で、秀逸。久しぶりに、まともなディーヴァ、を聴いた、想いである。音程とリズムが実に正確で、自然で震えるようなヴィブラートが素晴らしい。声質は、意外に乾いているが、柔らかく、しなやかである。リリコからスピントか。「ドン・カルロ」、「ワリー」、「マノン・レスコー」、「トゥーランドット」などの、ドラマティックな表現、「清らかな女神よ」、「歌に生き、恋に生き」、「ある晴れた日に」、「私のお父様」などの定番曲も、情感豊かで、切々として、心に響いた。紀尾井のような残響豊かなホールでのソロの再ライヴを切望したい。日本在住の親日家ということで、日本の唱歌も、ぜひ聴いてみたい、と思った。
投稿: おとだま | 2019年11月 4日 (月) 10時38分
おとだま 様
コメント、ありがとうございます。
おそらくまた来年も紀尾井ホールでコンサートが開かれると思います。ぜひ、お聴きになってください。こんなに素晴らしい歌手が人知れずに日本にいるというのは信じられないことです。
投稿: 樋口裕一 | 2019年11月 8日 (金) 15時58分