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新国立劇場「オネーギン」 抒情的情景としての名演!

 2019103日、新国立劇場で「オウゲニ・オネーギン」をみた。素晴らしかった。私の好きなタイプの演奏だったので、大いに興奮した。

 私はこのオペラをグランド・オペラとして演奏するのに強い抵抗を感じる。1960年代からレコードで抒情的情景としてのこのオペラに親しみ、初めて1970年代にボリショイ・オペラの来日公演に接して、あまりに豪華で大規模に上演されるのをみて、とてもがっかりしたのを覚えている。このオペラは「抒情的情景」なのであって、ものうげで抒情的な溜息のオペラなのだと私は頑なに思っている。大スペクタクル・オペラでは断じてない。

 今回の上演は、演奏も演出もまさに抒情的情景。

 私はこのオペラの第一幕が大好きだ。このオペラのものうげで夢見がちで内省的な雰囲気を決定づける。まさに抒情的情景! そうして徐々に盛り上がるが、決してチャイコフスキーの交響曲のような全身での感情表現にはならない。そこが素晴らしい。

 私はこの抒情的情景としてのオペラをしっかりと構成し、しなやかに美しく演奏してくれたアンドリー・ユルケヴィチの指揮が素晴らしいと思う。初めて聞く名前だが、見事な手腕だと思う。後半の鳴らし方も実にいい。深みがあって静かな叫びがある。東京フィルハーモニー交響楽団もまさしく抒情的で内省的な音をしっかり出していた。

 歌手陣のなかでは、タチヤーナのエフゲニア・ムラーヴェワが際立っていた。ヴィブラートの少ない澄んだ声で、音程がよく、美しく響く。手紙の場面の焦り、いら立ちもしっかりと表現している。立ち姿も美しい。オネーギンのワシリー・ラデュークは、前半、少し抑え気味に聞こえたが、最後の幕は声もよく伸びて素晴らしかった。ただ、もう少し斜に構えた拗ねた感じがないとオネーギンらしく見えない。レンスキーのパーヴェル・コルガーティンは美しい声で一途で神経質な青年を演じていた。グレーミン公爵のアレクセイ・ティホミーロフも朗々たる声で見事に歌って文句なし。

 日本人歌手たち(オリガの鳥木弥生、ラーリナの森山京子、フィリッピエヴナの竹本節子、トリケの升島唯博)も健闘していたが、やはり外国人勢とはかなり差を感じた。

 そして、いつもの通り、三澤洋史の合唱指揮による新国立劇場合唱団が素晴らしい。歌もさることながら、動きも見事。これは外国人勢にまったく引けを取らない。世界最高レベルの合唱団に成長したとつくづく思う。

 ドミトリー・ベルトマンの演出については、オリガやラーリナ、フィリッピエヴナ、トリケ、そして合唱団の動きにコミカルな要素を加えて興味深かった。大袈裟な悲劇になってしまうのを防ぐ意味があるように思った。大袈裟なスペクタクルになっていない。

 決闘の場面では、酔っぱらったトリケが介添え人として登場。オネーギンが介添え人を紹介するときのセリフも「フランス人」と変更されていた。そこまでする必要があったのか大いに疑問に思った。

 第一幕第一場が終わって音が静まったとき、観客席から叫び声が上がった。「もっとしっかり演奏しろ」というようなことを言っているようだった。オーケストラ団員をどやしつけたつもりだったのだろうか。が、オケは音を外したわけでもなかったし、アンサンブルが崩れているわけでもなかった。もしかしたら、「抒情的情景」として、静かに演奏していたのを、まるで気合が入っていないとでも思ったのではないか。いずれにせよ、上演が終わる前にこのような声をかけるのは演奏者に対しても観客に対しても、そして音楽そのものに対しても失礼な行為だと思った。

 だが、いずれにしても素晴らしい上演。久しぶりに私の理想とするタイプの「エウゲニ・オネーギン」を見ることができて幸せだった。

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コメント

私は初日に行きました。よかったですね。演劇的によく作り込まれた舞台だったと思います。

投稿: Eno | 2019年10月 4日 (金) 09時38分

私は初日に行きました。よかったですね。演劇的によく作り込まれた舞台だったと思います。

投稿: Eno | 2019年10月 4日 (金) 09時40分

Eno 様
コメント、ありがとうございます。本当に素晴らしい上演でした。
ブログを拝見しております。精力的にコンサートをお聞きになり、映画も見られているんですね。「サタンタンゴ」が上映されているとは知りませんでした。みたいと思っていますが、長時間なので、あまり自信がありません。

投稿: 樋口裕一 | 2019年10月 6日 (日) 12時27分

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