オペラ映像「さまよえるオランダ人」(初稿版)、「カヴァレリア・ルスティカーナ」「ヘリアーネの奇跡」
猛烈に忙しい事情があるのだが、ともあれ締切間近の原稿はなくなった。多少の余裕をもって生活している。つまり、外で仕事をして自宅に帰った後、休む間もなく原稿を書く必要はなく、そこはテレビを見たり、音楽を聴いたりできるということだ。そんなわけで、オペラ映像を数本見たので、簡単な感想を書く。
ワーグナー「さまよえるオランダ人」初稿版(1841年)2015年 アン・デア・ウィーン劇場
この上演での演奏はCDでは聴いていたが、映像は初めてみた。ミンコフスキの指揮らしくきびきびしてドラマティック。ワーグナー的な大きなうねりはないが、「オランダ人」にはこの演奏はぴったり。レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏も素晴らしい。まさしく嵐の音楽。聴き慣れたヴァージョンとはオーケストレーションがかなり異なる。
歌手陣は充実している。オランダ人を歌うサミュエル・ユンがさすがの歌唱。伸びがあるし、安定感もある。ゼンタのインゲラ・ブリンベリもとても美しい声。ゼンタにしてはリリックすぎるが、初稿にはこの歌手のほうがあっているのかもしれない。ドナルド(ダーラントという名前ではない)のラルス・ヴォルトも俗人っぽさがでていておもしろい。ゲオルク(エリックという名前ではない)のベルナール・リヒターは高音が少し苦しいが、全体的には美しい声。
オリヴィエ・ピイの演出は、ドナルドの船をアメリカのマフィア団のアジトに見立てたもので、見ててあきないが、そこに鋭い解釈があるとは思えない。
全体的には、何はともあれ、素晴らしい演奏だと思った。
マスカーニ 「カヴァレリア・ルスティカーナ」2019年2月 フィレンツェ五月祭劇場
サントゥッツァを歌うアレクシア・ブルガリドゥがとてもいい。澄んだ声も歌唱も姿かたちもこの役にぴったり。美しすぎず、ちょっとくたびれていて、しかし心が優しく純真で十分に魅力的。なかなかこんなサンタはいない!
トゥリッドゥのアンジェロ・ヴィラーリもとてもいいが、ちょっと後半苦しいところがある。アルフィオのデヴィッド・チェッコーニはこの役にふさわしく、まさに地域の親分。ルチアのエレーナ・ジリオ、ローラのマリーナ・オジーも役柄にぴったり。
ヴァレーリオ・ガッリの指揮については、私は特に印象に残らなかった。ルイージ・ディ・ガンジとウーゴ・ジャコマッツィの演出は、田舎町というよりも小都市を感じさせるもの。現代とのつながりを強調したかったのだろうが、そうすると、「田舎の騎士道」というこのオペラの最大の魅力であり、このオペラのテーマであるものから離れてしまうのを感じた。
コルンゴルト 「ヘリアーネの奇跡」2018年 ベルリン・ドイツ・オペラ
このオペラはCDを一度聴いたことがあるだけで、あらすじもほとんど把握していなかったので、今回初めてそこそこ理解してみたということになる。とても魅力的なオペラだ。「死の都」と雰囲気はよく似ている。シュトラウスの晩年のオペラを一層官能的にした感じ。オーケストラ・パートの音の重なりが実に美しい。
ストーリーは、寓話っぽいのだが、何を言いたいのかよくわからない。「影のない女」のような雰囲気がある。要するに、異国の男と暴君の妃が惹かれあって、妃が死んだ男を蘇らせ、次に妃が死ぬが、今度は男が妃を蘇らせて、愛の大事さを訴える・・・とでもまとめられるあらすじだが、もちろん多様な解釈が成り立ちそう。
ヘリアーネ役のサラ・ヤクビアクが魅力的な裸身を見せて見事に歌う。初めてこの歌手を知ったが、とてもいい歌手だと思う。声がきれいだし、強い声がいい。異国の男を歌うブライアン・ジャッジ、暴君を歌うヨーゼフ・ヴァーグナーがともに文句なし。特にヴァーグナーは妃の愛を得られぬ苦しみを説得力を持って演じている。
そして、それにも増して、マルク・アルブレヒトの指揮、ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団の力演に圧倒される。力のある音のうねりが素晴らしい。
演出はクリストフ・ロイ。全員が現代の服(スーツ姿)を着ている。もちろん意図的にそうしているのだろうが、死者を蘇らせたり、暴君が好き勝手に世界を動かしたりしているのだから、現代の服装は私には違和感が残る。時間も場所もわからないような舞台にするほうがすんなりと観客はオペラの世界に入れると思う。ロイが演出するのだから、そうはならないと分かったうえで言わせてもらえば、そもそもめったに上演されないオペラなのだから、まずはト書きに忠実であってほしいと思った。
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