オペラ映像「リッチャルドとゾライデ」「ノルマ」「異国の女」「イリス」
オペラ映像を何本か見たので、簡単な感想を書く。
ロッシーニ 「リッチャルドとゾライデ」 2018年 ペーザロ、アドリアティック・アレーナ
このオペラを初めて知った。とてもおもしろい。一人の美しい王女をめぐって異国の王と英雄が奪い合い、そこに王に捨てられて王女に嫉妬する女性が絡むという、まさにありがちなストーリーだが、歌の力で最後まで飽かせない。まさにドラマティック。ま、もちろん、作劇的には無理なところはたくさんあるし、不自然なドラマ展開はあるが、それは目をつむるしかない。
出てくる歌手出てくる歌手、みんなが圧倒的なのに驚いてしまう。だが、なんといっても、リッチャルドのフアン・ディエゴ・フローレスとゾライデのプリティ・イェンデがものすごい。二人とも輝かしい声。イェンデはアフリカ系の顔つきなので、オペラで歌うのにはかなりハンディがあると思うが、それをはねのけるだけの歌の力がある。本当に素晴らしい。
そのほか、アゴランテのセルゲイ・ロマノフスキー、ゾミーラのヴィクトリア・ヤロヴァヤも主役二人に決して引けを取らない。ロマノフスキーの高音の安定度も見事だし、ヤロヴィヤの技巧も見事。そのほかの歌手たちもまさに粒ぞろい。
ジャコモ・サグリパンティ指揮のRAI国立交響楽団もとてもよい。マーシャル・ピンコスキの演出もともあれわかりやすい。初めてのオペラにはそれがありがたい。
ロッシーニ・オペラの醍醐味が味わうことができ、歌手陣の名人芸を楽しむことができるという点で、やはりこれは素晴らしい映像だ。
ベッリーニ 「ノルマ」 2018年 ジェノヴァ、カルロ・フェリーチェ歌劇場
ノルマを歌うのはマリエッラ・デヴィーア。往年の輝きは失われたとはいえ、さすがの風格。声のコントロールの甘いところはあるものの、きれいな声でドラマティックに歌う。ポリオーネのシュテファン・ポップも伸びのある美声で、しっかりと歌う。ただ、アダルジーザ役のアンナリーザ・ストロッパがまだ十分に声がこなれていないし、歌唱も堅い。
指揮はアンドレア・バッティストーニだが、オーケストラの性能が良くないせいがあるのかもしれないが、ドラマが盛り上がらない。あるいは、もしかしたら、ベッリーニのオーケストレーションが薄くて少々稚拙なので、バッティストーニがドラマティックにしようとしても、むしろ空回りしてしまうのか。合唱もなんだか頼りない。ルイージ・ディ・ガンジとウーゴ・ジャコマッツィの演出はごくオーソドックス。
悪い上演ではないが、残念ながら、さほど感銘は受けなかった。
ベッリーニ 「異国の女」 2017年 カターニア、マッシモ・ベッリーニ劇場
初めてこのオペラをみた。ベッリーニらしい、気高く凛とした歌が続く。歌手たちもそろっている。アライデを歌うフランチェスカ・ティブルツィは、カラスの時代の歌手たちを思い出すような深い歌いぶり。イゾレッタのソーニャ・フォルトゥナートも清潔にうたう。アルトゥーロのエマヌエレ・ダグアンノ、男爵のエンリコ・マッルッチもみごと。
ただ、セバスティアーノ・ロッリの指揮するターニア・マッシモ・ベッリーニ劇場管弦楽団&合唱団はあまり精度が高くない。だんだん良くなっていくように思うが、最初のうちは少しストレスを感じた。
アンドレア・チンニによる演出については、私は少々疑問を感じる。第1幕は川辺の風景がとても良い雰囲気だったが、第2幕になると、ずっと水を張られたうえで歌手たちは演技する。水の上をジャポジャポと音を立てて歩き、服の裾を濡らしながら歌うことになる。見ているだけで私などはストレスを感じる。「水」をテーマにしたかったのだろうが、何もわざわざ水を張る必要はなかろう。
超一流の上演とは言えないにせよ、全体のレベルはとても高く、とても楽しむことができた。
マスカーニ 「イリス」2017年 リヴォルノ、ゴルドーニ劇場
井原広樹の演出。衣装や装置も日本人がかかわっている。そのおかげで、この日本を舞台にしたオペラの衣装や背景が日本らしくなり、登場人物の所作が日本人らしくなる。とりわけ、合唱団の顔と体形は間違いなく西洋人なのに、所作のために違和感がないのは、日本人としてはとてもありがたい。
全体的にとてもレベルが高い上演だと思う。イリスのパオレッタ・マッロクがしっかりした美声で見事。オオサカ役のパオロ・アントニェッティもきれいな声で見事に歌う。キョウト役のカルミネ・モナコ・ダンブロジアもいかにも怪しい人物をうまく造形している。
数回しか聞いたことのないオペラなので、演奏について何かを語ることはできないが、ダニエレ・アジマンの指揮によるプッチニアーナ・フィルハーモニア管弦楽団も悪くない。十分に音楽を堪能できた。とてもありがたい映像だと思う。
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