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是枝監督「真実」 虚構を通して真実が見えてくる

 学生のころ、カトリーヌ・ドヌーヴの映画を盛んにみたものだ。大ファンというわけではなかったが、ドヌーヴの映画が封切りされるごとに、なけなしのお金を使ってロードショーを見に行った。そのドヌーヴが是枝監督の映画に出演するとあれば、見ないわけにはいかない。

 ドヌーヴが演じるのは、かつての大女優であり、今でも活躍しているベテラン女優ファビエンヌ。自伝「真実」を出版したのを機会に、アメリカでシナリオライターとして活動している娘リュミール(ジュリエット・ビノシュ)が家族とともにやってくる。自分勝手で傲慢な母に翻弄され、むしろ母の犠牲になった人々に共感する娘は母親に強いわだかまりを持っていたが、それが徐々に解消していく。

 大まかに言えば、そのような話だが、そこに、ファビエンヌの姉である早逝した女優サラへの負い目がからむ。しかも、現在、ファビエンヌはサラの再来といわれている若い女優と共演する映画を撮影している。

 サラに似た女優マノンが演じているのは宇宙にいって年を取らなくなった母親の役。70歳を超したファビエンヌが20代のマノンの娘の役を演じることになる。ファビエンヌはマノンの中にサラを見るようになる。同時に、サラを母親のように慕っているリュミールもマノンの中にサラを見る。サラを核にしてファビエンヌの苦悩が見えてくる。こうして、嘘ばかり並べた自伝がきっかけとなって、女優という虚実をないまぜにして生きてきた一人の女性の真実が浮き彫りになっていく。

 そのような家庭劇が、まさしくほとんど屋内を舞台にして繰り広げられる。一人一人の心理が手に取るようにわかり、その心の奥も伝わってくる。子どもの演技も秀逸。地味ながら、まさしく秀作。

 地味な作品にならざるを得ないがゆえに、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュといった世界的名女優が必要だったのだろう。このストーリーでほかの人が演じると、リアリティがなくなり、大女優を題材にしたショボイ映画になる。本物の大女優を出してこそ、地味な家庭劇が輝きを持つ。

 それにしても、サラという人物の中に、私のようなフランス映画のオールドファンは、どうしてもカトリーヌ・ドヌーヴの姉フランソワーズ・ドルレアックを思い浮かべてしまう。きっとカトリーヌもこのヒロインのように姉の影をずっと感じて生きてきたのだろう。観客はそのような「真実」を探そうとする。是枝監督はもちろん、そのような効果も狙っただろう。

 是枝ワールド。熱狂はしないが、私はこの世界が大好きだ。

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